INDUSTRIAL-Xとシェアエックスは12月11日、オンラインカンファレンス「Conference X 〜コロナ禍を生き抜く『クロス』戦略と最新事例」を開催した。コロナ禍において企業やビジネスパーソンが持続的成功を得るためのカギを披露するイベントである。ここでは、組織だけでなく個人のあり方まで幅広く語られたセッション「Business Transformation」の内容を抜粋して紹介する。
ファシリテーターを務めた三井不動産 ベンチャー共創事業部の光村圭一郎氏はまず、「コロナ禍で社会が大きく変化し、コロナ禍を前提とした生活も1年におよぼうとしている。コロナ禍の変化で注目している点は」と問いかけた。
これに対し、TOUCH TO GO(JR東日本スタートアップとサインポストの合弁会社)の代表取締役社長である阿久津智紀氏は、「事業体の収支構造が変化した。そもそも鉄道による移動が制限されている。駅周辺の小売りや飲食、ホテルなどの売り上げが圧倒的に低下し、受容体が成り立たなくなった。既存の事業体は『売り上げ10%低下』の対策は考えていたが、『売り上げ30%低下』を想定できていない。この点にいち早く取り組んだ人が勝てる」と話す。
マネックス証券 代表取締役社長の清明祐子氏は「コロナ禍で働き方を含めた価値観の多様化が加速している。企業であれば(顧客に提供する)付加価値を再考しなければならない。外圧として再考せざるを得ない状況を生み出した」と語る。
Chatwork代表取締役CEOの山本正喜氏は、政府の緊急事態宣言発令から一気に自社ソリューションの利用数が増大したと説明しつつ、「(リモートワークを実現するソリューションが)急速に加熱し、しばらくしたら急激に日常へ戻って出社した。コロナ禍で変化した部分と変化していない部分の『分断』が広がりつつある。その分断がどのような影響を及ぼすのか注目している」と語った。
光村氏が「変化する・しないの線引き」を尋ねると、「収益が変化していない企業は『まだ大丈夫』と思っている。収益が落ち込んだ企業は変わらざるを得ない。その意識差」(阿久津氏)。
山本氏は「おっしゃるとおり危機感の違い。IT業界は在宅勤務へのシフト率が9〜10割という世界。コロナ禍以前からリモートワークを常態として取り入れた企業は容易だったが、コロナ禍後にリモートワークの導入を試みた企業は苦労したと思う」とコメントした。
光村氏がマネックス証券の勤務状況を問うと、清明氏は「一般的に金融業の在宅勤務は難しいといわれているが、弊社はオンライン証券のため、口座開設から各種取り引きがオンラインで可能。そのような理由で早期に在宅勤務に切り替えることができた」と説明。その上で「4月時点で個人情報を扱う業務担当者の在宅勤務は難しかった」(清明氏)という。緊急事態宣言発令下で同社従業員の約5割が在宅勤務、現在は約7割の従業員が出社している。
多様な働き方を希望する若い世代が、コロナ禍で実施したリモートワークで「利便性を実感してしまった。パンドラの箱が空いてしまったと感じていると光村氏。しかし、山本氏はコロナ禍で発生した根本的な変化について、「IT食わず嫌いが治ったこと」だと強調する。以前のITソリューションは高額で運用も難しかったが、オンラインコミュニケーションツールを使わざるを得ない状況下で試し、使えることに気付いたというのだ。
「この一歩を社会全体が経験した」ことが大きいと山本氏はいう。さらに「これまで通勤など苦労を重ねてきたのに、『このままでいいのか』と気付いてしまった。それが離職につながって(企業が)選ばれなくなり、社会が動いてくことになる」(山本氏)と付け加えた。阿久津氏も「これまで1日もリモートワークをせずに来てしまった。フロント側のIT化は進んでいるけれど、社会基盤などバックエンド側は圧倒的に遅れている。ITと相性の悪さに気付いて、担当者は相当困っているのでは。一種のビジネスチャンスに捉えている」と話す。
清明氏も「私も出社している。リアルなコミュニケーションが必要なので」とコメント。光村氏は「たとえば自分に持病があれば外出時の感染リスクは存在する。そこに企業が『出社厳守』というルールを当てはめると、個人は許容度の差で反発してしまう。その違いをシンプルにルール化し、個々の感覚を尊重できるか否かが1つのカギになる」とまとめた。
次のテーマとして光村氏が「オフィスはコストを払ってまで行くべきところか。コストと恩恵のバランスが取れていないのが現状。コロナ禍以前からあった課題の1つだが、変化は生じているか」と個人に焦点を当てると、阿久津氏は「(JR東日本が)人間以外を運搬し、地方に住むといった取り組みを行っている。湯沢にあるリゾートマンションの空室席率が減少しており、東京から半径100キロ内の地方が面白い」と現状を説明した。
このように個人も自律心、仕事に対する主体性を持たなければならない状況にあると、各パネリストがコメントする中で、「人間は基本的に『変わりたくない』のが本能。ただ、市場や時代は常に変化をしている。経営は変化したくない人たちを変化させること」と山本氏は話す。
「マネックス証券もスタートアップ気質は残っているが、もう22年目。どうしても同じことの繰り返しなってしまう。失敗を許容する文化はあるので、そこにもう一度気付いてもらう後押しが必要」と清明氏が話すと、阿久津氏も「(コロナ禍で)自律性のあるなしが大きい。前述した二極化が加速しそうだ。自分自身は現場の感覚が薄れるのが怖いので出社している」と考えを述べた。
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