吉田氏の指摘する誤解の1つが、新規事業開発は「計画を立てて確実に実行しなければならない」というもの。同氏はこれに対する新常識として「複数の仮説を実行して柔軟に変化させる」ことが必要だと提案する。
これまでは、その時点からの延長線上にある単一の未来を想定して、あらかじめ計画した内容の通りに進めていくことが是とされていた。しかしながら、今や常に変化し続ける不確実な未来しかない。このため、起こりうるいくつもの可能性を想定して、「変化をいかに感じながら対応できるか。それに対応したうえで学習して進化できるか」が焦点となる。そもそも前提として「新規事業は失敗がほとんど」であることも忘れてはならない。
だからといって、アイデアを粗製濫造すればいいというわけでもないと釘を刺す。方向性が定まっていないなかで多方面にリソースを投入していく方法だと、学びが蓄積されないのが最大の問題だという。蓄積もなければ成功もない。方向性を固めたうえで、その範囲で学習し、変化に対応していくことが重要となる。「立てた計画は変化していく。変化方向もプロセスに盛り込みながら、どんどん進化させていく」とともに、「共通知を増加させ、最小限のリソースでいろいろなところに投資していったほうがいい」とアドバイスする。
また、新規事業開発における検討要素の1つである「提供手段」については、「圧倒的なアップデートがポイントになる」と同氏は力を込める。たとえば海外のUberのように、モビリティを提供する点でタクシーとは価値に違いはないが、一般のドライバーがその役目を担うという全く新しい提供手段によって成功を収めている。課題や市場がすでにあり、そこにプレーヤーもいる状況での参入は、最終的な提供価値としては変わらない以上、提供手段を大幅に変えなければ競争優位性を得ることは難しい、というのが同氏の考えだ。
一方、「提供価値」の再定義や新提案をしていくうえで重要なのは、「今までの当たり前を破壊する」こと。同氏は、その最たる例がAirbnbだと語る。Airbnbでは、従来宿泊目的でしかなかったホテルを、旅行の価値を高めるためのサービスに置き換えており、まさに産業の壁を超えて「当たり前を破壊」したわけだ。
さらに、提供価値を検討する際の方法論として、「フォアキャスティング型」と「バックキャスティング型」についても紹介。「顧客の声を集め、なぜペイン(悩み)が起こっているのか、裏側にある価値観を構造化して、その構造の中心にある重要なポイントを押さえてアイデアに落とし込んでいく」フォアキャスティング型の思考と、「一度未来を想起して、今何ができるのかを複数検討することで変化に対応したシナリオを描く」バックキャスティング型の思考を取り入れながら、柔軟に変化、進化させていくのが「今の新規事業のリーダーに求められる能力」だとした。
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