同連載「特許なんでも相談室」では、スタートアップの方々からいただいた特許にまつわる質問や疑問に、大谷寛弁理士が分かりやすく回答していきます。第4回でご紹介するご質問はこちら。
Q.「特許の読み方が分かりません。どうやって読むのですか?」
A.「特許公報と公開公報を区別しましょう。その上で請求項の階層構造の理解が大切です」
特許出願について、出願後2回公報が発行されます。1つは出願後1年半経過して発行される「公開公報」です。もう1つは特許が成立した後に発行される「特許公報」です。他社特許を気にする場合には、特に特許公報に注目します。
自社特許、他社特許を問わず、特許の出願書類は大きく「特許請求の範囲」という部分と「発明の詳細な説明」という部分に分かれます。説明の簡略化のため「図面」については割愛します。前者に特許を受けようとする発明を記述し、後者でその詳細を説明します。前者はさらに「請求項」という単位に分けて記載されます。請求項の記載に基づいて発明の範囲は定められ、請求項記載の各用語の意義を解釈するために発明の詳細な説明の記載が考慮されます。
重要な点として、請求項の記載は、出願時に発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内で、一定の時期的要件を充たす範囲で書き換えることができます。出願後に発明の詳細な説明の記載に新たな事項を書き足すことは原則としてできません。この結果として、公開公報の特許請求の範囲は審査の過程で発明の詳細な説明に記載された事項の範囲内で書き換えられていくことが少なくありません。たとえば、審査官からの指摘に応じて請求項の記載に限定を加えることが多くの出願で行われます。
請求項には、独立項と呼ばれる性質のものと、従属項と呼ばれる性質のものがあります。独立項は、それ自体で発明を記述しており、従属項は、独立項に従属して、独立項の記載にその請求項の記載を加えて発明を記述しています。
たとえば、独立項である請求項1には以下のように記載されています。
ここで、A、BおよびCはそれぞれ発明を特定するための要件であり、請求項の記載がA+B+CであればA、BおよびCのすべてを充足する装置をカバーします。逆にA、BおよびCのいずれかを充足しない装置はカバーされません。また、A、BおよびCに加えて付加的なDも特徴とする装置がある場合、A、BおよびCをすべて充足する以上、請求項に記載された発明によってカバーされます。
従属項である請求項2は、たとえば次のように記載されます。
請求項2は、請求項1に記載されたA、BおよびCのすべてを充足し、さらに請求項2に記載されたEを充足する装置をカバーします。従属項は、いわばAND条件ですね。請求項2が請求項1の従属項として記載されていても、請求項1があくまでA、BおよびCのすべてを充足する装置をカバーすることは変わりません。したがって、請求項1は請求項2を包含します。
請求項1が請求項2を包含するのであれば、請求項1のみ記載しておけばよいように思われるのですが、こうした従属項を記載する意義として2つ挙げられます。
1つは、出願後審査官の審査を受ける際に、請求項1を独立項として記載し、請求項2から5を請求項1の従属項として記載しておけば、審査官は、請求項ごとに特許性の有無を審査することとされているため、請求項1、2、3および5は特許性がないが、請求項4については特許性があるといった審査結果を得ることができます。出願人としては、請求項4に記載した特徴で限定しても一定程度必要な範囲がカバーされるのであれば、請求項4以外は断念し、請求項4で特許を成立させようといった判断ができます。
もう1つは、特許は出願後に第三者が審判を請求することによって無効となることがあります。この際、有効無効は請求項ごとに判断されるため、抽象度の高い独立項に加えて、より具体的な特徴を記載した従属項を入れておくことによって、独立項は無効、しかし従属項は有効といった判断がなされることが期待できます。
公開公報と特許公報を区別することがまず第一歩です。それから特許請求の範囲に記載の各請求項は独立項か従属項のいずれかであるので、その点を区別し、どのような特徴を有していれば対象とする請求項により記述される発明によってカバーされ、逆にどのような特徴を外せばカバーされないのかを理解します。請求項に記載された文言の意義が十分に理解できなければ、発明の詳細な説明をその文言で検索して、妥当な解釈を探ります。
CNET Japanでは、スタートアップの皆様からの特許に関する疑問を受け付けています。ご質問がある方は、大谷弁理士のTwitter(@kan_otani)までご連絡ください。
大谷 寛(おおたに かん)
弁理士
2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2006-2011年 谷・阿部特許事務所 。2011-2012年 アンダーソン・毛利・友常法律事務所。2012-2016年大野総合法律事務所。2017年 六本木通り特許事務所設立。
2016年12月-2019年12月 株式会社オークファン社外取締役。
2017年4月-2019年3月 日本弁理士会関東支部中小企業ベンチャー支援委員会ベンチャー部会長。
2019年4月 ベンチャー知財研究会主宰。
2014年以降、主要業界誌にて日本を代表する特許の専門家として選ばれる。
事業を左右する特許商標などの知財形成をスタートアップの限られたリソースの中で実現することに注力する。
Twitter @kan_otani
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」