NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は、新規事業創出に熱量高く取り組む大企業として一目置かれる存在になりつつある。同社では2016年度から、新たな事業を生み出すための社内ビジネスコンテスト「DigiCom(デジコン)」を毎年実施しており、毎回数百名がエントリーする大規模なイベントとして定着している。
6回目となる2020年度は、次の事業の柱を生み出すための“入り口”という意味合いをさらに強め、事業化を目指すビジネスコンテストに舵を切った。方針転換とコロナ禍が重なり、「相当チャレンジングな年だった」というが、入社2年目の若手チームによる宇宙関連事業が最優秀賞に輝くなど、同社の野心的な一面を印象づけた。
ここでは、DigiComを主催するNTT Com イノベーションセンターの渡辺昌寛氏、斉藤久美子氏、Thet Naing Htun(テ ナイントン)氏(以下テ氏)、片山達彦氏、大貫明人氏が、2020年度の「DigiCom」を振り返り、完全オンライン開催でも成長を続けるための工夫や今後の展望について語った。
——まずは、DigiComがどのようなイベントなのか教えてください。
渡辺氏:われわれが所属するイノベーションセンターは「次の事業の柱を生み出す」ことをミッションにしており、DigiComもそのための施策の1つです。ほかにも新規事業創出プログラム「BI Challenge」など複数のプログラムを並行して走らせていますが、ゼロから全く新しい事業を生み出すには1年間では足りません。
新規事業創出の最初の“入り口”として、DigiComというコンテスト形式で社内から広くアイデアを募り、優秀なチームはBI Challengeに合流して引き続き事業化を支援していく、そんな流れを持って新規事業創出に取り組んでいます。
——NTT ComのDigiComは、大企業における新規事業やオープンイノベーションのさまざまな取り組みの中でも、熱量がとても高く注目されています。その要因は何でしょうか。
渡辺氏:私自身、NTTコムウェアという会社に20年ほど在籍しまして、2019年にNTT Comに異動してきたのですが、DigiComの熱気やポテンシャルには正直驚きました。これは素晴らしいことだなと。
その要因は2つあると考えています。1つは、社員のやる気です。1〜2年目の若手から幹部クラスまで幅広い層が、実際に頭をひねりながらDigiComに参加してくれています。もう1つは、事務局の参加者に対する愛溢れるケアです。社員のやる気とそれに応える事務局、両者が上手く回っていることで施策が育ってきているのだと思っています。
——そうすると、事務局の人選が重要なポイントになりますね。どのような基準で集めているのでしょうか。
渡辺氏:DigiCom事務局は、イノベーションセンタープロデュース部門のメンバーで構成しています。自らが新たなビジネスを生み出す組織に所属し、新たなビジネスを作る当事者として活躍し、かつ、そこで得たノウハウや必要だと思った教育プランなど、よりよいものをDigiComに反映していく、そうした視点で動けるメンバーを集めています。
——社員のやる気やイベントの熱量を高めるために、事務局ではどのような工夫をしているのでしょう。
斉藤氏:基本的には社内全員を対象として、誰でも参加できるコンテストを目指してきました。そのために各組織内で取りまとめをしている方にDigiComについて丁寧に説明して部署内での告知に協力いただいたり、社内のポータルサイトで広く公募するなど、ボトムアップでの草の根活動をしっかり行うようにしています。
また1回目実施後、参加者アンケートで「コンテストに参加してると周囲から、遊んでいると思われそう」という声もあったため、DigiComの活動を業務として認めてもらえるよう幹部層が参加する会議で開催を宣言し、社員がDigiComに参加することをトップダウンで後押しいただきたいとお願いをしました。
——2020年度にDigiComは方針転換したそうですが、どのように変わりましたか。
渡辺氏:これまでのDigiComは、全社的に自らが新たなDX創出の担い手となるという意味でデモを必須にするなど、ハッカソン的な要素も多々あるものでした。2020年度は組織再編にともなって、DigiComの目的もイノベーション創出にフォーカスし、本気で新規事業を作りたい人をターゲットにするために方針を変更いたしました。
テ氏:また、DigiComで生まれたアイデアのイグジット先を、社内の新規事業創出プログラムであるBI Challengeと位置づけるなど、両者のつながりを明確にしました。BI Challengeにある5つのステージ※のうち、DigiComの参加者にはBI Challengeのステージ1と2の「起業家マインド醸成」「アイデアの具現化」の教育プログラムを提供し、DigiComで優勝した宇宙関連事業のSpaceTechチームなどは、BI Challengeのステージ3や4に合流して、事業化まで継続して支援していく予定です。
※BI Challengeのステージ制
事業化までの過程を5つのステージで区切り、ステージアップの際の審査を実施する。
ステージ1:事業アイデアの仮説構築
ステージ2:ユーザーインタビューの実施
ステージ3:ステークフォルダーインタビューの実施
ステージ4:MVP検証
ステージ5:事業アイデアの実現可能性の確認
——コンテストでの評価の基準なども変わったのでしょうか。
渡辺氏:新規事業創出において、大企業にありがちなトップダウン的に進めるよりも、本当にユーザーが求めているのか、世の中に必要とされているのかを最初に確かめるという点は、評価においてもDigiCom参加者への教育プログラムに関しても、重要視しました。
斉藤氏:2019年度までは開発とデモが必須でしたが、新規事業創出においてアイデアをニーズ調査なくそのまますぐに形にするというのは違和感があります。デモを課すことよりも、事業の需要性や解像度の向上を重視するようシフトしました。
片山氏:それに対して教育プログラムでは、デザインシンキング、ユーザーヒアリング、ビジネスモデル、ファイナンスを組み込みました。自分たちのアイデアを外部に問う、つまり市場に対して新規事業の価値を問うことと、アイデアが収益を生み事業化すること、この2点の育成を徹底的に強化した形です。
——DigiCom参加者向けの教育プログラムは、かなり手厚い印象です。
片山氏:DigiCom参加者には、より本腰を入れて事業化をお願いするのだから、スキルやナレッジの差分を埋めてもらうためのサポートの提供も非常に大切だと思い、2020年度はお金と時間をかけて育成にあたりました。
たとえば、NTTグループのOBで西アフリカの電力化事業を手がけるベンチャー企業の社長さんに事業の根本的なあり方を語っていただくことで視座を高めたり、(企画段階からDigiComに協力している)フィラメントさんから事業計画書の書き方を教わるセミナーを開いたり、市場調査や仮説検証をする際に有識者をマッチングしてくれるサービス「ビザスク」を利用して業界トップの方に話を聞いたりするなど、実践的なコンテンツも用意しました。
斉藤氏:「DigiComに費やした時間が無駄にならないように」ということは、2016年度のスタート時から心がけてきたことです。コンテストでの成績に関わらず、DigiComでの経験が参加者の皆さんの今後に生きるよう対応したいと思っています。
——参加者のやる気が高まり、幅広い層の参加が期待できそうですね。2020年度の参加チームならではの特色などはありましたか。
斉藤氏:新しいことへのチャンジ意欲が高く、研修やワークショップで何か吸収しようと思っていらっしゃる方は変わらず多いですね。リピーターも多いです。
仕事の延長でエントリーするチームもあれば、お客様を一緒に担当している営業と開発担当でチームを組んだり、同期つながり、役職別研修つながり、社員寮つながりなどチーム構成は毎年さまざまです。2020年度の特色としては、コロナ禍でリモートワークが続き世の中的にも先行きに不安を抱えるなかで「自分たちの力で世の中をよくしたい」と考えてDigiComにチャレンジしてくれたチームが多かったように思います。
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