ドコモ・ベンチャーズは2020年度も「積極的に投資」--稲川社長が語る“正統派CVC”の強み

 国内で歴史が長く、規模も国内最大級のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)であるNTTドコモ・ベンチャーズ。これまでに総額700億円にいたる5つのファンドを運用するとともに、投資したベンチャー企業とNTTグループ各社との共創を次々と実現してきた。

NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役社長である稲川尚之氏
NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役社長である稲川尚之氏

 2016年7月より副社長としてNTTドコモ・ベンチャーズに参画し、2018年6月に代表取締役社長に就任した稲川尚之氏のもと、独自方式でスタートアップの育成にも取り組んでいるほか、2019年には海外を中心にスタートアップへの投資件数を過去最高の30件に伸ばすなど活動を加速させている。CVCとして13年目となるNTTドコモ・ベンチャーズならではの強みや投資基準、2020年度の展開について、稲川氏に話を聞いた。

国内最大級の「正統派CVC」として12年間投資

ーーこれまでの活動の歴史とNTTドコモ・ベンチャーズの特徴を教えてください。

 創業時の2008年は、まだ日本は“ガラケー”の時代でした。我々も当初は、NTTの出資を受けて組成したファンドで、ネットワークサイド、サーバーサイド、そしてガラケー端末のための要素技術や拡張性を広げるための投資を手掛けていましたが、スマートフォンが海外から入ってきて状況が一変します。

 2010年を過ぎたあたりで、オープンイノベーションが言葉として登場し、ちょうどその頃スマホにアプリをのせるという考え方が出てきて、ガラケー端末をどうするかではなく、よりソフトウェアやサービスに注目するようになりました。通信キャリアとアプリケーションプロバイダの“組み合わせ”で新しいサービスを提供するという形となり、そこにベンチャー投資が集まっていきました。

 その後はUberなどが登場し、新しい概念のサービスが次々誕生していった。これが2010年代前半に起きた出来事です。当社もそれに合わせて投資対象を変えてきました。

NTTドコモ・ベンチャーズの歴史
NTTドコモ・ベンチャーズの歴史

 私はその頃、米国のシリコンバレーでグループ内の別会社でベンチャー投資をしていました。2016年に先代の社長に招かれて当社に来たのですが、私も含め海外勤務経験者が多数いたため、ドコモ・ベンチャーズは日本のベンチャーキャピタル(VC)としては、積極的に海外ベンチャーへの投資を行う特徴があります。ボーダレス社会の経済では、それが普通です。

 市場の流れをうまく捉えた投資を12年間続けてきた経験、財務的リターンと戦略的リターンの両立にこだわった方針を徹底し「国内最大級の正統派CVC」と認知いただけるよう活動していますが、実際にCVCの中では最大級のファンドサイズを持つ会社だと思います。

ーー10年以上にわたり、デバイスや技術の進化にあわせて投資対象を変化させてきたNTTドコモ・ベンチャーズですが、次の注目技術はやはり「5G」でしょうか。

 5Gには高速・大容量、低遅延という技術的な特徴があります。2023年度中に全国エリア展開すべく、対応エリアを拡大しておりますが、高度化された通信インフラを誰が、どのように活用するのかというところに期待しています。5Gという通信インフラの技術的特徴が、デバイスを進化させ、革新的なサービスを誕生させる土台になるでしょう。

 たとえば、制御する際に通信の遅れがないので遠隔制御ができるとか、いずれは遠隔医療が可能になるとか。ドローンもモバイルネットワークを介して飛ばせるので、より遠くまで飛ばせるようになります。こうした「できること」が増えることで付加価値が連鎖的に生み出されていく状態が、近い将来に対する期待です。

携帯キャリアならではのCVCの強み

ーー700億円という最大規模の投資をしていますが、最近投資してきたベンチャー企業の特徴などありますか。

 プラットフォームを意識しています。そのプラットフォーム上で情報を地点Aから地点Bに運ぶ際に、ただ運ぶのでなく、みんなが欲しい情報に変える。つまり付加価値、分析結果等を提供する、お金を出してでも欲しいものを作り出せるかというのが、我々が見ている大きなポイントです。

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 たとえば、2月に開催したカンファレンス「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2020」で海外から参加していただいたベンチャーは、全部その領域に関わっています。具体的には、AIやセンシングデバイス、ビッグデータ活用などを強みとしています。彼ら、彼女らの技術は通信が運ぶデータに意味を持たせ、新しい可能性を生み出します。

 規模の面では、まず100億円以上のファンドを5つも運用しているCVCは国内には中々ありません。計算上2年に1回ファンドを起こしていて、2019年は年間30件の投資を実施しました。また投資したら終わりではなく、その会社とお付き合いをしてイグジットするまでフォローするので、かなり大きな数をカバーしていると思いますね。

ーー他のCVCと比べた携帯キャリアならでは強みはありますか。

 我々はNTTグループのCVCなので通信業界に精通しています。例えばアプリの話をするときなども、作り方というのは重要なポイントなのですが、たとえば通信ネットワークで情報が多すぎるとつながりにくくなりますよね。5分おきにサーバーと同期をとるアプリは効率が悪く、1時間に1回だと効率が良いアプリになる。

 必要なときに通信を使い、必要以上にクラウドサーバーを使わない作りであれば、当然コストも違うし、ユーザー体験も変わってくる。我々はそういうところは重要だと認識しているのですが、この辺の感覚は、ほかの業種のCVCやVCと比べると、違う点かと思います。勘所を知っているというか、普通の投資家であれば、これから業界研究するぞ、となるところが、我々の場合はすでに社内に情報が流通し、知識として定着しているのです。

ーー稲川さんが考える投資の「成功」の基準とは何でしょうか。

 ベンチャー投資の成功とは何かという議題に関する答えは出ていないですね。今の答えは、ベンチャーの実力を発揮するタイミングと大企業が世の中を変えたいというタイミングがピタッと合うところにどう合わせるか。そこがすごく重要で、戦略リターンの肝です。日本ではベンチャー企業の価値は大企業の力を使って押し出さなければならない状況なので、ちゃんと大企業を捕まえられるか。我々はそこの橋渡しをしています。

 それと今であれば、投資をしてしばらく育んで、という最中にいかにうまく5Gを乗せられるか。インフラ技術が順調に進化しているところ、2023年度に全国規模のネットワークになることを見据えどうやって投げ込むか、そのタイミングがものすごく重要になると思います。それが結果としてベンチャー投資成功という形になると思うので、今はそれを追い求めています。

オフィスを持たないスタートアップを「全方位」で育成

ーースタートアップ企業には財務面だけでなく、場所貸しや5Gの検証環境を用意するなど、全方位でサポートされていますね。

 通常のインキュベーション活動のほかに、オフィスにコワークスペースとイベントスペースを持っていて、スタートアップ関係者が集まって交流してもらえる場を提供しています。コワークスペースは“スタートアップスタジオ「/HuB(スラッシュハブ)」”という名称で、1年実験しているところですが、オフィスを持たない若い5名以下のスタートアップを半期に最大5社入れて、半年間自由に活動してもらっています。

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 研修プログラムのようなものは用意せず、プル型で事業計画が書けない場合相談に乗ったり、弁護士を呼んで法律相談に乗ったり、資金調達する前にCOOを探したいときに紹介してつなげたり、ピッチの練習に付き合ったり。そうやってサポートしたスタートアップの中には、ピッチコンテストで優勝した会社もありました。実験という意味では、ドコモのサービスに役立つかは考えずに、そのスタートアップが半年でどれだけ成果が出るかだけを考えています。残念ながら、いまは新型コロナウイルスの影響によりコワークスペースは一時的に閉鎖していますが、サポートする関係は続けています。

ーーこの支援には、投資もセットになっているのでしょうか?

 半年程度で送り出すので、投資はもう少し後にならないとできません。その時になったら声をかけて下さいと言っています。ただ、彼らからは欲しいところに手が届いていると感謝されていまして、実際に口コミで応募が増えています。世の中のベンチャー育成に役立っていて、中で交流も起き、イノベーションが起こって後で帰ってくる。この時間軸の“溜め”がすごく大切です。我々は独立した別会社としてやっているので、そういう変わったこともできるのです。

ーーNTTグループ内での共創実績にはどのようなものがありますか。

 我々のファンドから投資したベンチャー企業の株式をNTTグループが買い取り、事業連携のレベルを高めるケースがいくつか出ています。最近では、地元情報の掲示板サービスのジモティと、飲食店向け予約管理のトレタがNTTドコモとの資本業務提携に至り、ネット炎上対策会社のエルテスは、NTTコミュニケーションズの子会社と連携しました。この後、各ケースがどうなるかが我々も関心を持って見ていきたいところで、日本ではどういう形ならばベンチャー企業を取り込むことができるかを見定めることが、僕らの課題であると考えています。

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