——県と市の間で異動することはあまり多くはないのでしょうか。
福岡県から福岡市っていうのは、ありそうですけど、ないんですよ。「伊賀忍者から甲賀忍者になるような、そんなことは許さん」みたいなイメージがある(笑)。でもそのときから私は決めていたんです。とにかく福岡市という街を楽しくしようと。産業政策なんていう言葉ではなく、街を楽しくするのに自分の知識やネットワークをフルに使おうと考えていました。
たとえば福岡市が全国からゲーム作品を集めて審査する、人材育成のためのゲームコンテストをやっていたんですが、学生や親御さん、学校の先生を呼んで表彰式をやるだけで、300人くらいしか参加者がいなくて、これは面白くないと。そう思って福岡市に移って1年目、市民が楽しめるイベントに置き換えました。
そうしたら5万人くらいの参加者が来て「福岡すごい」みたいな勢いになって、さまざまなゲーム系メディアでも紹介されて手応えを感じました。やっぱり“楽しい”を作った方がいいんだなと。
そういうことを福岡市でやっているときに、NTT西日本から声をかけられました。私が福岡eスポーツ協会の会長でもあるので、一緒にもつ鍋を食べながら、NTT西日本の人から、eスポーツを始めたいというクライアントの相談に対するアドバイスを求められたりしていた。そのうち、わざわざアドバイスを求めに来るよりも、私がNTT西日本に入れば話が早い、みたいなことになったんですよね。
ゲームは人を笑顔にする力がある。これを福岡市に限らず、もっと広域でやりたいと思ったときに、NTTだったらそれが実現できる。便利な世の中よりも、多少不便でも楽しい世の中を作りたいという思いが強くなっていたので、2019年4月にNTT西日本に移ったんです。
——福岡市では、やれることはやりきった感じがあったのですか。
まだまだやれることはあったんです。エンタメ産業をずっとやっていたのとあわせて、現地のスタートアップのメンタリングを担当していた時期もありました。今、福岡市はスタートアップの街としても有名になってきていますけど、その下地づくりをずっとやっていたんです。メンタリングは年間200人くらいしていて、ライフワークみたいになっていましたね。
結局、福岡県庁には9年、福岡市役所には3年いて、福岡市に政策の提言をするアジア都市研究所というシンクタンクに3年いました。このシンクタンクにいた頃は「Pokemon GO」を毎日やっていましたね。長いときは1日17時間くらい、他の仕事は一切せずに。背中に水のタンクを背負って、水をチューチュー吸いながら、ポケットに入れた食料を食べながら歩き回っていました。
——ガチゲーマーですね(笑)。
でも、それはもちろん仕事の一環で、ゲームを街作りに生かすための論文も書いたんですよ。ARゲームを外でプレーすると人の動きはどう変わっていくのか、それが高齢化社会においていかに役に立つのかみたいな。2016年には福岡市役所のロビーで一般の人を集めて「中島、コンプリートしたってよ~Pokemon GOと地域活性化の可能性を探ろう~」っていうセミナーを開きました。
毎日17時間もプレーしていると、人々を街で回遊させるARゲームの仕組みみたいなのが嫌でもわかるようになるんですね。それを科学的にデータも用いて立証した。めちゃくちゃ遊んでるんだけど、実は裏ではきちっとロジカルに仕事していたんですよ。高島市長にはそれを理解していただいていたので、NTT西日本に転職するときは快く送り出してくれました。むしろNTT西日本に行くんなら、より密にやろうよと。
——NTT西日本に入社してからはどういったことをされているのですか。
完全にeスポーツを中心にした仕事ですね。ゲームは依存症になったり、やりすぎると生活がめちゃくちゃになると言われたりもしますが、eスポーツというのは本来、ゲームで人と競技することによってコミュニケーションするためのツールだと思うんです。楽しくなるものを、なぜ悪く言うんだろうと。
その誤解を解いていくためにも、eスポーツをゲーマーではない人たちにも広める必要がある。それで、子どもたちだけのeスポーツ大会とか、子どもと大人が一緒に参加できるeスポーツ大会とか、お年寄りや引きこもりの子たちも参加できるeスポーツ大会を開いています。
そうした中で、NTTってそういう人や地域の格差をテクノロジーで埋めたりできるし、高齢化社会にNTTのビジネスアセットをつぎ込んで良くしていくことができるんですよね。
ですので、今は社会課題とeスポーツを合体させたような施策を展開して、地道に地方を回ってeスポーツに関するイベントやセミナーを開いています。最初は儲かるかどうかよりも、「面白い」「楽しい」みたいなことから仕立てていって、そこからビジネスにしていくという2段階で考えているところです。
——eスポーツというと、FPSや格闘ゲームみたいなものを思い浮かべがちですが、高齢者がプレーするようなeスポーツタイトルは、たとえばどういうものなのでしょうか。
意外と優しいものだけが良いわけじゃなくて、難しいゲームをされることもありますね。もちろん格闘ゲームもあります。お年寄りも趣味嗜好はバラバラですからね。意欲的な人は若者と同じゲームをプレーしたいという人もいます。海外で盛んなPCゲームをやりたいという人もいれば、Nintendo Switchのパーティーゲームがいいという人もいる。
昔はクルマに乗っていたけれど、もう乗れないからということでレースゲームを好む人もいます。(ゲームで)初めて鈴鹿サーキットを走ったよとか。若い人でもゲームをする人もいればしない人もいるわけで、お年寄りはこうだとひとくくりにするのはナンセンスだなと思いました。
以前、やっていたものを思い出せるようなゲームは特に燃えるみたいですね。あとは子どもや孫が楽しんでいるものを自分も知りたいとか。かつては正月に親戚が集まったとき、みんなで福笑いをやっていたわけですけど、それが今はテレビ画面の前でゲームを楽しむのに変わっただけです。
テレビ画面の前に親戚が集まるようなシーンがゲームのCMであるじゃないでですか。そうやってみんなで遊ぶのがeスポーツの源流みたいなものですよね。だからそういうことを私は実現したい。おじいちゃんおばあちゃんでも楽しめる、というのを模索していこうと思っています。
——高齢者の方にもライトゲームを望む方もいれば、本格的なゲームを好む方もいるのですね。ちなみに、NTT西日本だからこそ可能になったことや今後の展望はありますか。
地方で啓蒙する活動は福岡市ではできなかったことですね。相談されればお話をしに行くし、eスポーツをやりたいという人がいれば、NTTがもつアセットとeスポーツの知識とをあわせて、地域を豊かにするような事業も提案できる。eスポーツが社会的に意味のあるものだということを啓蒙して、いずれはそれを支援するサービスを開発していきたいですね。
それと、NTT西日本の支店の方にも、別枠でeスポーツに関する勉強会を開いています。eスポーツのことが分からないと、地域の人とのビジネスにもつながらないですからね。
——ありがとうございました。後編では福岡eスポーツ協会の会長として、中島さんが考えるeスポーツの魅力や、日本を取り巻くeスポーツ環境についてお話を伺います。
(2月27日掲載の後編へ続く)
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