農林水産省は4月23日、「農林水産業の作業安全対策に資する新技術カタログ」を作成・公表した。ウェブサイトからダウンロードできる。
農林水産業(農業、林業、漁業)における作業の安全性向上に向け、機械作業を無人化する技術や、負荷の大きい技術を支援する技術など27件を紹介している。
農林水産業の現場では、就業者の減少や高齢化、人手不足等を背景に、就業者を確保していくことが喫緊の課題となっている。一方で、農林水産業においては、高齢者を中心に作業中の事故の発生が絶えず、農林水産業における事故発生率は、全産業平均や建設業を上回って推移しているという。
このため同省では、農林水産業を若者が未来を託せる産業にしていくことを目指し、作業安全対策を一層推進するとしており、2月には業種を横断して作業安全対策を検討する有識者会議を立ち上げ、新たな対策について検討を始めた。
この取り組みの一環として、同省が公表した本カタログでは、無人トラクターを有人監視することにより安全性を確保しながら生産性を大幅に向上する技術や、負荷が大きく危険もある草刈り作業を自動で行うロボット、重量物を持ち上げる際の体への負担を軽減するアシストスーツ、画像認識により豚の体重測定を行うことで事故防止や省力化を図る技術を紹介。
このほか、林業で危険な伐倒作業を無人で行う機械、養殖における潜水作業を無人化する水中ドローン、スマートフォンを用いて小型漁船の安全操業を支援するシステムなどを紹介している。ここでは27件の中から4件をピックアップして紹介したい。
クボタは、遠隔操作で効率的に農薬散布ができる「農業用ドローン(MG-1RTK)」をはじめ、無人で自動運転作業ができる「アグリロボシリーズ」や「ラジコン草刈機(ARC-500)」、腕を上げた姿勢をサポートし、果樹の棚下作業を軽労化する「ラクベスト(ARM-1D)」を紹介。
伊藤忠飼料とNTTテクノクロスの「デジタル目勘」は、撮影画像から豚の体重を推定できる非接触の体重推定システムだ。
出荷時の体重の違いなどで豚の価格が変わることに悩む養豚農家に対し、豚の体重を簡易に推定することで作業を省力化できる。
松本システムエンジニアリングのラジコン式伐倒作業車「ラプトル」は、これまで重機が入れなかった傾斜地などの林地へ人間に代わって進入し、立木の伐採及び搬出を行えるのが特徴だ。前方にクローラー、後方にタイヤを有する半装軌車両。
駆動は油圧モーターによるもので、走破性を確保するため、各々のクローラーとタイヤにモーターを配した全輪駆動。傾斜地で作業を行う際に車両の転倒・落下を防止するため、アシストウインチを装備。アシストワイヤーは車両の走行速度にシンクロして繰り出し・巻取りを行える。
作業者は手元のコントローラーによって最大100m離れた位置から無線にて車両を操作できる。
日本無線の「沿岸域向け安全操業支援システム」は、日本海域で発生している船舶事故の約3割を占める漁船事故に対し、スマートフォンを活用した技術適用による沿岸域の事故抑制や安全性向上を目指すもの。
スマートフォンのGPS機能をもとにした船舶位置、システムで収集された周辺のAIS搭載船舶位置情報をスマートフォン画面上に表示する。船舶同士の衝突危険性を検知し、画面表示や音により警報通知が可能。現在実証試験中であり、システムの有効性や必要機能の抽出等を検証中だ。
生産性向上や省力化等を目的としたAIやIoTなどを活用したスマート技術は、農林水産業の分野においても急速に発展しつつある。同時にそのような技術は、危険な作業における無人化等を通じて作業安全対策にも貢献し得ることから、この面でもさらなる活用が期待され、多くの民間企業等がこの分野に参入することが期待されると農林水産省は話す。
なお同省は、3月17日に「農林水産業・食品産業の現場の新たな作業安全対策に関するシンポジウム」の開催を予定していたが、新型コロナウイルス対策感染拡大防止のため、広く集客しての開催は中止された。
代わって、シンポジウムに登壇予定だった有識者の講演や、関係者による対談を行い、その模様を動画により近日中に配信する予定だ。「全国の事業者を始めとする多くの関係者にぜひ視聴してほしい」とコメントした。
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