企業の新規事業開発を支援するRelic。これまで2回に渡り、新規事業開発において同社が掲げるコンセプト「インキュベーション戦略」と「IRM(イノベーター・リレーションシップ・マネジメント)」に関するインタビューをお届けしてきた。今回は、3つ目のコンセプト「インキュベーションテック」についてご紹介する。
インキュベーションテックでは、Relicが提供する新規事業開発やイノベーション創出に特化したSaaSの1つ「Throttle(スロットル)」が大きな役割を果たすことになる。新規事業開発における唯一無二のイノベーションマネジメント専用システム業務管理プラットフォームとして、導入企業はすでに700社を超え、大手企業を中心に活用が進んでいるという。
では、Throttleとはどのようなツールなのか。また、このツールによって何が実現できるのか。同社代表取締役CEOの北嶋貴朗氏と、取締役COOインキュベーション事業部長の大丸徹也氏に話を聞いた。
——まずはRelicが考えている「インキュベーションテック」とは、どのようなものなのか教えていただけますか。
大丸氏 : インキュベーションテックは、新規事業開発やオープンイノベーションなどのインキュベーションを組織的・構造的に、再現性高く実行するための仕組みや技術を指しています。当社ではこれを3つのフェーズに分けていまして、1番目を「事業アイデア創出~事業構想・プラン策定」、2番目を「事業性の検証・PoC(Proof of Concept:概念実証)~初期顧客の獲得」、3番目を「初期顧客の定着~顧客の拡大・グロース」としています。
このデータベースを活用することで、たとえば特定のテーマ・強みをもつベンチャーやスタートアップと協業したいとき、あるいは新規事業のテストセールス先として最適な企業を探したいときなどに、必要な情報をお客様やパートナー企業様に提供できるようにしています。
——今回のメインテーマであるThrottleは、どのようなツールなのでしょうか。
大丸氏 : Throttleは、主に「事業アイデア創出や構想・プランの策定から事業性の検証を行うフェーズで活用するもので、全社的な新規事業開発における活動状況やアイデアの整理・管理に加えて、前回お話しした、我々の提唱するIRMを効率的に運用するためのクラウドサービスです。簡単に言うと、新規事業のアイデアを集め、仮説検証と評価をし、チーム作りとプロトタイプ作りをしてテストマーケティングしていく。この一連の流れを回すためのツールですね。
——新規事業開発のなかで言うと、どの立場の人がどういった用途に活用するものになりますか。
北嶋氏 : 新規事業開発においては多様な用途に対応していますが、主な利用者としては、IRM実践者である新規事業創出制度やプログラムの事務局の方や、新規事業開発をミッションとする部署の部門長の方などになります。ツールの役割としては、新規事業のアイデアの管理という側面と、アイデアを出したイノベーター候補人材の管理というタレントマネジメントのような側面の大きく2つがあります。
CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)を実践するときにMA(マーケティング・オートメーション)ツールが必要なのと同様に、IRMを実践するためにイノベーションマネジメント・プラットフォームのThrottleを使う、みたいな感じですね。
——競合と比較したときのThrottleの特徴は何でしょうか。
大丸氏 : イノベーションに特化したクラウドサービスという意味では、実は国内には競合や同類のサービスは存在しません。これまでに500社以上の企業様の新規事業開発をご支援する中で、これまで未解決だった各社に共通する課題を解決しようと色々と模索し、国内外のサービスを調査したのですが、適したものが見つからなかったのです。であれば、自分達で創ってしまおう、ということで我々が新たに開発したのがThrottleです。特徴としては、社内でイノベーションマネジメントのプロセスを一気通貫で管理・運用できることに加えて、社外のアイデアや技術などを活用するオープンイノベーションに取り組む際にも、独自データベース活用による有望ベンチャー・スタートアップの発見・探索や、その後の協業プロジェクトにおける進捗管理やコミュニケーションの場としても使っていただけることです。
Throttle上のプロジェクトを社内外問わず一元的に管理しながら、新規事業開発のプロセスを全社的に可視化しつつ進捗させることが可能になります。
今のところ最も多い用途は、やはり社内の新規事業創出プログラムや社内ベンチャー制度ですが、起業家育成プログラムやアイデアソン・ハッカソンからビジネスコンテスト、アクセラレーションプログラムにも使われます。あるいは企画・編集会議や新商品開発、もしくはデザインコンペなどのように、何らかのアイデアを集めて管理し、評価・選定をして磨き上げていくというプロセスを踏む類の取り組みであれば、どんなものにでも応用できるようになっています。
——Throttleが備えている主な機能を教えていただけますか。
大丸氏 : まず、Throttleではアカウントが大きく3つの権限に分かれています。1つは事務局やIRM実践者である「管理者」のアカウント、もう1つがアイデアを審査する「審査員」のアカウント、そして最後の1つがアイデアを応募する「応募者」のアカウントです。
同時に複数のプロジェクトを立てることができるため、たとえばRelicが社内新規事業プログラムのプロジェクトを進めながら、社外の人も応募できるオープンイノベーションプログラムのプロジェクトを並行して走らせることも可能です。
管理者アカウントのダッシュボードでは、今のアイデア応募状況がひと目でわかるようになっています。応募締め切りまでの日数、当日の応募数、応募総数、審査フェーズ、審査が終了するまでの日数などです。ここでは全体の活動状況のサマリーをひと目で確認することができます。アイデアを募集する告知用のWEBサイトや、その先の応募フォーム等も管理画面から自由に作成できます。ウェブサイトと応募フォームは必要な項目をマウス操作で簡単に作成していけますので、わざわざエンジニアに動いてもらう必要はありません。
北嶋氏 : あとは、トーク機能も好評ですね。事務局やIRM実践者の方から応募者のアイデアに対するコメントやフィードバックを送るなど、双方向のコミュニケーションを図って、そのアイデアを改善し、定期的なアドバイスや議論が行われる場としてもご活用いただいています。
これとは別に、事務局内部用のメモとして、「今度対面でメンタリングするときは、こういった観点でフィードバックをしてあげよう」みたいな内容を残しておけます。他に管理台帳を作らなくてもThrottle上でアイデアに対する考え方を残せます。
各ユーザーのログイン時刻、アイデアを投稿した時刻、アイデアのアップデートをした時刻といったログはすべて記録され、これを事務局・IRM実践者が見ることもできます。ログインはしてくれたけれど締め切りギリギリになっても応募がないとか、応募後にコメントしたもののその後ログインした形跡がないとか、ログを見ながら確認できます。
それをもとに「悩むところがあるなら相談に乗りますよ」とか、「アップデート方針で迷っていたらメンターをつけますよ」とか、IRM実践者がこのツール上で適切な方法でイノベーター人材の支援ができる仕組みになっています。
——審査員用のアカウントの画面ではどのようなことができるのでしょうか。
大丸氏 : 審査員が触れることになる画面については、審査基準が企業ごとに異なりますので、それに合わせて管理者が作り込んでいただけます。アイデアを評価する際の各基準ごとの点数も、ゼロイチ(あり/なし)で評価するものもあれば、0~10の10点満点で評価するものもありますので、そういったスケールの設定もしていただけます。
北嶋氏 : 審査フェーズも自由に設計できます。一次審査、二次審査、最終プレゼンというのがよくあるパターンですが、書類審査と最終プレゼンのみにしてもいいですし、審査フェーズごとに異なる審査員を設定してもかまいません。
審査員が5名いたとして、たとえばそのうち何名による審査が終わっているかがわかり、平均・最低・最高点と、現時点で最も優秀なアイデアはどれか、というのも自動的に浮かび上がります。
審査結果の一覧をCSVでダウンロードしてより詳細に分析することも可能ですし、審査終了後の合否連絡メールを、テンプレートを使ってThrottle上から一括送信する機能もありますので、応募者が多くても手間は増えません。
——初心者の方にも分かりやすそうなUIですし、かゆいところに手が届く機能を豊富に揃えている印象を受けました。
北嶋氏 : 最初にメディアに取り上げてもらったのはSaaS型クラウドファンディング構築サービスのENjiNEだったのですが、実は創業後、最初に創ったサービスはこれだったんです。前身は「ignition」というサービス名で、オンプレミスで提供しており、数十社に導入していただいたのですが、段々と汎用的なものにできそうだなという感触が生まれてきて、市場全体の傾向としてもクラウドに対する抵抗感が薄くなってきていたこともあって、SaaS化する形でリニューアルすると同時に大幅にアップデートして2019年にリリースしたものがThrottleになります。
先程国内には競合がいないと申し上げましたが、海外ではいくつか類似サービスと呼べる類のものがあります。ただ、これは外資系のITサービスでよくある話なのですが、どれも導入や利用の障壁が高い複雑なサービスで日本語のサポートも弱く、また高価なものが中心でした。そんな中で、日本企業の新規事業開発や業務プロセスの実態に寄り添って、もっと簡単に導入できるものがほしいというご要望が非常に多かった。社内にエンジニアが多数いたり、IT利活用のレベルが高い企業だと既存のシステムを無理やりカスタマイズして使っていたり、スクラッチで開発することも可能です。もしくは簡単なところだといくつかのASPを組み合わせ、運用を何とか工夫しながら乗り切っていることもあります。ただ、ある程度の規模以上の企業だと複数のASPを利用することがそもそもセキュリティ面含めて難易度が高かったりするんですよね。
新規事業開発が上手な企業として有名な某大手ITサービス企業の新規事業創出プログラムの責任者の方とお話させていただいた際にも、新規事業開発プロセスに特化していない、別の業務改善系クラウドツールをカスタマイズして運用されているという話を聞いたのですが、「でも、それはその企業が特別だからできることだよな…」と。ほとんどの企業はそれと同じことはできないだろうなという思いもあって、それを汎用化したら需要があるのではないかと考えたのも、SaaS化しようと思ったきっかけの1つですね。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」