ソニーの2021年3月期第1四半期(2020年4~6月)の連結業績は、売上高が前年同期比2.2%増の1兆9689億円、営業利益が1.1%減の2283億円、当期純利益が53.3%増の2332億円となった。
ソニー 副社長兼CFOの十時裕樹氏は、「営業利益は、過去最高を記録した前年同期に比べて微減となった。また、一時的要因を除いた調整後営業利益は前年同期比22億円増の2225億円になる」と総括した。
また「プレイステーション5」(PS5)については、「年末に向けて、順調に生産を進めている。ゲームソフトウェアの開発体制についても、自社スタジオ、開発会社各社ともに、顕在化している大きな問題はない。PS5の年末商戦期での発売に向けて、ユーザーエンゲージメントを強化したい」と述べ、発売に向けて新型コロナウイルスの影響がないことを強調した。
ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)の売上高は前年同期比32%増の6061億円、営業利益は502億円増の1240億円。ゲームソフトウェアの大幅な増収や「プレイステーション プラス」(PS Plus)の大幅な増収が貢献。「ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークサービスのいずれも、新型コロナウイルスによる巣ごもりがプラスに影響。『The Last of Us Part II』の大ヒットに加え、自社制作以外のタイトルも大きく貢献した。7月17日にリリースした『Ghost of Tsushima』は、PS4向け自社制作の新規タイトルとして、過去最速となる発売後3日間で240万本を超える売上げを記録。6月末時点でPS Plusの会員数が約4500万人に到達した。通信、ネットワーク環境がひっ迫するなか、プレイステーションネットワークにはサーバーダウンなどのトラブルはなく、上質なゲーム体験を提供できた」とした。
また、「通期では、PS5の発売に伴うハードウェア売上げの大幅な増加を見込んでいるが、PS5導入にかかる販売費および一般管理費の増加、ハードウェアの売上原価率上昇などが利益に影響する」と述べた。
音楽の売上高は前年同期比12%減の1771億円、営業利益は34億円減の349億円。「音楽制作では、パッケージメディアや広告型ストリーミングサービスなど、多くの分野で、新型コロナの悪影響を受けている。ストリーミングサービス全体の売上げは、前年同期比6%増(米ドルベース)に留まっているが、そのうち有料会員制サービスが中心のオーディオストリーミングは17%増の成長になっている。音楽出版は、映画やテレビ番組からの楽曲使用料など、ストリーミング以外のすべての領域でコロナの悪影響が顕著になっている」とコメント。
「映像メディアプラットフォームでは、日本を中心にパッケージメディアの生産減少や、ライブイベントの延期や中止など、広い範囲で大きな影響を受けている。一方で、チケット販売からグッズ販売までワンストップで提供する有料ライブ動画配信サービス『Stagecrowd』の提供開始や、モバイルゲームアプリ『ディズニーツイステッドワンダーランド』の好調な売上げなど、今度の業績への貢献が期待できる成果が出始めている」と続けた。
映画の売上高は前年同期比6%減の1751億円、営業利益は244億円増の247億円。「テレビ番組制作におけるライセンス収入の増加はあったものの、映画製作での興行収入やメディアネットワークの広告収入が減少した。だが、映画製作における広告宣伝費の減少で増益になった」という。また、通期見通しについても、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う映画館閉鎖の影響によって、公開作品数が減少。これによる大幅な減収減益を見込む。
「映画作品やテレビ番組の制作については、一部の地域で再開しているものの、依然として厳しい状況が続いている。動画配信事業者からのコンテンツに対する需要は極めて高く、制作が再開されれば、テレビ制作については比較的早期に回復でき、独立系メジャースタジオとしての強みが活かせる」とした。
だが、劇場興行については、「映画館の閉鎖、入場制限の影響から再開後も公開スケジュールがひっ迫することが予想される。映画作品は、劇場公開を皮切りに複数年で収益を得ていくことから、公開ができないことによる業績への影響は2~3年に及ぶと見ている。その一方で、以前に劇場公開した作品のデジタル販売は好調である」とした。また、「ソニーにとって、劇場公開の重要性は変わることはないが、作品の長期的価値を最大化できるように、作品の内容や規模、時期に応じて、最適な販路を見極める」と述べた。
エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)の売上高は前年同期比31%減の3318億円、営業利益は342億円減の91億円の赤字。デジタルカメラやテレビ、オーディオ、ビデオの販売台数が減少したことが影響した。
「新型コロナウイルスの影響を、最も早くから、大きく受けてきたのがEP&Sだが、サプライチェーンはほぼ復旧し、製品カテゴリーや地域によって進捗は異なるが、顧客需要も回復基調にある。感染拡大の第2波、第3波に備えたオペレーションの再点検や効率化、eコマース販路の強化を含め、レジリエントな事業構造への転換を図る。今後は、音、映像、通信の融合により、リアリティ、リアルタイム、リモートを極める商品、サービスで事業の進化に取り組む」と述べた。
地域別に見ると、欧米、日本が回復基調にあるものの、アジアと中南米は回復が遅れているという。また、「テレビは巣ごもり需要があり旺盛。デジタルイメージングは厳しいが、5月に見通していたものに比べると回復は早い。今後に期待したい」と語った。
その一方でモバイル・コミュニケーションは、第1四半期に110億円の営業利益を計上。通期でも黒字化する見通しだという。
イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)の売上高は前年同期比11%減の2062億円、営業利益は241億円減の254億円。デジタルカメラ向けイメージセンサーやモバイル機器向けイメージセンサーの販売数量の減少が影響した。
「モバイル機器向けイメージセンサーは、大手顧客の最終製品の販売減、新型コロナの影響によるスマホ市場の減速、中位機種や廉価機種へのシフト、中国における部品や在庫の調整により、2020年度はマイナス成長になる。また、成長を見越して投資した設備の減価償却費、製造関連費用、研究開発費の増加の影響もある。また、モバイルセンシングは、スマホメーカー各社の採用の遅れや、採用しているフラッグシップモデルも市場変化で販売が減少。前年度からの成長は実現できない。また、AV向けイメージセンサーも、新型コロナの影響で、デジタルカメラ向けセンサー市場が縮小したことが影響している。これまでに想定していた3年程度の市場縮小が、1年で起こるという想定に基づいて今後を予測している」とし、「これまでの見通しと投資計画を、設備投資のタイミングの見直し、研究開発テーマの選別、顧客基盤の拡大、分散という観点から適切に調整する」とした。設備投資については、余剰生産能力を活用した戦略在庫の積み上げにより、2021年度に向けた投資を大幅に抑制。2021年度以降の投資計画についても慎重に見直すという。研究開発では、市場トレンドと市場ニーズを捉えて、優先順位の見直しに着手。「将来的な技術競争優位の維持、向上をしていくために、テーマと予算の過度な絞り込みは行わない。顧客基盤では、生産能力の関係から慎重に行っていた拡大、分散をより積極的に進める。中長期的には、AI処理能力を搭載したセンサーによるエッジセンシングにより、用途と市場を広げ、事業を成長させていく。環境変化に適応するための事業構造の強化を、1年程度で完遂し、2021年度下期には利益成長の軌道に戻す」と意気込んだ。
金融の売上高は前年同期比33%増の4468億円、営業利益は11億円増の472億円。ソニー生命の大幅増収が影響している。
今回の決算発表にあわせて、2020年度通期見通しを発表した。同社では、新型コロナウイルスの業績への影響が合理的に見通せないとして、2020年度通期見通しの公表を見送っていた。
売上高は前年比0.5%増の8兆3000億円、営業利益が26.7%減の6200億円、税引前利益は14.3%減の6850億円、当期純利益が12.4%減の5100億円とした。
セグメント別では、G&NSの売上高は前年比5224億円増の2兆5000億円、営業利益は16億円増の2400億円。音楽の売上高は前年比599億円減の7900億円、営業利益は123億円減の1300億円。映画の売上高は前年比2519億円減の7600億円、営業利益は272億円減の410億円。EP&Sの売上高は前年比1213億円減の1兆8700億円、営業利益は273億円減の600億円。I&SSの売上高は前年比706億円減の1兆円、営業利益は1056億円減の1300億円。金融の売上高は前年比923億円増の1兆4000億円、営業利益は124億円増の1420億円とした。
十時副社長は、「2020年度は、コロナの影響からのリカバリーに加え、アフターコロナの事業環境を見据えた戦略の構築にも注力する重要な年と位置づけている。ソニーグループは、人材や事業の多様性を強みとして、レジリエンスを高め、変化に適用し、危機を機会と捉えていく」と語り、「新型コロナウイルス感染症の拡大、米中摩擦を中心とする地政学的リスクの高まり、自然災害の影響は、社会や経済環境、人々の価値観やライフスタイルの変化にも影響を及ぼしている。これらの変化は短期に留まるものではなく、予見は困難である。最も強い者が生き残るのでなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一、生き残ることができるのは変化できる者であるという言葉があるように、ソニーも環境の変化に柔軟に対応し、それぞれの事業領域で集中力を高め、事業運営に取り組んでいく」とした。
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