いよいよ「WORLD MAP」から飛び立つ時がきた。この際航空機に関する細かい知識を得ることは置いておこう。トレーニングで単発プロペラ機の操縦をある程度理解できたのなら、双発機はもちろんジェット機だって基本的な操縦の仕方は同じようなもの……のはずだ。筆者は最初のジェット機の離陸で2回失敗したけれど、3回目に力技でなんとか羽田空港からテイクオフした。ああ、これ、飛行機の窓から見たときの景色と同じだ。なんだか画面がかすむ……。
ただ、MSFSが何から何までリアルに作り込まれた世界であることを忘れてしまっていた。つまり何が言いたいかというと、たとえばアマゾンの奥地を飛行機で探索したいと思っても、いきなりその場所まで行って最高の景色を眺められるわけではないということだ。飛行機が離陸できるのは空港のみであり、そこから目的地までは実時間をかけて移動しなければならない。
……と思っていたら、ゲームらしくマップの指定した場所(の上空)からすぐにスタートできた。マップ上で飛んでいる他の航空機を乗っ取る形で操縦したりもできる。あるいは「Travel To」という機能でフライトプランの節目(離陸、巡航開始、着陸準備など)から続行する機能もある。だからわざわざ実時間をかけて移動する必要はないのだが、「WORLD MAP」のマップ表示がわりとざっくりしているので、見たいスポットがあるならその緯度・経度をあらかじめウェブなんかで調べておいて、座標指定するのがおすすめだ。
でもって、見たい景色に合った航空機を選ぶ必要もある。もしのんびり遊覧飛行したいなら、ゆっくり飛べて小回りの利く小型プロペラ機が適している、というのは言うまでもないだろう。けれど、ゆっくり飛べるということは、その分移動に時間がかかるということだ。なので、広大なエリアを見て回るとなるとリアルに時間を浪費する。高速なジェット機にしたくなるが、そうすると見たいポイントが一瞬で過ぎ去ってしまうかもしれない。スナップショット用に一時停止する「Active Pause」という機能もあるけれど、高速移動していれば望むアングルにバシッと決めるのは難しい、ということも頭に入れておきたい。
正しく空港から離陸して、長い道のりを時間をかけて(時には自動操縦に頼りながら)飛行し、目的地の空港に着陸する、というロングホールフライトも味わいがある。この場合、目的地に至るまでの風景も楽しめるかどうかがポイントになってくるだろう。何時間も空の旅を続けるのは本当につらい。途中でどんな景色が現れるのかわからないので気が抜けないし、気象条件を快晴や曇り、嵐などにいつでも自由に切り替えてダイナミックな景観を演出することもできるので、飽きるはずがない。つらい、つらすぎる。
しかもMSFSは、フルスクリーン表示中に他のアプリケーションに切り替えても、ゲーム画面をバックグランドで表示し続けてくれる。ゲーム中にわからないことがあって調べ物をしたいときなんかに便利だし、仕事中にも動くデスクトップ壁紙的に使えるのもうれしい(PCのファンが常時うなりを上げているのが気になるけれど)。そろそろ1日が終わろうとしている。この日、原稿は1文字も書けなかった。
超大容量のデータを読み込んで、リアルな天候を再現しながら、超高精度な航空機モデルと挙動までをもシミュレートするMSFS。当然のことながらそれを処理するPCにも相応のスペックが求められる。最低要件の一例としてCPUにIntel Core i5-4460、GPUにNVIDIA GeForce GTX 770、メモリ8GBといったスペックが挙げられているが、おそらくこれではグラフィックス設定で最低ランクの「LOW-END」もやっと、というところではないだろうか。
筆者の環境は最新ではないものの、CPUはAMD Ryzen 5 2600X、NVIDIA GeForce RTX 2060、メモリ32GBというスペック。マイクロソフトがMSFSの動作環境として公表している基準としては「Recommended Spec(推奨スペック)」と「Ideal Spec(理想スペック)」の間くらいだろうか。当然ながら執筆や写真編集など筆者の通常業務に使うには十分過ぎるけれど、MSFSはどうやら少々荷が重いようだ。
デフォルトで自動選択されるグラフィックス設定は、上から2番目にいい「HIGH-END」となったのだけれど、このレベルなら絶景を絶景と感じられるクオリティになるとはいえ、実際にプレーしてみるとフレームレート(画面の描画速度)はせいぜい30fps前後。試しに最も高画質な「ULTRA」にしてみたところ10~20fpsになり、時々1桁まで落ち込むこともあった。
筆者の環境が3440×1440ドットの高解像度なワイドディスプレイなので、一般的なフルHD(1920×1080ドット)のディスプレイに比べて負荷が高いというのもある。あまりにフレームレートが落ちると、静止状態なら抜群の眺めではあっても、ゲームとして快適に動作するとはさすがに言いがたい。リアルな飛行感覚を得るには(画面解像度に合わせて)できるだけ高いフレームレートを維持できるマシンスペックが不可欠だ。
それでも、高高度を飛行している分には20fps程度もあれば画面のカクつきはそこまで気にならず、操縦も問題なく楽しめる。たいていのゲームはフレームレートが下がると操作に対するレスポンスも大幅に低下してプレー自体が困難になったりするが、MSFSではかなりフレームレートが下がった状態でも致命的な操縦のしにくさにはつながらないと感じる。
あとは「Ideal Spec」でインターネット回線の速度が「50Mbps」となっているのも、なかなかエグいところではある。最大1Gbpsの光回線であっても、場合によっては数十Mbpsも出ない可能性だってあるだろう。筆者の環境は最大5Gbpsの光回線だが、それでもゲーム中に通信速度が低下したためか、建物の立体データの読み込みが遅れ、のっぺりとしたテクスチャーの地表と建物との境目がはっきり見えるようなタイミングもあった。完璧なゲーム体験を得るには、より高速で安定したネット回線への投資も検討するべきかもしれない(サーバー側の負荷も関係していそうだが)。
でも、PCスペックを引き上げて(新しいゲーミングPCを買って)ネット回線を増強しても、かかる費用は20~30万円程度だろう。海外旅行の代わりだと思えばそれほど大げさな金額でもないと思える。一度環境を整えれば世界中を巡れるのだから、むしろ圧倒的なコストパフォーマンスの高さではないか。筆者もマシンをアップグレードする理由ができた。
そんなわけで、世界の絶景を眺めようにも、そこに至るまでに乗り越えなければいけない数々の難関が待ち受けている、というのがMSFSの実態なのである。航空機操縦のイロハも知らない筆者のような素人がうっかり手を出してしまうと、とんでもない地獄を見ることになるのはおわかりいただけたはずだ。
あちこちのウェブサイトのレビューでは「誰でも簡単に始められる」などとうたっていたりするが、みんなフライトシムの申し子とかそういうのじゃないだろうか。初めてプレーしたその日の夜は、不自然な挙動を繰り返し、失速するプロペラ機の姿がまぶたの裏にちらついた。こんな惨劇は繰り返すべきではない。うまく操縦できない自分のふがいなさに怒りすら覚える。
でもまあ、明日になればもう少し上手に操れるようになっている気がする。どんなルートをたどって、どんな手順で操作すれば、きれいに着陸できるのかな。そういえば高難度の着陸に挑むオンラインイベント「Landing Challenge」も少しだけプレーしてみたけれど、ランキングは3万5000位くらいだった。トップスコアを叩き出している人たちは一体何者なんだ。フラップやトリムの使い方もちゃんと勉強しないといけない。やることが多すぎて時間が足りないなあ。あと誰か、最高にフォトジェニックなスポット、教えてくれないだろうか。
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