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現実に近い「サイバー空間」で民意を可視化--デジタルツインで10年後の課題解決を目指すNTT Com

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2021年01月26日 12時09分
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 迷子になっている子どもに声をかけるべきか、見ないフリをして通り過ぎた方がいいのか。地震や洪水が発生したときにすぐ避難すべきか、もしくは自宅に留まった方がいいのか。一見簡単に判断できそうに思えるこれらの状況だが、現実にはどちらが正解とも言い切れない。人助けするつもりだったのに誘拐犯と誤解されるかもしれず、避難中にアクシデントに巻き込まれて怪我を負う可能性もある。

 その場その場でどう判断するのが自分にとって、あるいは社会全体として正解と言える結果になるのか。もし現実と同じ世界がもう1つ存在して、最初はそして何度もそこで試すことができれば、リスクなしに「正しい」状況判断ができるようになるのでは……。

 NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)が、そんな現実世界に限りなく近い「サイバー空間」を作り、社会課題の解決に挑もうとしている。同社が2020年4月に設立した新規事業創出部門であるイノベーションセンターが「Smart Society」プロジェクトの一環として取り組むもので、その構想の核心に位置付けられるのが、新たに開発するシミュレーター基盤「Social Risk Management Platform(仮称)」だ。

 現実世界に即した情報を仮想空間に反映させる「デジタルツイン」と呼ばれる技術を用いて、人の行動から生まれる結果を探ることが可能になるというこのプラットフォーム。主に日本が抱える人口減、少子高齢化、労働力不足、自然災害など、今後10年のうちにますます深刻化すると考えられるさまざまな課題の解決に活用する方針だ。

「Social Risk Management Platform(仮称)」を基盤に社会課題を解決し、NTTコミュニケーションズの理念実現を目指す
「Social Risk Management Platform(仮称)」を基盤に社会課題を解決し、NTTコミュニケーションズの理念実現を目指す

 その第1弾が、防災の日がある9月頃に計画されている。まずは江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)における水害発生を想定した「市民避難実証実験」を行い、サイバー空間内での市民の避難行動から現実世界の課題をあぶり出すことで、行政や企業のサービス開発・改善につなげるのが狙いだ。

 Social Risk Management Platformによってどのようなことが可能になり、NTT Comはどんな世界を実現しようとしているのか。同プロジェクトを率いるイノベーションセンター プロデュース部門 部門総括である大貫明人氏に話を聞いた。

サイバー空間で課題を浮かび上がらせ、現実世界での解決を目指す

——まず、Social Risk Management Platform(仮称)を発表するに至った経緯を教えてください。

 われわれが2020年4月に設立したイノベーションセンターは、「Creating Shared Value(CSV:共有価値の創造)」を実現することで、社会課題の解決、それらに資する新規事業の種や新常識を生み出すことを一つの目標にしています。当社は情報通信会社ですので、社会課題の解決をデータ流通とデジタルトランスフォーメーション(DX)にて実現すべく、「Smart Societyプロジェクト」を2020年6月に立ち上げました。

 そこからまだ半年と言うこともあり、正直に申し上げれば、まだ構想段階ではありますが、見据えているのは10年後の日本社会です。人口減にともなう少子高齢化、労働生産性の低下、エネルギー不足など、日本には多くの課題があります。パンデミックによるニューノーマルの動きもあり、こういった世界を考えると、プライバシーの保護などに十分配慮しながらも、Social Risk Management Platformによってデータ流通をより民主的に、積極的に活用することが、すべてとは言えないまでも、少しでも社会課題解決に寄与できるのではないかと考えました。

——「データ流通とDXで実現する」とのことですが、それらの領域におけるNTT Comの強みを改めて教えてください。

 まずデータ流通については、情報通信会社として、通信ネットワークはもちろん、クラウド基盤も手がけ、SIの経験も長く積んできたことが大きいと考えています。官公庁様や多くの企業様の大切なデータをお預かりして管理してきたことからも、安心して通信サービスをご利用いただけるという点では一定の信頼を得ていると自負しています。

NTTコミュニケーションズ イノベーションセンター プロデュース部門 部門総括である大貫明人氏
NTTコミュニケーションズ イノベーションセンター プロデュース部門 部門総括である大貫明人氏

 DXの方も同様に、われわれはお客様の既存業務プロセスを改善革新するお手伝いをしてきました。私たちとしてはそのノウハウを生かしながら、現実物理空間にて時間的・場所的な制約を受け、課題を感じている人々を、少しでもそこから解き放てるようにしたい。そのために仮想空間、サイバー空間となるSocial Risk Management Platformを使って課題解決につなげる、ということをやっていきます。コミュニケーションの手法を最新化して一歩進んだ世界を作る。それも一種のDXではないかと思っています。

——構想中のプラットフォームでは民意をあぶり出すことを目的としているそうですね。たしかに今は誰もがSNSで発信できる時代ですが、そこから大局的な民意を把握するのは難しくなっているようにも思います。

 おっしゃる通りですね。声の大きい人、強い主張をもつ人はSNSで発信されますし、いいことだと思いますが、それが統計的に国民市民、あるいは有識者の声を正しく反映しているかというと、そうではないこともあります。サイレントマジョリティが大半だとも思いますので、そこはある意味民主的ではないわけですね。

 SNSから一歩前に進まないと、民主的にはなっていかない。でも、もし現実と同じような空間をバーチャルに作って、そこで普段と同じような生活を送りながらみんなで課題解決を目指していこう、みたいな世界ができあがるのだとすれば、SNSとはまた違ったコミュニティが生まれるのではないかと。SNSを置き換えようという意図はなく、共存していくものだという考えです。

 今回のSocial Risk Management Platformは、SNSのように個人が何かを特別にアピールするための新しい空間というより、現実とある意味変わらないように生活してくれる空間になることが望ましいと思っています。当然ながら、サイバー空間の中でも自分なりの主義主張や行動様式はあると思います。ですが、常識の範疇にて普段通りに生活して、他の人と互いに助け合えるような世界が作れるといいですよね。

——Social Risk Management Platformで実現するサイバー空間は、具体的にはどういった空間として目に見えるのか、イメージを教えていただけますか。

 今まさに検討中ですが、私としてはデフォルメしたものより写実的なイメージで作りたいと思っています。ゲームで言えば2Dではなく、「龍が如く」や「絶体絶命都市」のようなリアリティのあるグラフィック(笑)。現実とほぼ同じか、現実よりも魅力的に映るぐらいの現実感が出せたら、と思います。

 極力現実社会を投影したいので、動作させる端末はできればVRなどが望ましいのですが、多くの人にタッチポイントを用意することを考えると、まずはスマートフォン対応になると思います。

——誰でも利用できるサービスになると考えてよいのでしょうか。

 最終的には、もちろん誰でも入れる世界にします。個人認証を行いますので、バーチャル上は匿名でも実態としては本人と言いますか、たとえばマイナンバーと結びつけるなど、そういったデータ連携もしていきたいですね。大原則として、個人1人に対して1つのアバター。何度も作り変えられるわけではなく、アバターそのものについては現実と同じように個としては作り直しできない世界です。なお、直近のPoC(概念実証)時点では、できることは絞り込んで、このプラットフォームにパートナーとして参画される方だけに利用していただくことになりそうです。

——プロジェクトに関わるパートナーとして、どのような企業や団体を求めているのでしょうか。

 まず、私どもが運営するプラットフォームに対して、データや技術の面でパートナーとしてご協力いただける自治体や企業を募りたいと思っています。それによって作り上げたサイバー空間でシミュレーションを行って分析し、結果浮き彫りになった課題から、解決する方法や、新たなビジネスチャンスが見えてくるでしょう。

 ですので、そこには「センターB」として新たな商品・サービスを開発したい行政や企業、たとえば電気・ガス・水道などのインフラ事業者などが参画されることを想定しています。本当に人々が望んでいること、もしくは今まで人々が気づかなかったことが、このプラットフォームを通じて見えてくるはずです。そこで対価を支払いながらビジネスを開発していくのは市場原理にかなっていますし、さらに人々のためにもなり、社会課題の解決にもつながると考えています。

——自治体や事業者などは、センターBとして関わることでどういったメリットが得られるのでしょうか。

 われわれのようなインフラも提供している事業者だと、災害時でも通信サービスを提供できるのか、できなかったときはどうするのかをシミュレーションを通じて改善していくことができます。携帯電話の電波を中継する移動基地局の最適な配置も考えられるかもしれません。災害時に都市ガスをどのタイミングで止めるべきか、避難計画に合わせて公共交通機関の臨時便をどのように運行するのか、というようなことも検証できます。

 また、避難途中経路のどこで水分を補給できるようにするのか、被災者に提供する着替えはどうするのか、避難者が長期的に自宅から離れざるを得なかったときにホテルや住居をどう確保するのか、交通規制はいつどこで行うべきか。そういった部分を検討する自治体・企業も、センターBとして参画していただくことが考えられますね。

シミュレーションの結果から課題を発見し、サービス改善や商品開発につなげたい自治体、企業などが「センターB」として関わることを想定している
シミュレーションの結果から課題を発見し、サービス改善や商品開発につなげたい自治体、企業などが「センターB」として関わることを想定している

9月頃に実施される「市民避難実証実験」の内容とは

——このプラットフォームを用いて、9月頃に江東5区を対象に水災害を想定した実証実験を実施するそうですが、この場所やテーマを選んだのはなぜですか。

 日本ですと、少なくとも年に1度は台風被害がありますし、首都圏などに直撃することも当然あります。痛ましいことにこれまでも多くの方々が被災されていますし、特に2019年の台風では荒川などの堤防決壊が危惧されるほどでしたよね。そして、その川沿いにある江東5区は、今後数年から10年の間に、かなりの確率で再び大きな台風や水災害に見舞われる可能性が高いと言われていますよね。

 そうなったときに避難しなければいけないことは、江東5区の住民の方々250万人に対して自治体などが警告しているものの、現時点では「浸水や水没が想定される地域から避難してください」と言うことしかできないのが実情かと思います。行政や地域の方々が努力されて避難手順なども策定していますが、実際にその通りに試された方は多くないでしょうし、個人の備蓄もおそらく十分じゃない。保険に入っているとも限りません。というようなことを考えると、その状況下にてシミュレートしてみることは大いに意義があるのではないかと考えました。

 また、このようなプラットフォームをただ作っただけでは、人を呼び込むのは難しいものです。防災をきっかけにすることで、市民としてのユーザーはもちろんのこと、センターBとして参画していただく組織にも継続的な意義やメリットのある話になるはずです。そのような観点から防災をテーマに選んだ、ということになります。

——サイバー空間での避難訓練の内容について、もう少し詳しく教えてください。

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