病院は他の多くの場所と比べて、IoTの活用に適した場所だ。スタッフ、患者、在庫の追跡は言うに及ばず、血圧計、ベッドサイドモニター、輸液ポンプやその他モニター機器の接続など、ユースケースの投資収益率(ROI)を考えてみてほしい。
医療業界は、5Gにさらに多くのユースケースを見出している。スキャンデータの迅速な送信や遠隔医療の拡大、拡張現実(AR)および仮想現実(VR)を利用した治療などだ。
5GとIoTを組み合わせたユースケースはどうだろう。医療には多様なユースケースがあるが、そのためのインフラやIT予算が不足している。テクノロジー業界は、電子医療記録、相互運用性、機械学習により強くフォーカスしている。コストも大きな課題だ。病院のIT予算は、すべてのスマートデバイスを安全に保護したり、それらを相互に接続するネットワークを構築したりするには足りないことが多い。
ここでは、5Gが病院のIoTなどのプロジェクトに役立っている事例と、潜在的な課題を見ていく。
シカゴのラッシュ大学医療センターは1年ほど前、キャンパス内の1棟のビル内ネットワークを5Gに移行する計画を発表した。
同病院は、米通信大手AT&Tの5Gネットワークやマルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)などのサービスが提供され次第、それらを利用する意向だ。ラッシュ大学医療センターはビル内のネットワークだけでなく、MEC経由で広範囲のネットワークのトラフィックも管理する。これにより、同病院はデータのネットワーク通信とアプリケーション処理のニーズを満たすことができ、システム全体の多様なユースケースを強化し、患者体験の改善が可能になる。ネットワークの一部は患者と見舞客用に、残りは医師やスタッフ用に設計される。
同病院のチーフエンタープライズアーキテクトを務めるJeremy Marut氏はインタビューで、古いインフラの更新に多大なコストがかかることが、5G移行の大きな理由だと語った。最初のステップの1つは、病院のアトリウム内にミリ波アンテナを設置し、5Gホットスポットを使って病院内のPCと各種デバイスを接続することだという。
同病院はキャンパス内に外来向けのビルを建設予定で、ここでは最初から5Gが組み込まれる。
新しい5Gハードウェアを設置するために必要な労働力が不足しているのと同様に、病院のIT関連予算には、5G用のハードウェアを完備する余裕はないようだ。
Accentureは2018年、米通信業界が向こう7年間に5G網の構築に投資する額を2750億ドル(約30兆円)と予測した。5G網を拡大するためには、通信会社は光ファイバーを敷設し、電柱などの既存インフラに何万ものスモールセルや分散アンテナシステム(DAS)を配置する必要がある。
この5G拡張のコストの一部は通信会社が負担するが、すべてではない。Mckinseyは、通信会社がコストを分担するために、新しいネットワークと新たな収益モデルの共同構築を検討していると示唆した。
また、病院は独自に5Gに投資する前に、5Gが一般企業に普及するのを待っているようだ。5Gは現在、米国の約30都市の限られた地域でのみ利用可能だ。そうした地域でも、速度にはばらつきがある。
また、医療における5G活用の恩恵は、都市部に限られるかもしれない。5Gはレイテンシーが少ないので、農村地帯の人々は遠隔医療の恩恵を受けられるようになるかもしれないが、そのためには5Gがその地域をサポートしている必要がある。通信会社は都市部での5G構築にフォーカスしている。農村地帯に5Gインフラを設置してもROIが見込めないのが主な理由だ。
米国の患者と医療関係者は、医療での5GとIoTの恩恵を、あと数年待つ必要があるようだ。中国の患者は、こうした進歩を米国の患者よりもかなり早く享受できるかもしれない。中国では、30の病院、華為技術(ファーウェイ)、中国医療機器協会、3大通信会社が共同で2019年9月、病院ネットワーク向けの初の5G標準を策定するプロジェクトを立ち上げた。
標準が策定されれば、診察や医療画像解析を含むデジタル医療改善における5G開発が加速するだろう。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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