経済にも大きな影響を及ぼした新型コロナウイルスの感染拡大。緊急事態宣言も解け、停滞していた経済が再び動き出そうとしているが、仕事のスタイルは以前通りというわけにはいかなくなっている。
対面接客や紙による契約書のやりとりが当たり前とされてきた不動産業界は、非対面、リモートワーク推奨へと舵を切ったコロナ下においてどんな変化が起きたのか。「これからのPropTech(不動産テック)の未来とは -日米PropTech経営者・VCが語る-」(これからのPropTechの未来とは)と題して実施された、緊急オンラインイベントから、その現状を紹介する。
これからのPropTechの未来とはのイベントは、5月29日にオンラインで開催。GAテクノロジーズ 代表取締役社長CEOの樋口龍氏、イタンジ 代表取締役の野口真平氏という不動産テックを推進する企業2社の代表と、シリコンバレーで起業し、2017年にホテル型賃貸サービスの「Anyplace」をスタートしたAnyplace Co-founder&CEOの内藤聡氏の3名が登場。モデレーターはデジタルベースキャピタル 代表パートナーの桜井駿氏が務めた。
GAテクノロジーズとイタンジは日本、Anyplaceは米国で、新型コロナ感染拡大の影響を受けた。モデレーターの桜井氏が「コロナで受けた最も大きな影響、変化は」とまず質問すると、イタンジの野口氏は「セルフ内見マインド」とキーワードを提示した。
イタンジでは、セルフ内見型賃貸サービス「OHEYAGO(オヘヤゴー)」を2019年9月にスタート。スマホ1つで内見から申し込みまでが即日中に完結できるサービスで、セルフ内見型お部屋探しサイト「OHEYAGO(オヘヤゴー)」も展開している。
野口氏は「賃貸仲介会社の取引は基本的に店舗に来ていただくスタイル。しかし店舗内は"三密”になりやすく、内見に行きたいけれど、行けないというお客様が増え、取引がほぼできない状況になっていた」と3、4月を振り返る。
折しも春先のこの時期は不動産業界最大の繁忙期。「市場が盛り上がっている時に新型コロナ感染が拡大し、店舗がうまく機能しなくなってしまった。こうした状況を受け、セルフ内見を検討したいという声が入り始めた」(野口氏)と、セルフ内見に対するマインドが高まったと話す。
「セルフ内見については、導入を進める不動産会社がある一方で、将来的には取り入れたいと、様子見の会社もあった。しかし、今回のことで『今やらないとまずい』というマインドに変わった。密を避けられない対面での接客が主の会社は取引が減り、非対面ができている会社は需要を取りこぼさず対応ができた。今回のことで、二極化した印象がある」(野口氏)と感想を話した。
一方、樋口氏は「セールス改革」のキーワードを挙げる。GAテクノロジーズでは、イタンジとともに、高級賃貸物件を扱うモダンスタンダードもグループ傘下に持つ。独自の手法を展開するこの高級賃貸の営業で、セールス革命が起こっていると樋口氏は説明する。
「高級賃貸には専門のエージェントがおり、顧客は借りるニーズが強くなくても物件を見に行きたい場合がある。その時はもちろんエージェントも物件に足を運ぶ。これではお互いの生産性が低い。しかし、オンラインでの接客を取り入れると、現場に行く前にお互いのニーズを確認できる。これにより商談数は増え、成約率も高められた。新型コロナ感染拡大により、顧客側も事業者側も変わるきっかけになった」と営業スタイルが変化したという。
オンラインでの接客にあたり、現場の対応状況について桜井氏が訪ねると「GAテクノロジーズは、創業からリアルの実業部分も持っている会社。社内にいる営業担当者や設計士は必ずしもITリテラシーが高いわけではない。しかし、エンジニアとの距離が近いため、お互いにフィードバックをもらいながら、ツール設計などができる。社内にはそうした土壌があり、新たなプロダクト導入するなど、変化への対応はスムーズ。変化に対応できる組織の風土と柔軟さは、今回の新型コロナに限らず、今後も非常に重要だと感じている」と説明した。
一方、シリコンバレーに本拠地を置き、23カ国、70都市でサービスを展開するAnyplaceの内藤氏は「サプライ」と回答。「新型コロナによる悪い影響は、移動ができなくなっているため、需要が減っていること。しかし場所を提供してくれるホテルやバケーションレンタルといったサプライ側の問い合わせは増えている。これは宿泊施設の稼働率が下がり、回復にも時間がかかると見られる中、今ある物件を違った形で活用したいと考えているから。Anyplaceにとっては、拠点を増やすチャンスなので、今の時期はサプライにフォーカスして伸ばしていこうと考えている」と、サプライ側とのやりとりに注力する。
各国での状況については、「基本的に主要都市は外出規制や移動禁止になっており、同じ状況。そのため宿泊施設などサプライヤー側は本当に大変。米国に限らず欧州やアジアなど、各国のサプライヤーからお問い合わせをいただている。大手チェーンというよりも中小規模の施設が多く、そのため意思決定も早い」とした。
外出規制の緩和や商業施設の再開など、アフターコロナ、ウィズコロナの対応が求められている昨今、桜井氏は「アフターコロナにおいて、重要なキーワード、施策は何か」と問いかけた。
それに対し野口氏は「濃密と二極化」と2つのキーワードを挙げる。「空間的には密を回避するトレンドに向いていく一方、時間的なことや人の考え方、生産性は明らか濃密になっていると実感している。例えば、今までの会議は会議室への移動時間、人がそろうまでの待ち時間などがあったが、オンラインによってそれらの時間がなくなり、1日に10のミーティングをこなすことも可能になった。これは商談も同様で、北海道、大阪と場所を問わず、複数の商談が1日でできる。濃密になっているなということがわかる」と自身の働き方を例に出して現状を話した。
しかし「先日プライベートで飲みましょうと言われた時に『では日程調整をしましょう』と言ってしまい、ニューノーマルに思考がチェンジできていなかった。オンライン飲みならば、日程調整などせず、すぐその場で飲み始められる。仕事も同様で、ニューノーマルにチェンジはできていない会社は、生産性が落ちているように思う。濃密になる会社がある一方、対応できていない企業もあり、二極化していくだろう」と続けた。
桜井氏からイタンジにおける働き方の現状について聞かれると「スタッフ全員がビシッと働いてしまい、疲弊してしまった(笑)。ニューノーマルの働き方は濃密かつ効率のよいやり方だと感じる」とした。
樋口氏は創業以来のコンセプト「ワンストップ」と回答。「ワンストップの重要性を新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、改めて感じた。不動産を購入する際は、99%金融機関からの融資が必要になる。しかしこの時期、不動産融資を滞りなく活動していた金融機関は50%程度。供給を外部に依存することはリスクだと感じた。これは物件の賃貸、売買も同様で、新型コロナ感染拡大を受け、業務を停止する会社が出ると、ビジネスの流れが分断されてしまう。自社でワンストップで手掛けること、またほかの不動産会社にリモートでも業務が継続できるツールを提供することによって、不測の事態でもシームレスにやり取りができる改革を推進しなければと強く感じた」と、業界全体のビジネスのあり方について意見を述べた。
一方、以前からスタッフ全員がリモートで働いているというAnyplaceを率いる内藤氏は「リモート」のキーワードを挙げる。「コロナによって、時計の針は2~3年先に強制的に進められ、リモートワークを余儀なくされた会社は多い。アフターコロナで、大体の会社は元の体制に戻ると思うが、一部の会社ではリモートワークが続くだろう。それは、ビジネススタイルに大きな変化を起こすと思う。強く思うのは、オフィスに行く意味がわからなくなるということ。IT業界や若い世代を中心にオフィスにいかない職種に人気が出るのではないか。オフィスのあり方に対し起こる変化に注目していきたい」と考えを示す。
また「サンフランシスコはフルリモートを採用する会社が多く、この比率はコロナ後にもっと増えるだろう。以前はリモートワークを採用している会社に対し、投資家の見方はネガティブだったが、今はリモートワークにすることで、優秀な人材を世界中から呼び寄せられることが魅力と捉えられている」とシリコンバレーの現状についても話した。
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