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【事業開発の達人たち】ソニー最年少統括課長が気づいたオープンイノベーションの極意

永井公成(フィラメント)2020年12月10日 08時00分
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 ソニーのスマートウォッチ「wena 3」が11月27日に発売されました。今回は2016年に始まるwenaシリーズの第3世代として、新たにSuicaやAlexa、Qrioなどに対応し、セイコーやシチズンとのコラボモデルもリリースしました。

 発売に先駆け、フィラメントCEOの角勝はソニーのwenaの事業責任者である對馬哲平氏にインタビューを行いました(第1回第2回)。最終回となる今回は、オープンイノベーションについてのインタビューの模様をお送りします。

 
フィラメントCEOの角勝氏(右)とソニーのwenaの事業責任者である對馬哲平氏(右)

ソニーの「オープンイノベーション」の難しさ

角氏:日本でも「オープンイノベーション」というイノベーションの創出の手法が注目されて、それなりに時間が経ってきていますが、その中で「オープンイノベーションの成功事例って何?」って聞かれた時に、なかなか目立ったものを挙げづらかったりするんですよね。

 でも、こちらはまさにオープンイノベーション的で、しかも群を抜いてみんなに知られているし、成果としても世界中に広がっていくんじゃないかっていう期待があります。オープンイノベーションのことを考えた場合、ソニーは上手にやれそうだというのは、当時から予感がありましたか?

對馬氏:時計業界ではない中立的な立場を取れる、という意味ではうまくできる気はしていました。ただ、ブランド価値が高まれば高まるほど、オープンイノベーションのハードルは高くなるのかなと思っていて。もちろん、SSAP含め他の事業でオープンイノベーションに成功している事例もたくさんあります。ただ、wenaは出島のような立ち位置で、異なるブランドでやる方が素早くできるかなと考えたので、ソニーブランドを全面には出していません。

 
 

角氏:本当だ。あまりソニー色が強いと、ちょっと向こうのブランドに対して強すぎるみたいな感じなんですかね。

對馬氏:wenaビジネスとしても、そのほうがやりやすいのかなとは思います。wenaは商品特性上、積極的に時計メーカーとコラボしていきたい商品なので、より協業しやすいという意味で「wenaブランド」というサブブランドを立ち上げて、それでコラボすることにしました。

 あと、時計との相性を考えた時に、すごくブランドイメージが強くなってしまうことを避けるために、少し隠れたブランドとして、黒子としてやっていくためにサブブランドにした背景もあります。

角氏:なるほど。他にも何か難しいと思ったところはありますか?

對馬氏:やっぱり一番は会社との距離ですね。ソニーで新しい事業をやるんだったら、ソニーの技術を使って、ソニーの工場を使って、ソニーの販売拠点を使って、ソニーの物流拠点を使って、ソニーのカスタマーサポートを使って事業をすべきだって思うじゃないですか。全部あるんだったら絶対そっち使ったほうがいいよねってなるんですけど、一概にそうとは言えません。

 前述のようなソニーにあるアセットは、基本的にはゲーム機を100万台作ったり、テレビを100万台作ったり、カメラを100万台を作るみたいな、そういうことに最適な組織とプロセスになっているんですね。

 そこと同じように新規事業を乗せると規模感が合わないんです。wenaの場合は新規事業ってこともありますし、規模も大きくないので、それに見合った工場やサプライヤーさんと取引していくことが大事なんです。はじめから大きいところと取引すると、優先順位が低いので思うように動けなくなってしまうこともあると思います。

 
 

角氏:それに対して對馬さんがとったアプローチというのは?

對馬氏:これまでと全部違うところを使うんです。

角氏:でも、違うところをいちから開拓していくのって相当大変でしょ?

對馬氏:そうでもなかったですね。普通のスタートアップもやっていることですし、ソニーの場合は昔付き合っていた工場とか、昔付き合っていた物流拠点とかがあるので、問題なかったです。いちから開拓しなくても、すでに実績があるところにお願いできるのはいいところかもしれないですね。

角氏:それって、どうやって?社内で昔そういう付き合いがあったところとか、良いところを推薦してくれる方を社内で知らないとできないじゃないですか。

對馬氏:そうですね。聞いたらみんな教えてくれると思います。

角氏:そういう感じなんですね。なるほど。SSAP(ソニー社内の新規事業創出プログラム)のこともちょっとだけお聞きしたいです。SSAPの第2回のオーディションで採択されましたが、やっぱり採択されて良かったですか?

對馬氏:そうですね。商品を出せるチャンスをいただけるのはすごくありがたいことですし、その事業をリードさせてもらえるっていうのも本当に理想の形だと思います。0から1をやるとか、1から5ぐらいまでをやるのには、最適な仕組みだと思います。

 ただ、今はソニー株式会社は持ち株会社という方が実態に近いので、分社化された事業会社が事業そのものをやっています。なので事業の成長とともに「MESH」や「toio」みたいにソニーグループ内の別の事業会社に事業ごと移管されるケースも増えています。

 
 

角氏:だから、導入というか育成するまでの最初の部分はSSAPでやって、そこからどこかのタイミングで事業会社に移管していくっていう感じなんですね。わかりました。

大企業で新規事業を担当する人へのアドバイス

角氏:大企業で新規事業を育成するマネージャークラスの方や、実際に新規事業立ち上げに関わっているチームの方に向けてのアドバイスをいただけますか。

對馬氏:自分で考えて行動するのが一番大事だと思います。全部の意思決定を、はじめから「社内にいるからこれ一択しかない」ではなく、「何個か選択肢を出したうえでこれにします」という風にしたほうがいいでしょう。たとえば「物流拠点は付き合いのあるあの会社でいい」とかではなくて、ほかの企業とも比較したうえで、本当にそこがいいのかというのを吟味していくべきですね。本当にそれが事業にとって最善の解なのかっていうのは、だいぶ疑ってみたほうがいいと思います。

角氏:でも、外部の企業を選択しようとした時に、「いやいや、それはやめろよ」みたいな話になって、プレッシャーが社内でかかることってないですか?

對馬氏:そこは単純に比較して、「こっちのほうがあってると思うので」というロジックを作れば反対はできないと思います。たとえば「100万台だったらこっちのほうがいいと思いますけど、1万台だったらこれでこういう良さがあるんです」というロジックがしっかり組めていたら、反対する理由にはならないかなと思います。何度も言いますが、事業にとって最善の選択をすることが大切です。

角氏:なるほど、分かりました。

好きなものを追求して課題を見つけよ

角氏:では最後の質問なのですが、新規事業開発のアイデアはどうやって作っていけばいいのでしょうか?

對馬氏:そうですね。やっぱり0から1を思いつくきっかけは、「いかに深い課題に気づけるか」だと思います。そして誰も気づいていない課題に気づけたら、それを解決することで世の中にないアイデアになります。

 たとえば「不老不死になりたいです」とか「200歳まで生きたいです」っていうのは、別に誰でも思っていることで、アイデアとは言えません。その一方で、良いアイデアというのは、他の人が気づいていない深い課題から生まれます。僕の場合だと、7年ほど前はデザイン面で気に入っている腕時計と利便性の高いスマートウォッチの2個を仕方なく同時につけていたのですが、当時同時につけてる人って、誰もいなかったじゃないですか。それが世界に何人いるかを考えたら、すごく少ないと思うんですよね。そこですごく深い課題にたどりつけたかなと思っています。

 僕はスマートウォッチも腕時計もすごく好きだからそういう課題にたどり着けたけれど、僕以外の人も自分の好きなものとか、「これやってるとテンションあがる」みたいなものってあると思うんです。そういうのを追求していくとすごい深い課題にたどりつけて、それを解決すると、新しいアイデアになるんじゃないかなと思います。

角氏:なるほど。「スマートウォッチと時計を2個ともつけてみた!」みたいなところが、アイデアが発想するきっかけだったってことですね。

 
 

對馬氏:そうですね。

角氏:それくらい好きなものがまずあるところが大きいんですね。

對馬氏:絶対そっちのほうが有利だと思いますね。ほかの人が気づいてない課題に気づきやすいと思います。

角氏:分かりました。僕らがよく言う、フィラメントで大事にしてる言葉に「面白がり力」という言葉があるんですけど、まさにいろいろ面白がって、実際にトライをした結果がそこだったのかなと、今お話を聞いていて思いました。

對馬氏:そうかもしれないですね。

角氏:良いお話が聞けました。對馬さん、ありがとうございました!

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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