Michel André氏は、優れた聴覚の持ち主だ。その能力を生かして、海洋環境における音を研究してきた。カナリア諸島でマッコウクジラがフェリーと衝突する原因や、アマゾン川に生息するアマゾンカワイルカを悩ませている音の問題などである。
2019年、スペインのカタルーニャ州、ビラノバ・イ・ラ・ジャルトルにあるカタルーニャ工科大学(UPC)応用生物音響学研究所のAndré氏とその研究チームは、インドである問題の解決を要請された。
記録によると、シリグリ-ジャルパイグリ間の鉄道では、ゾウとの衝突死亡事故がインド国内で最も多く発生しているという。過去10年間に、この路線で200頭以上のゾウが列車と衝突して命を落としているのだ。
そこで2019年11月、André氏らはインド西ベンガル州を走る線路にゾウの音響感知器を設置するパイロットテストを実施し、成果をあげた。
人間と野生のゾウの住む場所が近すぎるために、毎年多くの人間もゾウの犠牲になっているという問題を、この「スマートイヤー」は技術面から解決する。
インドで人間の活動領域が広がった結果として、鉄道網が発達し、都市や農園が拡大していくにつれて、人間とゾウの対立はますます増えることになる。
かつて森林だったところが農園になれば、ゾウはそこに侵入して作物を食べる。そうなれば、農園主は財産を守ろうとし、ゾウはますます攻撃的になってしまう。
スマート音響感知器は、こうした衝突を緩和する即効性の解決策になる、とAndré氏は確信した。
「人間の営みが野生動物の生息地を侵すようになった場合に、動物を威嚇して追い払う技術を追究するのは、無意味であり危険でもある」と同氏は述べる。
さらに、「人と自然とのよりよい共存を進めるには、野生動物に耳を傾け、その存在を感知して対立を避けなければならない。現在の生物音響技術は、そうした課題に対処できる」としている。
André氏は、アマゾンの熱帯雨林で既に使用したことのあるセンサーを改良すべく、資金調達を図った。目標は、ゾウがいることを列車の運転手に警告するシステムの開発だった。
そのシステムを機能させるために、研究者は音環境を記録するレコーダーとカメラを設置し、ゾウの音と画像を、その環境にある他の要素から識別する必要があった。
続いて、記録した音を機械学習の技術によって解析しなければならない。「独自のアルゴリズムとハードウェアを開発した」、とAndré氏は米ZDNetに語った。といっても、同氏のチームは2017年には既に、ニューラルネットワークを使ってタミルナードゥ州で動物の音を識別していた。
このシステムは、動物を感知できる距離を確定するために調整を加える必要があった。西ベンガル州で、捕獲したゾウとスマート音響感知基地との距離を変えながら何回かテストをしたのち、UPCの研究チームはゾウの音を1km離れた場所から、また日中であれば画像を250m離れた場所から、それぞれ識別することに成功した。
だが、衝突事故の大半は夜間に発生している。ゾウは、気温が下がるのを待ってから食料と水を求めて移動するからだ。そのため、カメラの精度が足りないときに備えて、音響感知基地には熱センサーも装備された。
システム全体の自律的な動作と持続性を確保するために、2枚のソーラーパネルが使われている。データは、ネットワークの状況に応じてWi-Fi、3G、または4Gを利用してスマートフォン経由で送信され、列車の運転手にリアルタイムで警告を送ることができる。
データを収集するノードをいくつか設置し、研究者は野生のゾウを使って、システムのトレーニングを続けた。
このパイロットプロジェクトの成功で、技術は持続可能になりうること、そして人と自然との調和を達成し、生物多様性を維持するうえでも貢献しうるということを、André氏は確信するに至った。これらは、気候変動への取り組みに欠かせない要因でもある。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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