会社にとっての漢方薬「アンサングマネジメント」とは?--得意な人がすべき3つのこと

角 勝(フィラメントCEO)2020年09月01日 08時00分

 最近よく耳にするのが、テレワークになって急に存在感がなくなってしまった人がいるという話です。その多くは、生産性の低い仕事しかしていなかった人、厳しい言い方をすれば「役に立たない人」があぶりだされたという文脈で語られています。

 確かにそういうパターンも少なくないと思いますが、僕はテレワークによって存在感が薄くなった人のすべてがそういう人だとは思っていません。特に、「人間力があって役職者となった人」などはソフトスキルの達人で社内の誰からも信頼され、表立っては見えにくいものの部門を超えて頼られていた方もおられます。

 リアルなオフィスで俯瞰的に周りを見渡して、それとなく情報収集をしてヒントを伝えたり、不調な人の兆候を見つけて元気づけたり、会社にとっての漢方薬や整体師のような働きをする人です。

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 そういう人は、会社のコミュニケーションの流れを把握し、流れが滞っている部分を見つけてはツボを押して、血流を改善したり、デトックスしたりということをやっていたわけです。見えざるマネジメント、いわば「アンサング(縁の下の)マネジメント」の役割を担っていたともいえます。

 しかし、このようなアンサングマネジメントは、リアルオフィスでの豊富な情報量、無意識に目に飛び込んでくる人の表情や何気ない会話の断片、ちょっとした行動の違和感のようなものが発動の契機ともなっていたわけで、その機会が失われた状態になっているのがテレワークシフトしつつある企業の実態なのではないでしょうか。

 アンサングマネジメントは会社にとっては即効性のない漢方薬のようなものなので、それがなくなったことが会社の業績悪化に直結するようなことはないものの、じわじわとコミュニケーションの流れが悪くなったり、社員の帰属意識の低下、バーンアウトやメンタルの失調なども起こりやすくなっていく可能性があります。

 また、アンサングマネジメントはもともと見えにくいので、テレワークでそれがなくなったことにも多くの人が気づきませんし、そうした役割を人知れず担っていた人の評価が下がってしまうということも起きやすい。それを象徴しているのが冒頭でお話しした「役に立たない社員があぶりだされた」話というわけです。

 ですが、こうしたアンサングマネジメントをやっていた人たちは会社にとってなくてはならないほど貴重なものだと思いますし、その価値がテレワークによって減じているのであれば、どうやってその回復を図るのかは企業活動にとって重要なテーマの一つだと思います。

アンサングマネジメントが得意な人が「埋もれない」ために

 アンサングマネジメントが得意だった人間力の高い役職者の方が、テレワークで埋もれてしまわないようにするために大事なことを整理して書いてみたいと思います。

(1)アンラーンの姿勢をもつ


 環境が大きく変化した今、以前と同じ手法では今まで培ってきた人間力を発揮する機会もなくなってしまいます。どういう変化が起こり、どんなツールやテクノロジーがあり、人々の行動や意識・感じ方がどのように変わっていこうとしているのか、そうした情報をどんどん吸収して、新たな振舞い方を学び、実践の中で自らのスキルと価値を再定義していく姿勢を持つことが最も大事だと言えるでしょう。

(2)情報の接点を広げる


 次に大事なのは、情報の接点を確保するというアクションです。コロナ禍では「会食の場」がなくなりました。役職者の方同士が食事をしながら時間をともにしつつ、胸襟を開いて普段しないようなことまで語らうというビジネスコミュニケーションの定番フォーマットがなくなったわけです。

 一方でオンラインイベントは大量に増えました。そうしたイベントに自分が参加していくことはもちろん大事ですが、自分が参加しなくてもまわりにはオンラインイベントに参加している人、参加して得た知識を周りに伝えたくてうずうずしている人もいるはずです。

 そうした人を社内で発掘してオンラインの1on1などで話を聞く機会を設ければ、新しい知識を得ることもできるし、社内外の情報をさりげなく摂取する機会にもなると思います。また、こうしたアクションを通じて、オンラインで通用するソフトスキル、オンライン傾聴力やオンライン共感力なども鍛えていけば、新たなマネジメント力を獲得できるでしょう。

(3)ハブ人材よりギブ人材


 自らのスキルと価値を再定義し、情報の接点とオンラインでのスキルを確保したら、それをどんどん周りにギブしていきましょう。社内のSlackで自分のチャンネルを作ったり、オンラインでの雑談タイムを主催したり、どんなやり方でもいいんです。パスを出してみることでそれに反応する人が社内外に広がってくるはずです。

 もともと気遣いをしたり俯瞰力が強いタイプなので、オンラインによって途絶しがちな点と点をつなぐ、ネットワーク人材に変貌しうると思います。また企業は、こうした社内外の点と点をつなぐ人材の発掘・育成を積極的にしていくべきでしょう。

 今後のウィズ/アフターコロナの世界での企業間コミュニケーションをけん引する人材として重宝されていくことと思います。

第13回に続く

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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