次の誤解は、「(新規事業が)失敗するのは優秀な人がいないから」というもの。これに対して吉田氏が考える新常識は、「チームの力を結集し、生み出す方法論がないから」。つまり、個人の能力だけが問題なのではなく、それを取り巻く環境が十分ではないのが問題だと見ている。
同氏は、人材の質を見る以上に、企業側が新規事業創出の方法論も提示していく必要があると説く。たとえ既存事業で活躍してきた人材であっても、新規事業開発は未知の領域。正しいやり方がわかっていないのだから、「うまくいかないのは当たり前」というわけだ。したがって、最初に企業が方法論を定義することが重要となる。
方法論の定義にあたって必要なのは、「新規事業のプロセスと意志決定基準を決める」「制約条件を決める」「意志決定関係者を決める」の3点。特に新規事業開発におけるプロセスのフェーズごとに、「突破条件」をあらかじめ決めておくことが大切だと同氏は話す。
たとえば初期の課題定義と仮説構築のフェーズでは、「仮説検証の方法が想定できること」というのが突破条件になりうる。また、事業化を判断するフェーズでは、「初期顧客が獲得できたかどうか」「成長因子を発見できたかどうか」といった項目が基準となる。いずれにしても、最初の段階でそうした条件をはっきり言語化して定義しておくことで、意志決定者が判断に迷ったり、プロジェクトの前提をひっくり返されたりすることも防げるとした。
そして最後の誤解が、リーダーや意志決定者には、「新規事業が成功するかどうかを適切に判断しなければならない」というプレッシャー、バイアスがあるのではないか、というもの。これについては「世に出してもいない新規事業の正しい判断は誰にもできない」が吉田氏の答えだ。
たとえば新規事業を企画するにあたり事業計画書を作ったとき、意志決定者としては「(売上予測などの)数値が正しいかどうかではなく、なぜその計画書の内容になっているのか、ロジックを問うことが大事」だという。「実現に向けて想定されるリスクをちゃんと把握しているか、リスクへの対策ロジックが立っているか」にも注目すべきと同氏は語る。
また、事業計画書を作成する新規事業開発担当者としても、提出までには仮説検証の重要性を理解しておく必要があると話す。課題が本当に存在するのか、そもそも実現可能なのか、顧客がなぜそのサービスを使いたくなるのか、などの仮説1つ1つについて想定顧客に実験し、その結果からまた次の仮説を作る。「このサイクルを何度も繰り返して、徐々に検証項目クリアにしていく」ことが求められる。
こうした丁寧な仮説検証を重ねていくことで、それ自体が上申する際の「武器」にもなりうる。事業計画書の中身は「生きたロジック」になり、説明にも説得力を帯びてくることは間違いない。
最後に吉田氏は、「新規事業への挑戦はすごく難しいけれど、もっと楽しくしたい。楽しくするためには、やり方とプロセスが明確であることが重要」と述べ、この日解説した3つの誤解と新常識の重要性を改めて強調した。新規事業開発の意志決定者や担当者は、基礎的な知識として頭に入れておく必要がありそうだ。
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