新型コロナウイルスの感染が再び拡大傾向にあり、医療現場の負担がひっ迫する中、神戸市は市内の医療機関を支援する「遠隔ICUシステム」を行政として全国で初めて導入することを発表した。T-ICUが開発するシステムを用いて重症化患者の早期発見や適切な対応をすることで、医療現場の負担を軽減するのが目的だ。
遠隔ICUシステムは、ネットワークに接続するPCを使って患者の電子カルテや生体情報データを共有し、T-ICUに登録する集中治療ならびに救急科専門医、認定看護師に、24時間いつでも診断相談ができる仕組みだ。現在、33名の集中治療専門医と15名の認定看護師が登録しており、病院に勤務しながら空き時間にリモートで、主に自宅で医療現場からの相談を受け付ける。ほぼ全員がコロナ患者に対応した経験があり、使用できる医師が限られているECMO(エクモ・体外式膜型人工肺)の取り扱いについてもアドバイスできるという。
T-ICU代表取締役社長の中西智之氏は、自身も現役の集中治療専門医であり、前日の当直でもコロナの重症患者が増えている印象だと言う。「ICUに対応できる専門医の不足はコロナ禍以前からある問題で、2018年からシステムの開発に取り組んできた。提供しているのはシステムではなく、経験を持つ専門医がいつでもサポートできる体制であり、医療崩壊が起きないよう現場を支援したい」と話す。費用を抑えながら簡単に導入できるよう、ソフトウェアはマイクロソフトのTeamsなどを利用している。初期導入費用は100万円で、月15万円の利用料で24時間何度でも相談できる。
神戸市では4月から、重症患者に対応する神戸市立医療センター中央市民病院と西市民病院、西神戸医療センターの3病院にT-ICUを試行的に導入して有用性を検証してきた。その間にコロナの感染が再び拡大したのを受けて、8月から市内でコロナ治療に対応できる20の医療機関に働きかけ、9月よりシステムの設置と運用を進める。
今回、神戸市が発表したのは導入先の調整と費用の負担で、こうした対応を自治体が行うのが全国で初めてとなる。期間は2021年3月末までを予定している。状況によっては期間延長も検討する。また、あわせて神戸市内でコロナ感染症による重症患者への重点的な対応を進め、遠隔ICUでは知見の共有や治療方針の助言でも協力関係を結び、地域の状況にあわせた支援をする。
記者発表に登壇した神戸市長の久元喜造氏は「世界でも治療経験を持つ人が少ない中で、コロナの治療にあたる医療関係者の負担を軽減するには、重点的な対応ができる体制を整える必要があると考え、遠隔ICUシステムの導入に踏み切った。利用はコロナに限定せず、コロナの影響で診断が難しくなった場合のアドバイスや情報共有でもシステムを活用してもらい、市内の医療提供体制を安定的に確保する」とコメントした。
中西氏は「緊急医療で大事なのは協力してくれる専門医のネットワーク構築であり、それがT-ICUの特徴でもある」と話す。医療機関との信頼関係も大事で、4月にT-ICUが中央市民病院がある医療産業都市に進出していることもあり、神戸市との協力体制を築くことができたという。
T-ICUは7月末の時点で全国21病院と遠隔ICUシステムの契約を結んでおり、1日の平均相談件数は1〜2件程度だという。契約先が増えたり、感染拡大で問い合わせが増えた場合に対応できるよう、専門医の増員を検討している。神戸市以外の自治体からも問い合わせがあり、導入についてはこれから調整するということだ。
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