神戸市、NTT西日本、eスポーツイベントなどを手がけるPACkageは7月17日、「withコロナ時代におけるeスポーツによる地域課題解決に向けた連携協定」を締結したと発表した。新たなコミュニケーションやビジネスの手法としてのeスポーツの可能性を探るとともに、地域課題解決や産業新興につなげる実証実験などを実施する。同日の記者発表会は、神戸市内にオープンしたeスポーツ施設「eSPORTSアリーナ三宮」で開かれた。
今回対象となるeスポーツの定義について、PACkage代表取締役社長の山口勇氏は「コンピューターゲームやテレビゲームなどデジタル上で行われる対戦型ゲーム競技」と説明する。ハイスペックのゲームマシンや専用のデバイスを使ったゲームだけでなく、オンラインの将棋や囲碁、ぷよぷよもeスポーツに含まれ、プレイヤーは老若男女に関係なく拡がっていると話す。
国内市場規模は2022年時点で約695億円と予測され、地域での取り組みとしては、東京都が2020年1月に5000万円の予算をかけて2日間にわたる競技大会を開催。秋田県では2019年2月にeスポーツ国体の予選が開催され、富山県では同年4月に3日間24時間のイベント実施で地域の飲食店活性につなげていることなどが紹介された。
「若い世代の認知度は高く、なりたい職業ランキングにも入っている。プロのプレイヤーになるだけでなく、ゲームを中継するタレントや配信を行うクリエイターとして活躍したり、スキルを活かして関連企業に就職するケースもある」(山口氏)。また、若い世代だけでなくシニアの間でもeスポーツは浸透しており、スウェーデンではプロチームが活躍したり、さいたま市ではシルバーeスポーツ協会が2018年に発足している。
神戸市でも2018年から有馬温泉にeスポーツが観戦できるバーがオープンし、観光協会と連携でイベントを開催したほか、専門学校の設立や発表会場となった専門施設など、関連事業が拡大しているという。
神戸市企画調整局つなぐラボ特命係長の長井伸晃氏は「eスポーツを新しいコミュニケーションやビジネス手法として取り入れる可能性についてはコロナ禍の前から検討していたが、現在の状況下であらためて社会的・経済的合理性のある産業新興につながる可能性を探り、社会課題解決につながるプロジェクトを実施する」と説明する。
今回の連携協定で実施するプロジェクトでは具体的に以下の4つの取り組みを行う。
(1)eスポーツへの理解促進、今後の可能性を考えるウェブセミナーを開催
(2)高齢者や子ども向けのeスポーツを活用した実証事業の実施とその効果検証
(3)市内eスポーツコミュニティの醸成および関連イベントとの連携
(4)eスポーツの魅力や可能性を伝える動画による発信
セミナーは今秋からの開催を予定しており、イベントの運営やプレイするゲームのアドバイスなどをPACkageがサポートする。神戸市は、コミュニティの活性や他の地域イベントとの連携を進めるなど、横つながりを拡げる役割を果たす。
中でも大きく注目されそうな取り組みが、高齢者を対象とした実証実験で、NTT西日本が中心に実施する。高齢者同士や家族と一緒にeスポーツを楽しみながらICTリテラシーの向上やデジタルデバイドの解消、フレイル予防につなげ、健康相談や健康促進など新たな事業化が可能かを検証する。
NTT西日本ではICTを活用した課題解決「ソーシャルICTパイオニア」に取り組んでおり、本プロジェクトではシニアサービス事業において、ICTとeスポーツをかけあわせたwithコロナ時代に有効なコミュニティ機会の向上と、健康増進につながるサービスを実証実験する。
進め方としては慣れる、楽しむ、活かす、という3シーンに分け、介護施設の入居者に介護レクリエーションとしてeスポーツを使用してもらい、それ以外の生活も含めたさまざまなバイタルデータを接触、非接触型のセンサーを利用して昼夜にかけて収集する。次にオンラインコミュニケーションとして楽しんでもらう際の操作データをゲーミングサーバーにログとして蓄積し、健康事業やサービスの開発に活かせるか検証、分析する。
NTT西日本兵庫支店長の川副和宏氏は「実証実験は2020年内に開始し、検証を続けながら、2021年度に事業化のトライアルからヘルスケアサービスや医療分野などの新たなサービス化につなげたい。対象となる施設はこれから募集し、どのような機器を使ってどのようなデータを収集するかは協力先と調整しながら検討する」と説明した。実証実験に必要な予算や機器、設備などはNTT西日本が提供する。会場では一例として非接触で利用できる表情分析システムが紹介された。
このプロジェクトには発表会場に使用された「eSPORTSアリーナ三宮」を運営する上新電機や兵庫県eスポーツ連合などが賛同企業と参加し、参加協力先は随時募集する。プロジェクトを進めていく中で新たに必要な予算が生じた場合は、神戸市の産業支援事業や補助金の応募などで対応する。
神戸市の長井氏は「eスポーツを切り口にした官民一体となった取り組みをするのは全国初めて。一過性の取り組みに終わらせないためにも、運営については市民にも参加してもらいながら考えていきたい」と語った。
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