神戸市は、新型コロナウイルス感染症対策に関連するさまざまな課題解決の取り組みを市内外に発信することを目的としたバーチャルイベント「KOBEスタートアップピッチ〜STOP COVID-19×Technology」を12月22日に開催した。イベントは仮想オフィス空間サービス「VirBELA(バーベラ)」上で開かれ、発表後の交流会も含めてリアルに近い演出を体験することができた。
神戸市はこれまで、スタートアップや新規ビジネスを支援するイベントを数多く開催している。コロナ禍でもいろいろなツールを用いて、フルオンラインでプログラムを実施するなど積極的な取り組みを進めてきた。あわせて、イベントを開催する最も重要な目的の1つである、ビジネスを支援する投資家やパートナーとの出会いの機会をどのように設けるかを模索してきた。そこで選んだのがVirBELAだったという。
VirBELAは、リモートコラボレーションの課題を解決するために構築された、没入型の仮想世界プラットフォームを提供するサービス。ユーザーは3Dアバターでバーチャル空間に設けられたオフィスや会議室を利用でき、空間内を自在に移動できる。手を挙げたり、拍手をしたり、さまざまなリアクションができ、チャットやマイクを使った肉声での会話もできる。
同じ空間にいるアバター同士の会話は他の参加者にも聞こえ、距離によって大きさや位置が変わるのでリアルと同じような感覚で会話ができる。また、会話中はアバターに吹き出しが表示されるため、誰が話をしているのかが遠目でもわかる。部屋を移動すればプライベートな会話もできるなど、さまざまなコミュニケーションの方法が選べる。
この日のイベントは、最初に参加者が一堂に会するメイン会場のカンファレンスルームで神戸市の施策紹介やピッチイベントが行われた後、個別に商談したり談笑できる交流スペースへ移動して、参加者同士が交流する時間が設けられた。バーチャル空間には神戸市やスタートアップの関係者に加え、全国の17の自治体と報道関係者らをあわせた50名以上が参加した。イベントの模様はYouTube LIVEでも公開された。
神戸市がVirBELAを利用したイベントを開催するのは今回が初めて。バーチャル空間を利用する理由について、神戸市 企画調整局 医療・新産業本部 新産業部 新産業課課長の武田 卓氏は「コロナ禍でスタートアップの方たちが失っている営業の機会や新たな顧客の獲得、資金調達や情報交流の機会をバーチャル空間を通じて提供し、セレンディピティ=偶然の出会いにつなげたい」と説明した。今後もイベントやオンライン経営相談などでバーチャル空間を利用し、エコシステムにつなげる取り組みを進める予定だ。
内閣府 科学技術・イノベーション担当 企画官の石井芳明氏からは、政府としてもスタートアップを支援する施策を打ち出しており、神戸市が全国で4カ所ある「スタートアップ・エコシステムグローバル拠点都市」の1つに選ばれたことが紹介された。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進が社会課題となり、カンファレンスやミーティングのオンライン化が進む中で、今回の神戸市のような新しいツールを使った取り組みはチャレンジングで、新しい働き方やビジネスを進める大きな試みである。スタートアップが活躍する環境整備においても個人間のつながりから組織のつながりに拡げていくことは大事で、これからもいろいろな人たちがバーチャル空間でつながることに期待している」(石井氏)
ピッチイベントには、医療環境サポート事業で神戸市の地域中核を担う5つの病院に遠隔集中治療支援サービスを導入しているT-ICUをはじめ、神戸市民の生活や市役所内の業務において新たな課題の解決を目指す「STOP COVID-19×Technology」から4社。神戸市とシリコンバレーのシード投資ファンド 500 Startupsによるアクセラレーションプログラム「500 KOBE ACCELERATOR」から2社の計7社が登壇した。
VirBELAが日本に進出したのは5月のため、ウェブサイトや登録ページは英語だが、操作に必要なメインメニューなどはほぼ日本語化されており、バーチャル空間内ではスタッフがサポートするため、運用にはそれほど問題はなかったようだ。ただし、最初にダウンロードするアプリケーションが大容量になるため、使用するPCやインターネット回線はある程度のスペックが必要になる。筆者の場合は、発表中は音声が途切れたり、発表のスライドが表示されなかったり、うっかり操作ミスで何度か空間に入り直す必要があった。
登壇者に話を聞いたところ、多くがリアルでの発表と同じような緊張感があり、終了後もいろいろ交流ができてよかったという感想が聞かれた。個別のルームもあらかじめ用意されたテンプレートを使うだけなのでほとんど手間はかからず、交流もスムーズにできたという。
高齢者向けに独自のウェアラブルを活用したオンラインでの運度メニューを提供するMoffや、AIを活用したリモートでのジムトレーニングを提供するSportipは、今後のビジネスでバーチャルの要素を取り入れを検討するヒントになったと語っていた。
早押しクイズアプリによるアクティブツメコミラーニング「はやべん」を神戸市民に提供している、いま-みらい塾は「同時性という点でユーザーの環境が影響するバーチャル空間を利用するのはまだ時期が早いかもしれないが、可能性という点では活用を視野に入れたい」と語っていた。
今回のイベントではビジネスで使いやすいことやグローバルに対応している点でVirBELAを使用したが、これから新しいサービスが登場する可能性はある。神戸市側も大事なのは偶然の出会いや声を掛け合えるきっかけを提供することであり、よりよい方法で実現できるツールがあれば検討していくとのことだ。
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