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高額転売に待ったをかけた「原価マスク」--トリニティに聞くマスク製造の舞台裏 - (page 2)

日沼諭史 坂本純子 (編集部)2020年10月01日 09時00分
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「多い分にはいいだろう」と1箱に50枚以上入ったままの商品も

――結局何人くらいの方が原価マスクを購入したのでしょうか。

 トータルの購入件数は3万6300件でした。僕らは、普段からオンラインストアで商品を販売していますが、ほとんどがAmazon上で、出荷対応もAmazon側なんですね。そもそもスマホアクセサリー系の製品は、出荷しても1日数十件のレベルでしたから、500件、1000件の単位で出荷していくのは本当に大変なことです。

 そして、中国のマスク製造のクオリティってやっぱり高くはない。僕らが中国で雇用しているスタッフが工場に見に行ってチェックするときも、品質が仕様に合っていなくて弾くことが多いのです。それでもさすがに1個1個はチェックできませんから、日本に届いたときにも怪しいものが見つかる。たとえば1箱50枚入りなのにそれより少なかったり、逆に55枚も入っていたり(笑)。

 なので、入荷したものを改めて検品しなければならないのですが、これもものすごく大変でした。普通は重さを箱ごと測って、一定以下や一定以上の重さだったら箱を空けて中身を確認する、というやり方をするのですが、50枚入りの不織布マスクだと微妙なんですよね。マスク1枚が約3gぐらいで、その1枚が0.5gでも違えば50枚入りで最大25g前後することになる。誤差が大きすぎて、重さを測っても正解がわからないのです。

 そうしたこともあって、最終的には「多い分にはいいだろう」と(笑)。明らかに少ないものは箱を空けて数え直すけれど、多いものもNGにしてしまうと本当に全部数え直しになってものすごい労力がかかってしまいます。だから、お客様によっては多めに52枚、53枚入ってた場合もあったのではないでしょうか。

マスク1枚の重さは約3gという。50枚入りのはずが多めに入っていたケースも
マスク1枚の重さは約3gという。50枚入りのはずが多めに入っていたケースも

――それはお得というか、なんというか(笑)。でも、やはり正確に仕事をしてくれないのは困りますね。

 日本の感覚だったらそういうのはないと思うんですよ。でも中国の場合は、クオリティとか正しさみたいなことはあまり気にしていなくて、多くてもいいじゃん、みたいなところがある。僕らがスマートフォンのアクセサリーを作っているときも似たような話があって、だから僕らは5年10年と長く一緒にやっている工場としか取引していないんですよ。

 原価マスクのときは、最初のうちは僕らがもともと付き合いのあった工場で生産していて問題は少なかったのですが、それ以降はどうしても短期間に数をこなさなければいけなかったので、付き合いのない、ラインが空いているところにもお願いすることになりました。それで僕らと先方の意識が全然合わなくて、すごく揉めて、何度もやり直しましたね。

――想像するだけで気が遠くなる、細かい作業があったのですね。

 不織布マスクって基本的には3層構造で、普通の布の間にフィルターとなるメルトブローン不織布というものが入っています。これが値段や規格によってフィルター性能がまったく違うんですね。僕らは微粒子のカット率が95%以上のものを指定しているのですが、同じ工場に同じ型番で同じ値段でオーダーしていても、入荷ごとに品質が違うことがある。だから毎回測定器で測り直しました。

 僕らとしては、この状況で品質を担保していくのは無理だなっていうことをすごく感じたので、最初の受注分を終えたら絶対にやめようと。僕らの普段の製品は、たとえばスマートフォンのケースなどで、これによって健康被害が起きることはあまりありません。でもマスクは衛生製品であることから考えると、品質はより厳しく見なければいけません。ちょっとでも油断すると危ない。7月頭でやめた理由の1つにはそういう事情もあります。ぜひ国内で生産しているシャープとか、アイリスオーヤマとかのマスクを買っていただくのがいいと思います(笑)。

マスク販売で本業にはどんな影響が?

――今回のマスクの件で、本業のスマホアクセサリーなどの事業に影響があったようには感じていますか。

 たとえば新しい取引先の人と商談するときに、原価マスクはすごかったね、あれは本当の意味での社会貢献だよね、といった話で盛り上がったりもします。政府がマスクを配ったけれど、あれよりも原価マスクの方が高額転売を減らすインパクトがあったよね、みたいに言っていただくこともありました。求人していても「原価マスクで知りました」という人が来てくれて、「フットワークが軽かったりアイデアが面白い会社なので入りたい」と言ってくれることも増えました。直接的な影響というのはないんですけど、ブランディングというか、会社としていい印象に向かっているとは感じますね。

――トリニティのブログには、この経験が今後の事業にも活かせそう、というような話も書かれていました。具体的にどのように今後に活かせそうだと感じていますか。

 これまでずっと普通にお店に並んでいたマスクが、買えなくなった。そうなったときに、僕らはマスクメーカーではないし、知名度が低く販売チャネルも少ないにもかかわらず、それでも世の中のニーズに対して的確なタイミングで出すとこれだけ反響が得られるんだな、チャンスが生まれるんだな、ということを実感しました。

 しかし、それと同時に困難なところもあると感じました。われわれが普段扱っている製品は、スマートフォンやパソコン、特にiPhone、Macを買った人向けのアクセサリー商品が多いわけですが、そういうジャンルと比べると、マスクっていうのは前提となる製品が一切ない、おじいちゃんおばあちゃんも含むごく普通の人向けの製品です。そういういわゆるマスの製品は大変なんだな、ということを経験して初めて理解しました。マス向けだとお客様対応が全然違うレベルになるんです。

 マス向けに製品を展開するなら、もっと多様性をもった販売力や販売チャネルが必要なんだということがわかりました。われわれの製品は実はお店で95%を売っていて、直販はしていないんですね。マスクについては直販のみだったので、そういう大変さが身に染みてわかったというか、とても勉強になりました。

――ウェブでしか告知していなかったのに、そこまでマスにリーチしたのもすごいことですね。

 突然、本社に来られる方もいました。近所に住んでいる人だと送料をかけたくないと思うのでしょうね。実際のところ会社には在庫はなくて、全部外部の倉庫にあるのですが……。それと、お手紙をいただくこともありました。テレビで見て知ったものの、インターネットは使えなくて、でもどうしても買いたいんですと。それらすべてに対応することは、本当に大変でしたが、いい経験にもなったと思います。

――最後に、原価マスクを販売してよかったと思うことはありますか。

 日本の社会に少しは貢献はできたかな、という思いはありますね。2カ月間は僕も、他の社員も、普段はカスタマーサポートを担当していない人も電話で対応するなど大変ではありましたが、人から強く求められていることを仕事としてできるって、なかなかないことですね。

 困っている人たちの力になってあげられたのはすごくよかったですし、社員も大変と言いつつ、意義のある仕事ができてよかったね、という雰囲気になってもらえたことが本当に嬉しかったです。一段落した後もウェブサイトのアクセス数が全体的に底上げされていますから、知名度アップにも多少はつながったところがあるのかなと思います。これからプレスリリースを打つときは、「原価マスクのトリニティが」というのを枕にするといいかもしれませんね(笑)。

9月25日より新製品、熱を吸収し冷やす「蓄熱」式で0.9mmの薄型スマートフォン冷却シート「スマ冷」の販売を開始している
9月25日より新製品、熱を吸収し冷やす「蓄熱」式で0.9mmの薄型スマートフォン冷却シート「スマ冷」(1430円・送料別)の販売を開始している

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