建設×テクノロジーで、業界を変えていくConTechの取り組みが進められている。10月23日、デジタルベースキャピタルと桐井製作所は、国内外のConTechに関する調査・研究を行う「ConTech LAB(コンテックラボ)」の設立を発表。建設業界とスタートアップらが交流、相互理解する場を提供する。
11月11日には、ConTech LAB 設立記念イベントをオンラインで開催。1964年に設立した建材メーカーである桐井製作所 代表取締役社長の桐井隆氏、清水建設の社内事業家制度を活用し設立し、現在、不動産管理クラウドSaaS「@プロパティ」を手掛けるプロパティデータバンク 代表取締役社長の板谷敏正氏、不動産×テクノロジーを推進するGAテクノロジーズ 執行役員CAIOの稲本浩久氏が登壇し、「建設業界におけるDXの今後の動向」をテーマにパネルディスカッションを実施した。モデレーターは、デジタルベースキャピタル 代表パートナーの桜井駿氏が務めた。
桜井氏によると、建設分野を手掛けるスタートアップは国内に50~60社程度あり、100~130社程度の不動産、200社以上がひしめき合う金融に比べ、かなり数が少ないとのこと。その中でも、プロパティデータバンクに触れ、「清水建設という大手企業の中で生まれ、ゼロからITによる会社を作り、株式上場までしているケースはほとんどない」とコメントした。
これを受け板谷氏は「当時、社内では数十のアイデアがあり、そのうちの5つくらいが会社になっている。新規事業はなかなか成功しないと言われ、親会社の下請けになるパターンも多いが、プロパティデータバンクはレアケース」と説明した。
ConTechという言葉が登場し、建設業界におけるIT化、DXの推進が言われているが、現状はどうなっているのか。桜井氏が「建設業界におけるDXや新しい取り組みの現状はどうなっているのか」とまず訊ねた。
桐井氏は「建設業界はきつい、汚い、危険の3Kと言われ、敬遠される時代もあった。しかしこれは改善されてきている。ただ、現場では勘、根性、気合、経験など、3K以外の『K』がまだたくさんあり、このあたり近代化がされていない。『技術は見て盗め』など昔ながらのやり方がいまだに通用する業界。これを全否定はしないが、時代的に受け入れられない世代も増えてきている。少子化も相まって、建設に携わる人数は減っていきている。このままいくといずれはお金があっても建築物ができない時代が来ると思う」と現状を話す。
実際、以前では考えられなかった不具合が起こったり、品質的な問題が生じたりしているとのこと。「こういう状況が続くと業界の先行きが不安になる」(桐井氏)と訴えた。
不動産、建設の両方に携わる板谷氏は「不動産は2000年に証券化という大きな変化があった。その後登場したJ-REITは、アセットマネジメント、プロパティマネジメント、金融機関が企業間の連携をしながら不動産を管理し、しかも情報開示は世界一進んでいると言われている。これは大変大きな変革をもたらした。管理の仕方も近代化しており、新ビジネスの商習慣が一気に広がった」と当時の変化を説明。さらに「業界の変革が一気に進んでツールも生きた。不動産は証券化という良い波が訪れ一気に進んだ。建設も好景気の波が来て、各所でDXが進んでいるが、テレワークや在宅勤務といった2020年を経て、より進んでいくと思う」と述べた。
一方、不動産業界のDXをリードするGAテクノロジーズの稲本氏は「私の理解では、IT化とDXの違いは継続的にやるかどうか。各社IT化は進んでいるが、導入したツールを改善し、使いこなす取り組みはまだ進んでいないと思う。社内向けのツールを作って現場に持っていくと、ありがとうとは言われるがそのまま放置されてしまうことも多い。試行錯誤して、使ってもらえるようになって、ようやく欠かせないツールになる。そこまでできてやっとDXができたと言えるのではないだろうか」とコメントした。
自ら「GAテクノロジーズは特殊」と語る社内の現状については、「代表(代表取締役社長CEOの樋口龍氏)が不動産テックを推進したことが何より大きい。新型コロナの影響は不動産業界にも大きく及んだが、私たちはコロナ前から、オンライン面談ツール開発などに取り組んでいた。その取り組みに興味持ってくれる会社の方は非常多い」(稲本氏)と、コロナ以前からの取り組みが、実を結んできているという。
建設業界におけるDXの現状を踏まえた上で、桜井氏が「より良くするための課題は何か」と問いかけると、稲本氏は「不動産でいうと情報の不透明性。取引の過程をデジタル化してみると、滞るポイントが何箇所もある。その部分を変えないとDXは進まない」と不動産業界の透明度の低さを指摘した。
「既存のビジネスモデルを破壊ではないけれど、ライバルにするくらいの新しいビジネスモデルを考えたい」と話す板谷氏は、抜本的な改革を強調する。「現状のビジネスの延長線上での工夫はどこも取り組んでおり、良いツールもある。小さな工夫の積み重ねに陥りがちだが、大きく仕事のやり方を変えるなど、新しいビジネスモデルを生み出し業界に刺激を与えないといけない」とした。
一方、桐井氏は「施工会社とサービスを提供するスタートアップの両方に課題がある。施工会社は利益率が下がってきており、職人も現場管理者も忙しい。複数の現場を掛け持ちせねばならず、なかなか手が空かない。頭ではDXをしなければとわかっていても、この忙しさからなかなか導入が進まない。一方、スタートアップは施工会社にアクセスがしづらい。建設業界には独特な習慣があり、そこを理解しないとミスマッチの提案をしてしまうこともある」と双方の課題をあぶり出す。
さまざま課題を抱える建設業界のDXだが、解決の糸口は見えているのだろうか。桜井氏が「課題解決に必要なものを強いてあげるとすれば」と聞くと、稲本氏は「何より継続的な取り組み。データやデジタルには、競争優位性があると認識することが大事」と継続性を訴える。
これに対し桜井氏が「継続性という意味では、(稲本氏が所属する)GAテクノロジーズはDXを継続させる『DXのライザップ』みたいなものがあるのでは」と問いかけた。それに対し稲本氏は「社内にエンジニアを抱えていることかもしれない。GAテクノロジーズでは約500人の社員がワンフロア(現在は2フロアに変更)で働いているため、エンジニアも現場との接点を持ちやすい。例えば作ったツールが使いづらいと他社では『これはだめだ』で終わってしまうが、GAテクノロジーズでは、改善を続けられる」と答えた。
板谷氏は「データ、デジタル化を分析して改革につなげることが課題」と説く。「すでにツールを使うだけで、データが貯まる環境が整っている。しかしこれはクラウド以前からできたこと。以前、建物修理に関する記録の分析をしたことがあるが、パソコンやダンボールに入った書類など保存法は会社によってさまざま。しかしそれらをきちんと分析すると、何年程度で設備が壊れるかという残存寿命曲線が統計として出てくる。ある会社では修理の原因がデータ項目に入っており、一つ項目が増えることでより深い解析ができた。クラウド、SaaS時代の今こそ、貯まったデータを分析して仕事に活かしてほしい」とデータサイエンティストの重要性を説明した。
建材メーカーとして長く建設業界に携わる桐井氏は「施工現場の生産性向上に必要なのはDX。そこで私たちが提供できるのは営業的なノウハウ。ほとんどスタートアップは開発面を重視しており、営業は追いつかない状態。だからこそ、私たちの営業ノウハウを使ってもらいたい。施工会社とスタートアップの単なるマッチングではなく、お互いの要望を理解した上で話をすすめられる」と長年培ってきたノウハウを、課題解決に向け提供する方針だ。
桜井氏は「施工会社もスタートアップも思いを持ってやっていくことが大事。そこが共有できると、周囲の人たちも突き動かされて一緒にやっていける」とし、桐井氏は「建設業界に携わるすべての人が夢を持って、仕事に取り組んでいるようにしたい。次の世代の人が喜んで入ってこられるような業界にしていきたい」と話した。
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