時速5kmで自動走行するモビリティ「iino(イイノ)」による移動空間サービスの事業化を進めてきたゲキダンイイノは、独自に開発した2種類のモビリティを使用した本格的なサービスを開始したことを発表した。
ゲキダンイイノは関西電力の若手有志メンバーが中心となって運営する社内ネットワーク「k-hack(ケイハック)」のプロジェクトとしてスタートし、2017年から低速モビリティの実証や新規ビジネスの検討を重ねてきた。その後、関西電力が2019年7月に設置したイノベーションラボの支援を受け、2月に事業化する3社目の会社として、関西電力からの資本金100%出資により合同会社を設立した。
車両は既存の部品や装置を利用してファブレス方式で独自に製造している。大型商業施設などの敷地内や都市部の歩行エリアでの利用を想定した「type-S」と、観光地やリゾートホテルでラグジュアリー体験を提供する「type-R」の2種類があり、記者発表会ではtype-Sの走行デモが披露された。
従事者数は3名で、デザインを外部の専門家に依頼したり、関連するサービスやコンテンツを提供するなど、目的にあわせてさまざまなパートナー事業者と協力する形で事業を展開する。そこで会社名に劇団を冠し、代表の嶋田悠介氏の肩書きも座長としている。
嶋田氏がiinoプロジェクトを始めたのは「作業員を乗せて街を移動するゴミ収集車を見て、低速モビリティが都市の新たな移動手段になるのではないかと妄想したのがきっかけ」という。
いわゆる低速モビリティとされる電動カートや電動キックボードは時速10〜19kmで、気軽に乗り降りするのは難しい。時速7〜8kmで走るターレ(ターレットトラック)でテストしたがまだ早く、結果的に「時速5km」という事業のワーディングにもなっている、歩くのとほぼ同じ速度の低速モビリティを開発すると決めた。
テスト車両で乗車体験してもらうと、「同じ場所でも風景が違って見えた」「リラックスできてコーヒーが美味しく感じた」といった利便性だけではない新たな価値が浮き彫りになった。「動く茶室」や「動く日本酒バー」などのテスト運用も好評で、人気のヘッドスパサービス「悟空のきもち」が体験できるコラボレーションでは、3万4000件もの予約希望が集まった。
会社設立にあわせてキーワードに「自由度」「共存性」「物語性」を掲げた。「時速5kmのモビリティはシートベルトも座席も不要でデザインも活用の自由度も高い。歩く速度なので街中をiinoが走り回っても違和感がない。そして、今までにない低速モビリティを通じて新しい物語性が提案できると考えている。外に出られないしんどさを感じた今だからこそ、動く風景に価値観を感じてもらえるのではないかと思っている」(嶋田氏)
2月の会社設立から車両開発のテストを重ね、まずはtype-Sによるサービス提供をスタートさせる。最大乗車数5名の車両は搭載されたライダーで走行ルートをマッピングし、センサーで障害物を避けたり、乗車する人が近付くと速度を落とすなど、完全な自律走行を実現している。決まったルートを動く歩道のように移動できることから、大型商業施設やテーマパークなどのエリア内での運用を想定している。
type-Rはラグジュアリー体験ができるリビングルームがそのまま動くというイメージで、ソファなども含めてとことん心地良いデザインが追求されている。最大乗車数は6人で、依頼にあわせてインテリアの入れ替えなども可能だ。導入先としては自治体、観光地、ホテルなどを想定しており、コンテンツを含め今までにない価値の提供を目指す。
ビジネスモデルだが、車両はゲキダンイイノが所有し、クライアントからの運用サービス委託を受けてモビリティ運用料を徴収するサブスクリプション形式で提供する。type-Sの開発費用は1台あたり500万から1000万円になる見込みで、運用料などは依頼内容にあわせて設定する。すでに進行中の案件があり、イベントでの利用などが予定されている。
「都市や街づくりの中での移動に対する考え方は変わりつつあり、徒歩で移動しやすい、歩きたくなるウォーカブルシティを提案する動きもある。スマートシティとの連携なども視野に入れ、街のイノベーションとしてiinoの活用を提案したい」(嶋田)
今回のデモで披露されたtype-Sは、2019年6月に大阪のビジネス街で公道を走る実証実験を実施した時よりも完成度が上がっているように見えた。だが、現時点では公道での走行など規制緩和を進めて導入する方向は目指さず、まずは私有地や敷地内での運用で実績を積み重ねていくとしている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス