コロナ禍では「東京」と「地方」の差はなくなる?--西日本で活躍するキーマンたちが語る - (page 2)

神戸市は六甲山に「キラーコンテンツ」を準備中

 パネリスト2人目は、神戸市で広報戦略部長を務める多名部重則氏。近年、テクノロジー企業の誘致・連携や、起業家の育成に向けたさまざまな取り組みが話題になっている神戸市だが、シリコンバレーのベンチャーキャピタルである500 Startupsとの提携、さらには「Urban Innovation KOBE」(現在はUrban Innovation JAPAN)といったスタートアップ支援のプロジェクトは、まさに同氏が中心となって進めてきたものだ。

神戸市 広報戦略部長兼広報官の多名部重則氏が神戸市について紹介
神戸市 広報戦略部長兼広報官の多名部重則氏が神戸市について紹介
多名部氏は500 Startupsとの提携や、Urban Innovation KOBEのプロジェクトを手がけてきた
多名部氏は500 Startupsとの提携や、Urban Innovation KOBEのプロジェクトを手がけてきた

 そんな神戸市では、このコロナ禍において宅配サービスのUberEatsや出前館との連携・利用料支援などを実施し、客足が遠のいた飲食店をサポートしてきた。また、もともと飲食店やスーパーなどが近くになく食料品の宅配が困難な地域に対して、フードトラックサービスの「モビマル」と連携しキッチンカーを派遣する実証実験も行ってきた。

神戸市が行ってきた飲食店や家庭向けの支援策
神戸市が行ってきた飲食店や家庭向けの支援策

 スタートアップ支援の事業についても、500 Startupsと共同で実施する2020年のアクセラレーションプログラムが控えるなか、まだ新型コロナ感染が本格化していなかった3月半ば頃の段階で問題が「長引く」と判断し、内容を再検討。環境変化に強いビジネスを生み出せるスタートアップだからこそ、その「育成の火は消してはいけない」という信念のもと、6月から「500 KOBE Accelerator 2020 for COVID-19 Emerging Technology」と題してスタートさせた。

 同プログラムでは遠隔医療や食品物流、リモートワークにオンラインイベントなど、幅広い分野でウィズコロナ、アフターコロナ、ポストコロナといった観点から高いニーズが期待できる、これまでにない新しい事業が数多く生まれようとしているところだという。8月末にはその詳細が明らかになる予定だ。

アクセラレーションプログラム「500 KOBE Accelerator 2020 for COVID-19 Emerging Technology」が6月にスタート
アクセラレーションプログラム「500 KOBE Accelerator 2020 for COVID-19 Emerging Technology」が6月にスタート

 さらに、コロナ禍以前からプロジェクトとしては手がけ始めていた「六甲山上スマートシティ構想」も、神戸市としては大きな動きになると見ている。これは、神戸の市街地から少し離れた豊かな自然が広がる六甲山に企業を誘致し、新たなビジネス空間を創出する計画で、住居や工房、オフィス、カフェ、レストランといった建物を設け、高速インターネット通信をはじめ最先端のテクノロジーを活用したインフラも整えるというもの。

 夏は涼しく、冬も寒すぎない、1年を通じて快適に過ごすことができる六甲山上は、テレワークが活発になってきている今、新たな「里山暮らし」の選択肢の1つとして魅力であることは確か。多名部氏も、このスマートシティ構想が神戸市にとって「キラーコンテンツ」になると期待している。

多名部氏が「キラーコンテンツ」と期待する「六甲山上スマートシティ構想」
多名部氏が「キラーコンテンツ」と期待する「六甲山上スマートシティ構想」
元々は企業の保養所があったエリアだが、ここをビジネス空間として再開発できるようにしたという
元々は企業の保養所があったエリアだが、ここをビジネス空間として再開発できるようにしたという

 なお、神戸市は、記者会見の様子をオンラインで動画配信することにも積極的に取り組んでいる。角氏が語っていた通り、オンライン化することによる自治体ならではのメリットも得られていると多名部氏。

 なかでも神戸市が8月5日に実施した、2021年開催予定の「神戸国際フルートコンクール実施要項」の発表会は、マスメディアの特に文芸部、文化部の記者をターゲットにしていたが、そういった記者は東京や大阪のような大都市の本社にしか在籍していないことが多い。オフラインの通常の発表会だとわざわざ神戸まで足を運んでもらうことが難しいが、オンライン配信したことで、ターゲットとしていた記者にリーチできたのはもちろん、オフラインよりも多くの参加者を集めることにも成功したという。

新たな「里山暮らし」に向けた魅力的な街作り、都市機能の見直しが必要と語った
新たな「里山暮らし」に向けた魅力的な街作り、都市機能の見直しが必要と語った

 このようなオンライン配信を用いたプロモーションは、新型コロナウイルスの影響がなければ「思いつかなかった」と同氏。多くの活動がオンラインでカバーできるようになったことで、従来の大都市における典型的なワークスタイル、ライフスタイルに対して、その「代替案を示せる街が生き残っていくのではないか」とにらむ。今後に向けては、六甲山上スマートシティ構想で狙っているように、「“住む”と“働く”が一緒になる」ことを見越した魅力的な街作り、都市機能の見直しが不可欠になってくると述べた。

オンライン化で地方の起業家に大きなチャンス

 もう1人のパネリストは、独立系ベンチャーキャピタルF Venturesを福岡で立ち上げた両角氏。主に創業準備中もしくは創業1年未満のプレシード段階の企業への投資をメインにしており、現在は総額6億円規模のファンドを運用している。そのほか、福岡市と連携したスタートアップ支援事業を手がけるとともに、「TORYUMON」という若手・学生起業家コミュニティも組織しており、年4回のイベントでは参加起業家の資金調達の場としても機能し始めている。

F Ventures LLP有限責任事業組合 代表 両角将太氏が、ファンドについて紹介
F Ventures LLP有限責任事業組合 代表 両角将太氏が、ファンドについて紹介
プレシード段階の起業家への投資が中心となっている
プレシード段階の起業家への投資が中心となっている
福岡市と連携したスタートアップ支援も
福岡市と連携したスタートアップ支援も
若手・学生起業家コミュニティの「TORYUMON」も運営
若手・学生起業家コミュニティの「TORYUMON」も運営

 両角氏によれば、福岡においても新型コロナウイルスの影響は大きく、投資先となるベンチャーの事業内容についても明らかに変化が見え始めているのだそう。建設現場に対してオンラインで指示できるDXソリューションや、在宅時間を楽しくする常時接続の音声通話アプリなど、あらゆる領域で世情を反映した新しい流れが生まれてきているという。両角氏の元に相談に訪れるスタートアップも、最近は通常の2倍もの件数に上っているという。

レガシーな産業のDX化が活発化し、エンタメ領域でもオンライン化が進んでいる
レガシーな産業のDX化が活発化し、エンタメ領域でもオンライン化が進んでいる

 最近の福岡では、事前予約制のデリバリーサービス「タイミーデリバリー」が開始し、メルカリのシェアサイクルサービスの後を継いだ「Charichari」 が三密を避けられる交通手段として人気を集めている。こうしたトレンドの変化もあり、F Venturesも投資先を決める際の判断基準に「環境適応力」の有無を加えるようにした、と両角氏。

 たとえば、このまま終息せず引き続き「ウィズコロナ」のままであったり、日常を大きく変えるような新たな出来事が今後あったとしても、柔軟にその環境に適応して成長できるかが重要な評価ポイントになる。そういう意味で、同氏は「いかに恒久的なニーズを見極めて事業を作っていくか」が、これからのスタートアップに求められるようになると見ている。

事前予約制のデリバリーサービス「タイミーデリバリー」が福岡・天神エリアで開始。東京・豊洲エリアでも展開している
事前予約制のデリバリーサービス「タイミーデリバリー」が福岡・天神エリアで開始。東京・豊洲エリアでも展開している

 同社が運営しているコミュニティTORYUMONでは、それらスタートアップや若手起業家に向けて、これまでオフラインの勉強会を定期的に開催してきたが、コロナ禍においてはZoomを用いてオンライン勉強会を開催する形に変更したとも話す。地方からコミュニティの活発な東京へ頻繁に行くことが難しく、地元に投資家やメディアが少ないこともあって、オフラインの活動が軸になるこれまでのやり方は地方の起業家にとって不利な状況にあった。ところが、オンライン化によって“会う”機会が増え、「地方の起業家にこそチャンスが生まれてきている」と語る。

 さらに、プレシード段階の若手起業家や起業家予備軍の人たちを支援する「TORYUMON ZERO」という新たなコミュニティを立ち上げたことも報告。Zoomで投資家と、あるいは起業家同士で交流できる場にしている。ある意味ライバルとなる他の起業家を知る機会は通常は少ないはずだが、Zoomで参加した起業家全員が互いの顔を見ながらコミュニケーションできるのは斬新だ。資金調達できるまでの3カ月間限定の育成プログラムではあるが、オンラインコミュニティで起業家がどのように成長していくのか、要注目だろう。

若手起業家を集めたコミュニティ「TORYUMON ZERO」を設立。80社あった応募のなかから30社に絞った
若手起業家を集めたコミュニティ「TORYUMON ZERO」を設立。80社あった応募のなかから30社に絞った

 両角氏も、角氏や多名部氏と同じように大都市にいることの意味が薄くなってきていると考えている。「ビジネスのフィールドにおいては地域差がなくなってきていて、どの地域でビジネスを始めてもチャンスがある」というスタンスだ。今後オンラインで開くイベントのあり方を模索し、営業や資金調達の手法の1つとして適切に活用していくことで、むしろ「ここで一気にトップを走れる可能性がある」とも話し、地方で活動する起業家にエールを送った。

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