新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大、4月7日に出された緊急事態宣言によって急速に業務のデジタル化、オンライン化の機運が高まっている。本記事では弊社(SmartHR)における業務のデジタル化、オンライン化を推進するための取り組みと、それでも残る出社対応、そして業務のデジタル化、オンライン化の今後について紹介する。
弊社では、従来一部職種を除き原則オフィスに出社しての勤務としていた。しかし、COVID-19の感染拡大を受け、3月末から雇用形態を問わず全てのメンバーに対し、自宅からのリモートワークとするよう方針に切り替えた。まだまだ試行錯誤中だが、オンラインで円滑に業務を推進するために、弊社で利用しているサービスや、社内制度の一部について紹介する。
契約書・請求書
契約書や請求書の作成、送付、管理には「クラウドサイン」と「DocuSign」を活用している。これらのクラウドサービスを利用することで紙とハンコを意識する必要がなくなる。また付随的なメリットとして、これらのサービスを利用した場合、収入印紙の添付を省略できるため、一定のコスト削減も期待できる。
商談
弊社では、これまでも積極的にオンラインでの商談を実施していた。全社リモートワーク切り替え後は、ほぼ全ての商談で「Zoom」や「MiiTel」、「ベルフェイス」などのオンライン商談ツールを活用している。オフラインでの商談と比較した場合、双方のネットワーク環境、通話場所、機材の充実度、ツールへの習熟度などさまざまな要因によって、コミュニケーションが困難になるケースが見受けられるのも、実情としてある。
またオンライン商談を行う際に、声が聞こえない時や説明内容が分かりづらい場合には、すぐにその場で質問していただくよう繰り返し伝える、オフラインでの商談以上にミスコミュニケーションを避ける工夫が求められる。
入社受け入れ
新しいメンバーの採用や受け入れは、オンラインでの対応が難しい業務のひとつだ。労務関連手続き、オリエンテーション、必要機材のセットアップや受け渡しなどを全てオンラインで行うのはなかなかハードルが高いもの。弊社では次のツールを利用して入社受け入れのオンライン化を実現している。
・「SmartHR」
・「Jamf」
新入社員へ配布するMacのセットアップには「Jamf」を活用。Jamfは、Apple製品に特化したモバイルデバイス管理(Mobile Device Management:MDM)ツール。Jamfを利用することで、PCを起動してネットワークに接続するだけで、必要なアプリケーションのインストールや設定を自動で完了できる。これにより、機器のセットアップのために情報システム担当者が出社するというシチュエーションを極力減らしている。詳細については、弊社ブログでも公開している(Jamf ProでMacのゼロタッチデプロイをやってみた話 - SmartHR Tech Blog)。
・「Zoom」
新入社員のオリエンテーションには「Zoom」を活用。特に最近では入社初日からリモートで働き始めるという特殊な状況であるため、普段以上にセキュリティ研修に力を入れている。オンラインでのオリエンテーションでは、ゆっくりハッキリ話す、質問がないか細かくヒアリングするなど、オンライン商談と同様にコミュニケーションミスが発生しないよう工夫することが求められる。
多様な自宅環境の整備
全メンバーリモートワークに切り替えてさまざまな課題が明らかになった。特に各人の自宅環境においては、多種多様な課題が見つかった。例えばデスクや椅子がなく腰が痛くなる、外部モニターがなく作業効率が落ちる、インターネット回線を契約していない……などなど。多くの会社でも同様の問題にぶつかっていると推察する。
これらの問題に対処するためには、業務内容、会計、公平性などさまざまな観点から検討を進める必要がある。弊社では、人によって異なるこれらの課題に対応するために「リモートワーク環境を整える手当」を一律で支給した。加えて、水道ガス光熱費や通信費などの月々の負担が増えることに対し、別の手当も支給している。制度についての詳細は弊社のオープン社内報にて公開している(※「リモートワーク環境を整える手当」を支給する理由|SmartHRオープン社内報
また、ハンコ以外にも出社が必要となる業務もある。例えば、株主総会や取締役会は会社法によって「日時および場所」を定めるよう要求されているため、今のところ完全にバーチャルで実施することは現実的ではない。
他の例としては住民税に関連した業務もある。毎年5月に市区町村から事業所宛に住民税関連の書類が送られてくる。地方税法により企業の担当者はその書類を受け取り、5月 31日までに従業員に手渡す必要がある。昨今のように従業員が在宅で働いている場合は書類を郵送する必要もあり、さらに手続きは煩雑になる。
このように対行政において、あるいは法的根拠によって出社が必要となってしまう業務はまだまだ残っているのが実情である。また民間でも例えば「契約書は紙に押印をしてほしい」とお願いされる機会もある。
リモートワークを阻害する要因はさまざまあり、ひとつひとつに対し対策を講じていく必要がある。具体的な施策として、ある企業から送付された請求書などの電子データが、真にその企業から送られたことを証明する仕組みである「eシール」と呼ばれる技術を利用した、情報のやりとりが議論されている。総務省は4月に開かれた有識者会議にて、2022年度からこのeシールを利用した証明を、民間企業が行うことに対する認定制度の運用を行う計画を明らかにした。
私たち民間企業においては、まずは自社業務のひとつひとつを見直す必要があるだろう。例えば契約書や請求書は本当に紙面で行う必要があるのか、社会保険関係手続きは電子申請で行えないか、商談はオンライン上で行えないか……。幸いなことに世の中にはさまざまなクラウド型業務ツールやサービスが提供されている。COVID-19によって世の中の意識が急速に変わりつつある現状を追い風に、行政のみならず各社が自社業務を見直すことで、日本国全体の一層の生産性向上を願ってやまない。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」