国内最大級のクラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」を運営するマクアケは、2019年12月11日に東証(東京証券取引所)マザーズに上場を果たした。2013年5月にサイバーエージェント内の新規事業としてスタートした同社は、6年半で上場という1つのマイルストーンに到達したことになる。同社の代表取締役社長/CEOの中山亮太郎氏に、創業からの振り返りや上場への思い、2020年以降の意気込みを聞いた。
——まずは、このタイミングで上場した理由や狙いを聞かせてください。
特に時期は意識しておらず、スケジュール的に1番早いタイミングだったのが2019年12月でした。クラウドファンディングという言葉がいい意味で(世間に)広まりましたが、逆に広がりの遅さを強く感じています。メディアなどで取り上げられるクラウドファンディングは、投資信託やオンライン募金、新製品やサービスがデビューする場など、異なる概念が混在するようになりました。
「Makuake=クラウドファンディング」ではなく、僕らがしっかりとした日本語で説明しないと、広がるスピード感や価値を発揮するスピードが加速しません。このような背景から、一気に事業を加速させる狙いと、Makuakeの特徴や価値をダイレクトに伝える。そして、事業に説得度を持たせたパブリックカンパニーを目指すために、上場することにしました。スムーズかつ予定どおり上場できたことを嬉しく思います。
——マクアケとしては、「クラウドファンディングの会社」と呼ばれたくないということでしょうか。
そうですね。僕ら自身はもう使わなくなりました。メディアさんなどでそう紹介されるたびに「まだまだブランディング不足だな」と思っていて、よりダイレクトな言葉を模索している最中です。Makuakeが「何かを伝え、新しいものを体験・応援できるサービス」であることが(世の中に)伝わることが重要ですから、人々の頭にイメージしやすい形にシフトさせようとしていますが、僕らとしては苦しい戦いなんですよね。
我々も含め、これまでスタートアップはトレンドワードに甘えてきたと思います。IoTとかブロックチェーンとか。(Makuakeを)経済に浸透させる上で、実体をともなった説明をしなければならないため、自分たちの価値に自信を持ち、自分たちの言葉で伝えることを意識しています。
——上場以降にMakuakeのイメージを伝えていく上で、意識していることはありますか。
1つ1つの表現に気を遣うことですね。僕らがなぜ、ここまで成長できたのか、どのように成長したいのかという部分を自ら自信を持って消費者サイド・企業サイドに提示することです。
自分が関わりつつ(商品やサービスを)手に入れる体験は、これまでにない消費スタイルであると同時に、誰もが持っている“面白さ”だと思います。オンライン・オフラインで商品を購入するのではなく、自分が応援の気持ちを持って購入する行動は、(商品・サービスの)実現や広がりにつながります。消費者サイドも作り手との関係性が深まり、新たな体験を得られるでしょう。この感覚はみんな大なり小なり持っていますので、潜在的な需要を老若男女に広げていきたいです。新しい消費感覚を持ち始めているユーザーさんがファーストターゲットです。
企業サイドは、社内に能力やアイデアはあるのに、何かしらのしがらみで前に進めないというケースは少なくありません。企業サイドに対するMakuakeの認知度はまだ低いため、「能力やアイデアを持った方は前に進めるんだよ」ということを理解していただくために、丁寧に取り組んでいこうと思います。
——上場にはメリットもありますが、情報開示や説明責任が増すといった側面もあるかと思います。その点をデメリットとして感じますか。
株主とのコミュニケーションや上場企業としてのあり方にコストを掛けなければなりませんが、特に大きなデメリットは感じていません。上場準備期間も企業の“筋肉”が拡大しているイメージがありました。大変でしたが、企業として拡大するための必要な要素と捉えています。愚直に事業を伸ばしていくのみですね。
——マクアケはサイバーエージェントグループの新規事業として始まり、12月に上場に至りました。サイバーエージェントグループであることを意識していましたか。
特に意識したことはありません。たまたまスタートしたのがメガベンチャー企業ですが、気持ち的には普通のスタートアップと同じく、「事業拡大を目指さないといけない」という気持ちで取り組んできました。僕自身がVC(ベンチャーキャピタル)出身ということもありますが、「ちゃんとスタートアップの社長にならなきゃダメだ」という強い思いはありました。
なので、時には親会社の支援も受けますし、頑なにならず正しくお願いすることは意識していました。マクアケは多くの銀行やメーカーとの接点を持たず、ゼロから始まったスタートアップであると腹をくくれたので、上場を実現できたのだと思います。
ただ、大企業の中にも優秀な人材は多いので、新しいことはすべてゼロから始めるべきという風潮は正しくないと思っています。価値があることに取り組むことが重要です。(サイバーエージェントは)21世紀を駆け抜けているメガベンチャーですが、普通の企業にはない強みを持っていました。その強みを生かして新企業を立ち上げることは正しいと思いますし、日本社会はもっと新規事業創出の機会を押し上げるべきだと思います。
もう方法論を議論するフェーズではありません。日本にそのような余裕はなく、総力戦で新しい産業をサポートして拡大させないと、次の50年の雲行きも怪しいのではないかと、多くの方が不安視しています。この不安を払拭する可能性を1つでも生み出すことが重要だと思っています。
——ちなみに、サイバーエージェントの藤田社長(同社代表取締役社長の藤田晋氏)に経営の相談やアドバイスを受けたことはあったのでしょうか。
そうですね。後輩経営者として年に数回、金言をいただきました。(藤田氏が)事業の詳細まで把握しているわけではないので、その時々で自分から質問を投げかけては言葉をいただいています。たとえば、サービスのプロデュースやビジネス構築、ブランド構築する思考法などですね。目線にあったアドバイスをいただいていますが、その言葉をそのまま受け取るかは僕次第です。事業の参考にするか見極めつつ、思考を重ねています。
——中山氏はもともとVC出身者でもありますが、スタートアップが上場する際に、企業によっては“上場ゴール”と揶揄されることもあります。この点についてどのような考えを持っていますか。
そうですね。(上場ゴールが)事実だとしたら「それまで」だと思います。そこも含めて経営トップや経営陣、メンバーに世界観やビジョンを伝えなければなりません。働くみんなが同じイメージを共有しているか、また上場するレベル感を全員が意識し、アウトプットできるかが重要だと思っています。
——ひと昔前と比べると、未上場でも資金調達がしやすい環境になっています。
ファイナンスが多様化した背景もあります。どこかのタイミングで上場は必要ですが、自分のタイミングですることが重要だと思います。外部圧力などで意図しない上場はベストではありません。僕らはプレッシャーもなく、必要なタイミングで必要な額を適切に市場から得られたのは、プラスに働いています。また、巨額な資金調達を避けたのも功を奏しました。資本効率がとても良かったんです。オペレーションの効率化や経営戦略の緻密さなど1つ1つのアクションを無駄にしないという丁寧さも含めて。
普通ならプラットフォームの拡大に数十億円を投入すると思いますが、僕らは数億円前半にとどめました。若い組織ですが、企業文化として管理意識が高かったんだと思います。いわゆるスタートアップの資金方策と真逆のやり方ですね。もともと僕がVCだったので物事の本質を見ながら、どのタイミングでVCや銀行を活用し、事業会社にお願いするかを整理できていました。事業もVCもどちらもやるハイブリッド経営者だったので、オリジナルの資金方策ができたのではと思います。
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