新型コロナウイルス感染拡大防止による外出自粛や非対面における業務の推進など、仕事のやり方が大きく変わった2020年。建設業界でも遠隔、非対面、デジタル化といったデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められた。勘や経験に頼る部分が大きく、DXが進んでいない業界の1つに挙がることも多い建設業界で、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革は広がっているのだろうか。
2020年12月10日に開催された、オンラインイベント「DX銘柄2020受賞企業が見据える建設DXの未来」では、経済産業省が東京証券取引所と共同で実施する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020」に選定された建設会社の鹿島建設 秘書室コーポレート企画室の真下英邦氏、ダイダン 上席執行役員CIO兼経営企画室長の佐々木洋二氏、理事経営企画室の鹿又一秀氏が登壇。「建設業界におけるDXの今後の方向性」をテーマにパネルディスカッションを実施した。モデレーターは、デジタルベースキャピタル 代表パートナーの桜井駿氏が務めた。
鹿島建設は、AIやIoTといった先端デジタル技術を活用した「鹿島スマート生産」や「建設機械の自動化を核とした次世代の建設生産システム」による建設生産プロセスの変革を実現。業界共通の課題である人手不足の解消につながる取り組みが高く評価された。
一方、ダイダンは、本社、支店から現場に効率的な支援を実現する「現場支援リモートチーム」やクラウド型ビル監視制御システム「REMOVIS(リモビス)」を開発し、現場におけるデジタル技術を活用した生産性向上(i-Construction)を推進している。
業務のデジタル化、効率化を業界でリードする2社が、DXを推進する上での取り組みや、業界の現在地、今後の展開などを質問形式で紹介する。
真下氏:まだ歩みが始まったところと捉えている。デジタルを駆使した究極の建設は人手をこんなにかけて作るものではないだろうし、かつ、私たちが提供するのはビルなど単なるハードでだけではなくて、そこを使う人たちへの安心や喜び。そう考えるとまだやるべきことはたくさんあり、始まったばかりと捉えている。
佐々木氏:まだスタートしたばかりと個人的には考えている。デジタル化と言っても紙、鉛筆、電卓をPC、タブレット、CADに置き換えただけというのがたくさんある。ただ、通信環境がよくなることで、成果は少しずつ出てきた。ダイダンで言えば、現場支援リモートチームは通信環境が整ってこそ、活用できるようになったもの。
そう考えると、DXの現在地は登山に例えると山の中に入ったところ。最近の状態を考えるとちょっと頂上が見えなくなりながら前に進んでいるという認識だ。
鹿又氏:私たちの業界は土木と建設の2つに分かれ、土木は自動化の取り組みが目覚ましいと感じている。建設は限られた敷地と建物、新築、既存など、一品一様であることが、デジタル化を阻害してきた要因の1つ。私たちが提供したいのは、空調や電気などの設備を使い、ビル内にいる人への快適な環境で、これはこの先も変わらない。
建設業界におけるDXは、そのほかの業界で言われている華やかなビジネスモデルとは違い、快適な環境を作り出すプロセスに光を当て、そこを省力化、最適化していくことが有効だろう。登山で言えば、1、2合目という感覚だ。
真下氏:一言で言えばビジネスモデル。これも建設領域と新領域では違う。建設におけるビジネスモデルの課題は、分断されていること。企画、設計、施工、管理とバリューチェーンも分かれており、それぞれの会社が領域ごとに働き、縦の階層に分かれている。製造業のDXを見ると、トータルで考え、作業を分析し、いいやり方を組み立てている。地味な作業かもしれないが、それがDXのベース。建設業はやりにくい産業構造だが、ここを解決しないと大きなジャンプはこないと思っている。
もう1つ、新領域での課題は事業の広げ方の問題。建設業はものづくりの専門家であり、1人1人のユーザーの気持ちに寄り添うことはあまりしてこなかった。事業を広げる際にこの感覚を持っている人が必要になるだろう。
佐々木氏:ビジネスモデルを理解した上で、どこにデジタル技術を適応したら良いか検討する人材がいないこと。いくらよいものがあっても適応場所を間違えると機能しない。現時点で解決手段は思いついていないが、建設業界以外の人とのコミュニティができてくると、アドバイスがもらえるなど、課題解決に向かうのではと思っている。
鹿又氏:建設現場は一品一様で、裏を返せば非常に多くの現場を抱えているということ。その1つとして同じ条件の現場はなく、工場、オフィス、病院と用途もさまざま。企画から設計、施工とステージごとに関わる会社も変わる。スタッフのITの習熟度も異なるため、新たなシステムを普及させていくこと自体が非常に大変。多くの現場に普及させること、それが課題と感じている。
真下氏:鹿島スマート生産や建設機械の自動化を核とした次世代の建設生産システムは、工事の部隊から上がってきもの。現在はさらにステップアップさせるフェーズに来ている。社内には部門をこえる組織体を作り、そこを中心に新しい取り組みを進めている。一方で「デジタル戦略会議」も立ち上げ、ここは役員が議論する場になっている。
佐々木氏:現場支援リモートチームは、1つの部署が始めたもの。事例発表があり、それを本部が引き取って全国展開した。やはり現場から上がってきたものは効果が実感でき、ほかの現場でも使ってもらいやすい。先陣を切ってこの取り組みをしているのは、社長(ダイダン 代表取締役社長の藤澤一郎氏)で、「現場のよいものを吸い上げろ」と私たちは言われている。そのためにはCIOが必要だろうと、2020年の4月にこの体制になった。トップが旗振りをしてよいものを吸い上げる形にできたと思っている。
研究開発においても、できたものをいきなり使えではなく、モデル現場を選定し、試し、効果を見る取り組みをしている。以前から現場の声を拾いやすい環境だったのかと言われるとそうではなく、吸い上げる仕組み作りとして事例発表の場を設けた。現場ごとに「こういう取り組みをしたら効果があった」という事例はあったが周知はしておらず、知らせる仕組みを作ることで、社内に広げられた。
真下氏:当初は中央で考えて、システムを作り、社内に掛け声をかけていたがそれだと実際は動かない。それを感じてからは、少しずつ方向を転換し、効果を見極めながら広げていった。小さく作っていくやり方に変更した。
ビルのデータを取得して分析してといった新領域の部分では、私たちだけではできないと考え、そうした技術を持ち、使いやすいユーザーインターフェースを作れる会社とともに開発した。一緒に作ってみると、ビルで働く人、一人ひとりのパーソナリティまで深く考え、今までにないサービス設計ができた。これは私たちだけではできない。違う会社の方と一緒にやったからこそ、新しい世界が見えた。それはとても大きな違いで、違う世界にいったような感じがした。
佐々木氏:各現場で先進的な取り組みをしている事例は数々あったが、部分最適のような形になっており、それを全体最適にしていかなければと思った。いきなりいろいろなことをするのではなく、全社のレベルを上げることが必要。また、リモートワークやオンライン会議など、現場の対応が素早く、非常に進んでいたことを、緊急事態宣言下で実感した。
鹿又氏:やはり現場は新しいシステムや動きに対してアンテナの感度が高い。そうした動きに対して、本部がすることはセキュリティや情報漏えいに気をつけること。そうした措置をしっかりととった上で、現場に自由にやってもらうことが大切。その中から「使える」ものが浮かび上がってくる。社内における事例発表も功を奏している。
一方で、中央からニーズを汲み取っての開発も効果的に動き始めた。下と上、両方から新たな取り組みを進めるのがよい形ではないかと思っている。
真下氏:デジタルデバイスを使いこなせないのには2つの理由がある。1つは使いたいけれど苦手という場合。もう1つはやればできるが、やらないという気持ちの問題。苦手という人に対しては、サポートの仕組みを作り、駆けつけも含めサポートしている。カバーできないものに関しては、デジタルデバイスが得意な若手が操作を担ったり、教えたりしている。ただ、新しいシステムを導入するときは、使いやすさや説明を受けなくても使えるというわかりやすさが重要だと思っている。
もう1つ、できるがやらないという人に対しては、実例を作って見せている。小さくてもいいから実績を作り、実際に使っている人から直接話してもらう。そうした取り組みが大切だと感じる。
佐々木氏:緊急事態宣言下では、予想以上にリモートワークやオンライン会議が定着していたので、スムーズに移行できたように感じているが、もしかしたらそこから漏れてしまったスタッフがいるかもしれない。そう考えると現時点では十分な手当ができておらず、周囲のスタッフが教えるなどアナログな手法をとっている。
鹿又氏:繰り返しわかる人が教えているのが現状。幸いなことに通信環境が早くなり、デバイスも高機能化している。アプリも使いやすくなっているので、難しいと思った人でも使えているように感じる。
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