どうやって弁理士を選んだらいい?--スタートアップのための「特許なんでも相談室」

大谷 寛(弁理士)2020年05月11日 08時00分

 同連載「特許なんでも相談室」では、スタートアップの方々からいただいた特許にまつわる質問や疑問に、大谷寛弁理士が分かりやすく回答していきます。第3回でご紹介するご質問はこちら。

Q.「これから特許出願に取り組んでいきます。どのように弁理士を選んだらいいでしょうか?」

A.「事業理解の姿勢、報酬体系、リスクテイクのマインドセットなどは確認できるとよいポイントです」

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【解説】

 最も大切なことは、依頼者である貴社の事業をしっかりと理解したいという姿勢があることです。スタートアップに限らず、特許というものは事業と整合していて初めて価値が生まれるものですので、事業からずれてしまうと価値がありません。そして、事業と整合させるためには、どういった事業なのかを理解することが必須になります。

 これは、意外に難しいことです。特許出願の依頼を受ける弁理士は、多くの場合において自ら事業会社の経営に携わったことがありません。あるいは、新規事業の立ち上げに携わったことがありません。こうした経験はもちろん弁理士として適切に役割を果たす上で必須ではありませんが、なんらかのかたちで事業に向き合う経験、少なくとも姿勢が求められます。

 加えて、新規事業の中でもスタートアップの事業は急成長を目指すことから、さまざまな変化が短期間に生じます。自社の方向性が修正されたり、競合他社が生まれたりします。こうした環境変化に適応しながら、今後の貴社にとって価値のある発明を権利化するためには、スタートアップというものがどのように生まれ、成長していくのかについての理解も求められます。「好きなスタートアップはありますか?」こんな質問をしてみるのもいいかもしれませんね。

 また、弁理士の報酬体系という問題があります。特許出願を実行して初めて報酬が発生する体系になっていると、特許出願をさせることにバイアスが働くので、弁理士とは別に、出願戦略は弁護士に依頼するのがよいという指摘がされることがあります。実際、弁理士の報酬が出願の実行で発生するように設計されていることが多く、ここは業界の課題としてあります。

 ただし、これは単に報酬体系の問題で、出願するか否かではなく、出願すべき発明があるか否かを独立して検討できるかたちになっていれば、指摘されるようなバイアスは生じません。いずれにしても、出願すべき発明があるのかという観点から助言をしてくれる弁護士、弁理士かということは確認したいところです。生株、ストックオプションなどによってインセンティブを揃えるという方法が機能することもあるでしょう。

 リスクを取ってスタートアップとともに困難を乗り越える気持ちがあるかということも大切です。スタートアップは、さまざまなリスクを抱えています。リスクを指摘することは基本的な役割として求められるところですが、リスクがあること自体はスタートアップにとって当然のことです。特許出願を進める中で、仮に特許庁から否定的な判断が示されたとしても、それをいかに乗り越えていくのかを懸命に考えてくれる人がお勧めです。これまで扱った案件で一番難しかったものについて聞いてみるのも一案です。

 最終的には相性はあります。ただ、事業理解の姿勢、報酬体系、リスクテイクのマインドセットなどは確認できるとよいポイントです。

CNET Japanでは、スタートアップの皆様からの特許に関する疑問を受け付けています。ご質問がある方は、大谷弁理士のTwitter(@kan_otani)までご連絡ください。

大谷 寛(おおたに かん)

六本木通り特許事務所

弁理士

2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2006-2011年 谷・阿部特許事務所 。2011-2012年 アンダーソン・毛利・友常法律事務所。2012-2016年大野総合法律事務所。2017年 六本木通り特許事務所設立。

2016年12月-2019年12月 株式会社オークファン社外取締役。

2017年4月-2019年3月 日本弁理士会関東支部中小企業ベンチャー支援委員会ベンチャー部会長。

2019年4月 ベンチャー知財研究会主宰。

2014年以降、主要業界誌にて日本を代表する特許の専門家として選ばれる。

事業を左右する特許商標などの知財形成をスタートアップの限られたリソースの中で実現することに注力する。

Twitter @kan_otani

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