迷惑系YouTuber「へずまりゅう」の周辺で騒動が起きている。迷惑系YouTuberとは、その名の通り迷惑行為を繰り返すYouTuberを指す。へずまりゅうは迷惑行為を繰り返した上、新型コロナウイルスに感染した状態でマスクなしに移動・交流し、感染を拡大させる事態を引き起こした。
「コロナはちょっとと思うけど、あれだけできるのは大物の証。いつも色々やってくれるから見ていて楽しみ。もっと色々やってほしい」とある大学生は言う。このように、若者たちの中にはへずまりゅうを忌み嫌う人だけでなく、熱狂的に支持する人もいるようだ。迷惑系YouTuberが迷惑行為を繰り返す理由と、支持する若者たちの心理について見ていきたい。
愛知県警は7月11日、YouTuberのへずまりゅうを窃盗容疑で逮捕した。へずまりゅうは、去る5月に愛知県内のスーパーマーケット店内で会計前の魚の切り身を食べ、空容器をレジに持っていき、会計をする動画を撮影、投稿していた。動画を発見した店の関係者から相談を受けて、逮捕に至ったのだ。
もともとは一般的な動画を投稿していたが、チャンネル登録者数が伸び悩んでいたへずまりゅう。そんな時、著名YouTuberに無理やりコラボを迫ることを思いつき、次々と著名YouTuberにつきまとい、ストーカーまがいの行動をとるようになる。被害にあったのは、はじめしゃちょー、ラファエル、シバター、ねおなど、すべてフォロワーが多い著名YouTuberばかりだ。その結果、UUUMやVAZなどの大手YouTuber事務所から弁護士経由で警告を受け、訴訟問題も抱えていたという。
この行動に対しては、動画内でへずまりゅう自身が「売名」行為と言い切っている。他のインタビューで何度も「有名になりたい、人気者になりたい、お金持ちになりたい」と繰り返しており、承認欲求が一番のモチベーションとなっていたことがわかる。ほとんどの人が承認欲求を抱えているものだが、他の人と違うのは、へずまりゅうがなりふり構わず、他人への配慮もほとんどないように見えることだ。
へずまりゅうは逮捕されるまでに東京、千葉、静岡、広島、山口県の1都4県に滞在し、山口県の錦帯橋や笠戸島、防府天満宮などの観光地や飲食店に立ち寄っている。中でも問題になっているのが、SNSで事前に行き先を知らせて集まった人やその場にいた人とマスクもせずに接触していた点だ。
新型コロナウイルスに感染しながらそのような行動をとったため、山口県で少なくとも7人以上の男女を新型コロナウイルスに感染させており、関連の相談は600件に上るという。中には飲食店で偶然近くのテーブルにいただけの大学生も混じっている。これに対しては、村岡嗣政山口県知事も記者会見で「何てことしてくれるんだ」と怒りをあらわにしている。
YouTubeでは、広告ガイドラインにより、「炎上を招く、他者を侮辱するコンテンツ」「個人もしくはグループに対する嫌がらせ、威嚇、いじめに当たるコンテンツ」には広告が掲載されなくなる。規約違反で通報制度、広告の無効化、3度の違反警告でチャンネル停止されるため、へずまりゅうのYouTubeアカウントも何度も停止処分となっている。しかし、Twitterアカウントには「YouTube垢バン8回日本記録達成者!」と誇らしげに書かれており、アカウント停止処分に懲りていなかったことがわかる。
アカウントが停止処分となれば、当然収入にはつなげられない。しかし、へずまりゅうは著名YouTuberにからむ行動や迷惑行為などで一定のファンを獲得しており、アカウントを作ればチャンネル登録者が集まる状態になっていた。事実、迷惑行為を繰り返したころから、チャンネル登録者数は激増している。
山口県内をマスクなしで回っていたときにも、「山口県のたくさんのファンの方会いに来てくれてありがとう!」とツイートしており、多数のファンが直接会いに行っていたことがわかる。Twitterなどで呼びかけるとファンが集まる状態となっており、それがモチベーションとなっていたと考えられるのだ。
迷惑行為について報道したり騒ぎ立てる行為も、へずまりゅうを有名にすることになるため逆効果とも言われている。はじめしゃちょーは、「家の近くのコンビニの駐車場で一週間くらい張り込みされること3回」「家の前で叫ばれる」などの被害を受けていたが、騒げばへずまりゅうが有名になる手助けをしてしまうと考え、事務所と相談の上で完全に無視していたという。しかし、テレビなどで報道されているのを見て、被害を公開することにしたそうだ。
冒頭で紹介した大学生は、「傍若無人に好き放題やっているところが好き。普通の人はできないことをやっているのがいい」という。ただし、「へずまりゅう好きだけど、コロナのことでは一般人に迷惑かけているのがちょっと」と、顔を曇らせる。「YouTuberとして活動できなくならないといいんだけど」。
ある20代男性は、やはり「へずまりゅうが好き」という。「コロナもわざとうつしたんじゃないと思うし、見ていて面白い」。退院後にネタに使ってもらえるかもと思い、へずまりゅうを非難している人のツイートなどをひたすらキャプチャをとっているそうだ。ファンにはこのように、常識外のことをしていることを面白がったり、自分ができないことをしてくれることを喜んでいる人が多いようだ。
もともとYouTuberは、「スライム風呂に入る」「ガチャガチャを全部買ってみる」「10人前のラーメンを食べる」など、なかなかできないことを実際にやる例が多く、また楽しむ人が多かった。ただし、他人に迷惑をかけることは、そのような罪がないこととは違う。エンターテイメントとして体を張ることと、他人に迷惑をかけることも違う。
しかし中には、双方を混同してしまっている若者もいるようだ。目立つことが正義という価値観で他人を蔑ろにしていると、犯罪につながることもある。あくまで他人に迷惑をかけない範囲で楽しいことが基本なことを、周囲の子どもたちに教えてあげてほしい。
高橋暁子
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、Webメディア等の記事の執筆、企業等のコンサルタント、講演、セミナー等を手がける。SNS等のウェブサービスや、情報リテラシー教育について詳しい。
元小学校教員。
『スマホ×ソーシャルで儲かる会社に変わる本』『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(共に日本実業出版社)他著書多数。
近著は『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)。
ブログ:http://akiakatsuki.hatenablog.com/
Twitter:@akiakatsuki
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