NHKは、3月よりインターネット経由で番組コンテンツを届ける常時同時配信・見逃し番組配信「NHKプラス」の試行サービスを開始。放送番組補完としてのインターネット活用に本格的に乗り出すことになった。
「常時同時配信」とは文字通り、テレビで放送されている番組をそのままインターネットで同時間帯に配信するサービスだ。試行期間にあたる3月中は1日17時間程度(7~0時)、本サービス開始を予定している4月からは1日18時間程度(6時~0時)が配信される。
配信されるのは、地上波放送のNHK総合テレビと教育テレビ(Eテレ)。ただし、サービス開始段階では南関東エリア(埼玉、千葉、東京、神奈川)を対象とした放送番組を全国に配信する形となる。
見逃し配信の期間は7日間で、翌週の同時間帯番組終了までが目安。例えばドラマであれば、前週を見逃したまま放送時間を迎えても、NHKプラスでの視聴が可能で、見終わった後に続けて放送されたばかりの回を視聴する、というスタイルが可能だ。
従来のインターネット配信サービス「NHKオンデマンド」(NOD)と異なり、あくまで「放送の補完」の位置づけとなることから、受信契約料の追加負担はなし。もちろん、受信契約者の家族たちはそれぞれの携帯端末で利用することができる。
また、NHKプラスでの見逃し配信開始に伴い、NODのサービスパックを改定。「見逃し見放題パック」と「特選見放題パック」(各月額990円)の区分を撤廃し、「まるごと見放題パック」(月額990円)に統合されることとなった。
NHKプラスを利用するためには、専用アプリをダウンロードした上で、利用申し込み画面で必要情報を入力する必要がある。
専用アプリには、オンエア中番組の追いかけ再生、見逃し番組のキーワード検索、ジャンルや話題性に基づいたオンエアリストの提供など、動画配信サービスに求められる基本的な機能性が盛り込まれた印象だ。
一部ニュース番組については項目ごとにチャプター分けされており、選択することで頭出しが可能。気になるニュース項目映像にダイレクトでアクセスすることができる。SNSなどでの共有機能も備えており、気になるシーンを一時停止した状態で「場面を共有」を選択すれば、その場面からの映像を張り付けることができる。
配信ビットレートは最大1.5Mbps(SD画質相当)だが、Wi-Fiの有無など環境に応じて画質を選択することも可能。字幕表示の有無も選択可能で、表示する場合は位置(画面内・外)を選ぶこともできる。
利用申し込みによる受信契約が確認できない場合は見逃し配信を利用することはできず、同時再送信については「契約確認メッセージ」が表示される形となる。また利用申し込み後、契約住所に送られてくるハガキに記載された確認コードを入力する必要があり、一定期間、コード入力が行われない場合にも「確認メッセージ」が表示されるようになる。
1つの放送受信契約に対して発行されるIDはひとつだが、同時に5画面まで視聴可能。端末そのものに台数制限はなく、仮に機種変更などを行った場合も新端末にIDを入力することで問題なく利用できる。
「NHKプラス」導入の狙いは、ずばり「若年層の接触機会拡大」だ。2月20日に行われた「体験会」で説明にたったNHKアナウンサーの池田伸子氏は「スマホで視聴できれば、より多くの層に番組を見ていただく機会が増えると考えている」と話し、放送とは異なる視聴層の広がりに期待感を示した。
実際に触れてみた印象としても、一般的な動画配信サイトなどと比べて特に違和感はなく、ニュースチャプターの頭出しや番組の場面共有、字幕や副音声対応など「放送局の強み」を活かしたアプリに仕上がっていると感じた。
一方、池田氏も難点として指摘した「検索ワードに求められる正確性」は、あいまいなキーワード入力で対象をすくい上げることが一般的となっている現代において少々、時代遅れな感がある。紐づけの対象が番組プログラム(EPG)となっていることが主な要因だが、より幅広い検索ワードへの対応が早急に求められることになるかもしれない。
緊急災害発生時には、仮に見逃し配信サービスを利用していても強制的にリアルタイム放送へ引き戻す機能を持つ。
ただし、前述したとおり当面は南関東エリアの放送番組を全国に配信する形であり、そもそも同時配信においても30~40秒程度の遅延がある。「引き戻し」自体はNHKのアプリらしい機能だが、緊急時の情報ツールとして頼るには少々心許ない面がある。
その他、放送局による同時再送信サービスが本格化した場合、最も期待されるのは「各局横並びのプラットフォーム」だ。
この点について、今回の体験会では「(民放などから)要望があれば参加を検討していく方針」と返すにとどめたが、在京5局が立ち上げた無料配信ポータル「TVer」には2019年9月より一部番組を提供しており、同様の展開が期待されるところだ。
さまざまな制度的な壁をクリアしてスタートする、NHKの無料インターネット配信サービス。特に若年層においてはネットに押されがちな状況が指摘される昨今、NHKのみならず放送業界全体に「プラス」をもたらすことができるか。まずは3月の試行サービス開始後の状況を見守りたい。
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