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急変した電子チケットを取り巻く環境とエンタメビジネス--playground伊藤代表に聞く - (page 2)

佐藤和也 (編集部)2020年09月24日 08時00分
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人数制限のガイドラインよりも、冷え切った消費者マインドが壁

――伊藤さんはイベント興行を行っている関係者とも、かなり情報交換を行っていると伺ってます。お話しをするなかで感じたことはありますか。

 関わるみなさんはかなり危機感を持っていますし、その度合いはみなさんが思っている以上のものがあります。いわゆるイベンターと呼ばれる、イベント興行の運営を生業としている会社は特に厳しいです。3月以降、ほとんどのイベントが不特定多数からのクレーム電話により中止に追い込まれて大赤字を背負っただけでなく、今後も入場制限があるなかでは利益が出ないため、イベントをやればやるほど赤字という状況にあります。国からガイドラインが出たときには「潰れろということですね」といった強い怒りに諦めを含んだような声を多方面から聞きました。

 多くの会社がなんとか1年程度の運転資金を借り入れることはできたようで短期的に潰れることは回避できそうですが、興行規模が戻らない状態が2年、3年と続いてしまうと借り入れができなくなったところから順に統廃合に進まざるを得なくなるでしょう。コロナが落ち着いて、みんながライブに行く気になったころにはもうコンサートを運営できる会社が残ってないという悲惨な状況になりかねません。

――現状において、人数を制限する形での興行がガイドラインとしても示されていますが、これが長期化すると、厳しい状況が続くと。

 そう思います。一方で最近私がすごく感じているのは、本当の壁はガイドラインよりも、冷え切った消費者マインドにあるんじゃないか、ということです。例えばプロ野球やJリーグでは現状5000人の入場制限を行っていますが(※取材を実施した8月下旬時点)、毎回5000人近く入場しているかというと、必ずしもそうではなく、試合によってはその半分に届かない日もあります。音楽興行でも普段ならアリーナを即完させるようなアーティストが5000席埋めるのがやっとだったという話も聞きます。

 当初、私は興行が再開されたときに入場制限がかかることでチケットは軒並みプレミア化すると想定していました。それは半分当たって半分外れていました。ディズニーランドなど、密になりづらい興行や特別人気のある興行では確かに争奪戦が激化しましたが、多くの興行で消費者マインドの冷え込みが入場制限を上回ってしまっています。

 やはり、人の集まる場所というイメージが強く残っているところや、クラスターが発生したとされる屋内施設での興行へ行くことをためらっているのだと思います。また、自治体などの要請に従うのは前提として、合理的に考えて問題ない範囲では旅行をしても大丈夫なはずで、むしろするべきですけれど、それすら自粛を求める雰囲気もあって、長距離の移動に対して白い目で見られるような、他人の目を気にして委縮しているところもあります。ワイドショーなどでショッキングな側面ばかりを取り上げて報道していることも、過剰な反応や意識を助長していると苦々しく感じています。

 世間に「どこかに行くこと自体が悪」みたいな雰囲気があるうちはみんなイベントに行くのはためらうでしょうし、いわんやSNSで楽しんでいる写真が流れて次のお客さんを呼んでくれるようなことはありえません。その意味で、この後興行が回復するかどうかは、その消費者マインドを切り替わり次第だと思います。それを踏まえると、このまま1年くらい経てば以前のように戻るという見方には懐疑的な立場をとっています。

オンラインが主というエンタメビジネスへの切り替え

――そうしたなかで、興行をライブストリーミングで配信するものも増えました。

 新型コロナの前からその兆候はあったのですが、オンラインでのエンタメっていうのは、すでにオフラインを凌駕しつつある規模になってきています。

 有料のオンラインライブ配信だと、K-POPやサザンオールスターズのような大型アーティストの事例が話題にあがりますが、例えば、世間での一般的な知名度は正直それほどでもないアイドルが月に数百万円売り上げるなどリアルで活動するよりも文字通り桁が違う売上を出せている興行もあります。我々も、吉本興業主催のオンライン配信のチケットを購入できる「オンラインチケットよしもと」をサポートさせていただいていますが、コアファンを中心に爆発的に人気が集まっています。

 今後のエンタメの状況としては、リアルのエンタメについてはすごくネガティブな状況が続くことが容易に想定されますし、その復旧への道のりも長期化するでしょう。これからはオンラインとオフラインの融合……というよりも、オンラインを主として活動することが大事といいますか、その切り替えができないと、ビジネスとしての継続は難しいと考えています。

――よく、配信では利益が出ず赤字になるという話も耳にしますが、考え方自体を変える必要があると。

 従来どおりのセットで作ったライブを単純に中継して、しかもリアルチケットより安い価格で提供するということであれば、当然そうなることが多いと思います。そもそものビジネスの考え方、やり方を変えなきゃいけないという認識が必要です。エンタメの種類にもよるのですが、新しい消費者マインドやトレンドをちゃんとキャッチアップして取り入れているようなところは、すでに大きな利益を出しています。

 ざっくりいってしまうとオフラインの代替としてオンラインを提供する、という考え方ではなく、オンラインを主にオフラインはプレミアム体験を提供する手段ととらえて、オンラインとオフラインが融合したエンタメを作り上げる。そういった考えに基づき挑戦を続けたプレイヤーが一気に伸びるのではないか、と考えています。

――ライブストリーミングの有料配信サービスも、この状況下で一気に増えた気がします。

 3月以降、私が認識しているだけでも30以上のサービスが立ち上がりました。市場規模も3年後には1000億円を超えてくると予想されており、新たな注目マーケットが突如として生まれたな、という印象です。プレイヤーとしてはこれまで動画配信をしていたところがチケット制の配信機能を拡充するのと、チケットを販売していたところがライブ配信機能を追加したというケースが多いです。サービスの選択肢が増えること自体はいいことなのですが、同一コンテンツを複数プラットフォームで販売・配信するといったことも増えており、消費者にとっては混乱しやすい状態になっていると思います。そこで弊社でも少しでもお役に立てればと考え、音楽ライブ配信まとめメディア「#おうちライブ」やお笑いライブ検索メディア「ワラリー!」を提供し始めました。

 視聴者側だけではなく、主催者側も配信するサービスの選択肢が多くて、どこを使ったらいいか混乱気味になっているとも聞きます。ただ、どんな市場でも急拡大したときにサービスが乱立するということは必ず起きることですので仕方ないです。今後、配信品質や扱いやすさ、手数料など、各社が特色を打ち出していくなかで興行主が最適なサービスを選択できる、魅力的な市場が形成されていくものと思います。

――アイドルなどとオンラインでの個別トークができるような、1対1モデルのライブ配信サービスも増えています。

 こちらの市場もコロナを受けて市場が急伸し、同じく多くの新規プレイヤーが参入しました。弊社の独自調査の中では桁が2つくらい変わった、と推計しています。興行側は今のところ握手会の代わりという形でやっているという感覚ですが、この先はオンラインならではのやりかたや構成の仕方みたいなものが、興行側と配信サービスそれぞれに生まれてくると予想しています。

――これまでイベントやライブの配信において、有料とすることそのものに、視聴者と興行側ともに壁があったと思いますが、この状況で一気に有料配信が進んだと感じられます。この有料配信というのは、一過性ではなく定着すると思いますか。

 まず、オンラインでエンタメを消費する、そこにお金を払うということ自体は、今後伸びるしかないですし、伸び率ももっともっと爆発的に増えていくという予想に間違いはないでしょう。ただ、単純にリアルでやっていることを中継するというようなものは、今は良くても、この先は慣れて飽きられてしまうのではないか、と懸念しています。リアルの代替としてオンラインを提供するという考えの興行は、衰退に進むでしょう。

 一方で、少し余談っぽい話しになりますが、インターンなどで来ている大学生たちと話をするなかで、この1~2年、オンラインとオフラインに対する価値観の違いに驚きを覚えるシーンが急に増えました。この数年は「インスタ映え」に代表されるように、デジタルで映えたいからリアルにお金を払う、という価値観だったわけですが、今の大学1、2年生ぐらいは極端に言ってしまえば、もはやオンラインがすべてというか、リアルではイベントチケットの1000円の違いを嫌うのに、オンラインではちょっとした企画に1万円でも2万円でも平気で払うという、まるでオンライン上の人格や生活が主と捉えるような新しい価値観が台頭してきているように感じています。

 その観点でいえば、有料制のライブ配信はむしろリアルのライブよりも当たり前にお金を払うような時代が来てもおかしくないのかな、と思ったりしています。

――ものの見方や価値観の変容はどの世代もあると思いますが、若年層ほどオンラインで行われていることに価値を感じていると思うところはあります。とはいえ、リアルな場でのイベントで多くの人が集まる状況が戻ってきてほしいと思うところはありますが……。

 私自身は試合や演奏以上に周囲の熱狂を求めて会場に行くような、典型的なオールドライブファンなのでやっぱり現地での熱気が戻ってきてほしいと願ってしまいます。その意味で、弊社ではコロナ前と変わらずリアルのエンタメをメインに考えており、これから本格化する消費者マインドの回復に向けた戦いを支援するのがplaygroundの使命と捉えています。非接触型の電子チケットや発熱者検知などなど、コロナ時代にも安心して足を運んでいただけるようなイベントづくりをデジタルの側面からサポートしていきます。

 一方で前述のとおり、リアル重視の考え方がレガシーなものと思っている世代が確実にいて、それが爆発的に拡大しているということも、次の時代のエンタメを作っていくにあたっては無視すべきではない事実です。弊社としては意欲的な興行様と一緒に模索を続け、コロナ後の業界の超回復に寄与したいと考えています。

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