仕事の多くがオンライン、オンラインばかりで、自宅から外に出ることすらめっきり少なくなった筆者。昨年までは取材でたびたび海外に出かけていたのに、2020年の今年はたしか一度も飛行機に乗っていない。こんなことがなければ、あんなところやそんなところに(あくまでも仕事ではあるけれど)行けたはずなのに、全部キャンセルになってしまった。
かつてのように好きなときに好きな場所へ旅行できるのは、今の状況だとまだまだ先のことになりそうだ。だから、筆者と同じように「早くいろんな国を旅したい!」という思いを募らせている人も多いんじゃないかと思う。
そんな情勢のなかで、マイクロソフトが8月18日にWindows PC用(Xbox Game Pass for PCにも対応)に超大型ゲームタイトルを投入してきた。「Microsoft Flight Simulator」(以下、MSFS)という、飛行機を自在に操って空の旅を楽しめるフライトシムと呼ばれるものだ(価格は7450円から)。原型となるゲームは1979年頃、PC用ソフトとしては1982年に発売され、以後シリーズ作品として幾度も続編がリリースされてきた。しかし、ここ14年もの間は音沙汰がなく、久しぶりの新作が登場した、ということらしい。
「らしい」というのは、筆者個人としてはシリーズを通してどのゲームも一度たりともプレーしたことがないからだ。航空機や空港に関する詳しい知識はほとんどゼロだし、もちろん実際の操縦ライセンスなんか持っていない。リアルで飛行機に搭乗するときはほぼ毎回エコノミークラスで、たしか2、3回はビジネスクラスに乗せてもらえたこともあったけれど、ウェルカムシャンパンに感動して、電動シートの調整に四苦八苦するくらいのレベルである。
それほどまでに航空機やフライトシムに対して興味の薄かった筆者が、なぜMSFSを発売日当日に購入してしまったのかというと、やはり空の旅や異国の雰囲気をまた味わいたかったから。同作は航空シミュレーターとして高い完成度を誇るだけでなく、地球全体の地形、環境、景観をほとんど丸ごと再現し、世界各地の絶景が見られると発売前から話題になっていた。リアルで旅行することがかなわない今、代わりにMSFSを使って、手軽にバーチャルな海外旅行を楽しもうではないか、と思ったのである。
かつて見たあの海外の景色をもう一度!ゲームなんだからサクッと行けるでしょ!そう思って始めてみたMSFS。しかし、いかんせん航空機については完全に素人である。なんとかの道は1日にしてならずというか、筆者の望む“海外旅行”の夢をかなえるまでには、思いのほか険しい道のりが待ち受けていたのだった。本当は「MSFSだとこんなに簡単に、好きな場所を空から観光できて、旅行できないストレスも発散できるよ!最高!」みたいな結論にしようと思っていたのだけれど……。
MSFSの一番の注目は、なんといっても地球を丸ごと再現するにあたって扱うデータの総量が2PB(ペタバイト)にもおよぶとされていること。マイクロソフトがもつ地図サービス「Bing Maps」のデータ、衛星画像をもとに、AI技術も用いて地形や建物の立体データを自動で起こしているほか、一部の施設は人間の手で高精度に3D化している。地上ではクルマが走っているし、現地の天候についても現実のリアルタイムに近い状況を反映させることが可能だ。
もちろんそれらのデータを一度にユーザーのPCにダウンロードするようなことはない。飛行する場所に合わせて逐次ダウンロードしながら表示する仕組みになっているので、ユーザーのPCには“最小限”のストレージ容量があればいい。ただ、そうはいっても3万7000箇所の空港施設に加え、数十機の航空機の外観からコクピットの内部まで忠実に再現した最新のゲームである。一部の3Dデータなどはローカルに保存するようだし、ゲームを始める前のダウンロードデータにもそれなりの容量がある。
MSFSには収録コンテンツの違いによって3つのエディションがあり、筆者が選んだ最上位の「プレミアム デラックス エディション」では、最初にゲーム本体のデータとして1GB以上をダウンロードすることになった。インストール直後の初回起動時になると、今度は95GB以上を追加でダウンロードする必要があり、最低でも150GBの空き容量が必要になるようだ。
それだけでも時間がかかりそうなのは容易に想像できるだろう。しかも、発売日当日はサーバーが混雑していたのか、夕方頃から何度チャレンジしても途中でダウンロードがストップし、翌朝までかかっても終了しなかった。改めてダウンロード先のドライブを変えて朝6時前からやり直したところ、4時間近くかかってなんとかインストールを完了。ゲームを購入し、インストール作業を開始してからゆうに12時間は経過している。まだ操縦桿(ゲームコントローラー)は握れていない。早く絶景が見たい。
発売日翌日の午前10時半頃、ようやくゲームのメニュー画面を拝むことができた。さっそく海外の絶景へ!と気持ちははやるが、冷静に考えてみると操作方法が全くわからない。世界中の空港から空港へ、好きな機体を操って自由自在に飛べる「WORLD MAP」がメインコンテンツではあるけれど、いきなりそこからプレーすると取り返しのつかなくなる嫌な予感がしたので、基本操作を段階的に学べる「TRAINING」から始めてみることにした。
「TRAINING」の一番最初のスタート地点は、米国はアリゾナ州の上空。自動操縦なのでホッとするが、まずはごくごく基本的な視点変更の操作から学ぶことになる。方向転換やエンジン出力のコントロール方法なども実践しながら学んでいくことになり、フライトシム初プレーの筆者はもちろんそれらを1つ1つ覚えていかなければならない。インストラクターが声で操作方法などを説明してくれるものの、全て英語だ。わりときつい(日本語の音声・言語は収録されていない)。
コクピットにずらりと並ぶ計器類の読み方も理解しないと上昇・下降、方向転換すらままならない。ちょっと間違った(筆者自身は間違ったと思っていない)操作で警報が鳴り、パニックになる。仮想空間の出来事なのにコントローラーを握る手がじっとり汗ばむ。離陸や着陸なんてトレーニングメニューはまだ先だ。今の自分にとっては、好きな場所に自由に飛んで行くなんて夢のまた夢なのだ、と悟った。8つあるカリキュラムをこなしていくなかで、飛んでは課題をクリアできずリスタートする、という失敗をむちゃくちゃ繰り返した。悔しい。
ここまでで、すでにプレーし始めてから2時間半を費やしている。思い通りに操縦できているとはまだ言えない。トレーニングの最後のカリキュラムでは離陸して、自分で飛行ルートを判断して目的地に着陸する、という一連のフライトに挑んだ。なんとか最後までやり遂げたが、正しい手順で飛べているのか自信がない。ゲームコントローラーで操縦すると少し楽に感じるけれど、キーボードやマウスもわりと駆使するようだ。キーボードのショートカットは3つくらいしか覚えていない。
トレーニングのカリキュラムを終えたのはいいものの、フラップ(旅客機で窓の外を見ていると、離着陸時に翼からウイーンと出てくるアレだ)の具体的な用途はまだわからないし、トリム(航空機の姿勢を安定させるための小型の可動翼)の意味も教えてくれない。管制(ATCというらしい)とのやり取りの仕方なんて「か」の字も出てこなかった(英語を聞き取れていない可能性はある)。ちなみにここらへんは全部ググって調べた。少しだけ飛行機の構造を理解できたかもしれない。
しかし、そのあたりの要素やら仕組みやらを知らなかったとしても、トレーニングを修了するレベルになればたぶん飛行機をそれなりに操縦できるようにはなる。もっと言うと、設定を変えればAIによる自動管制応答や自動操縦などの機能を使えるので、自分でフライトプランを組み立てる「WORLD MAP」であっても、ほとんど眺めているだけで絶景ポイントまで飛ぶことも不可能ではない。
不可能ではないのだが、そもそもの目的が世界の景色を眺めて在宅勤務続きの疲れた気持ちを癒やすこと。AI任せにしてしまうと設定した飛行ルートにおける手本となる手順で自動操縦され、だいたいは勝手に大空高く舞い上がってルートに忠実に沿って移動するから、地表近くで景色を堪能することはまずできない。上空からの眺めもそれはそれで美しいけれど、望んでいたものとはちょっと違う。
たとえば、きっと誰もが新宿のビル群を縫うように飛んでみたいと思うだろうし、自宅付近がゲーム内でどう再現されているのかも気になるだろう。筆者としては、以前見たことのある海外の景色をもう一度見たいのはもちろん、それこそ数え切れないほどある世界中の未知の絶景だって目の当たりにしたい。いつか実際に体験したいと思っている自宅近所の調布飛行場から小笠原諸島への飛行ルートなんかも再現してみたいのだ。
でも、それをかなえるためには(少なくとも初心者の筆者には)トレーニングが必要で、それ以降も何度も飛んで経験を重ねなければならない。超低空飛行しようと思って急降下、急旋回したらいきなりゲームオーバー(機体の耐久限界を超えて壊れたという扱い)になるなんて誰が予想するだろうか。
エンジン出力を上げれば高く飛べるとか、速く移動できるとか、そういう単純なことでもないようだ。飛行高度に合わせた対地速度にしないと延々と警報音が鳴ってコントローラーが振動し、とても景色を楽しむどころじゃなくなるなんて話、聞いてない。なんだこのドキドキとワクワクは。
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