クラウドファンディングで複数回の支援額達成を実現しているVIE STYLEが、GREEN FUNDINGで新たなクラウドファンディングを開始した。対象製品はシリコン製の柔らかいボディを採用した完全ワイヤレスイヤホン「VIE FIT」の改良版となる「VIE FIT2」。クアルコム製の最新チップを搭載し、安定性を重視したモデルとなる。
「新感覚」「奇跡」とヘッドホン、イヤホンの概念を覆すキーワードで語られることの多いVIE STYLEだが、その目新しいモデルはどうやって生み出されているのか。代表のYazz Imamura氏に聞いた。
VIE STYLEの第1弾モデルはヘッドホン「VIE SHAIR」だ。3Dデザインした「エアーフレーム」により、本体が耳に触れず、長時間つけても痛くならないことが特徴だ。しかし元のコンセプトは「音楽を聞きながらコミュニケーションができること。音楽体験をシェアしたいのに、周りの人と話せないのはつまらないと思った」とImamura氏は話す。その奇抜さから日本ではなく米国のKickstarterでクラウドファンディングを実施。約1500万円を集めた。
Imamura氏の前職はEvernote。IoTという言葉が出始めた時期に開始したグッズ販売を受け、「ネットにつながることで、ハードウェアの1つひとつから情報を吸い上げられることが面白いと思った。もともと音楽が好きでミュージシャンをやっていた関係もあり、音楽系のガジェットを作りたいと思った」ことが、VIE STYLE立ち上げのきっかけだ。
ハードウェアの開発経験はなかったが、リーマンショック直後だった市場環境が追い風になった。「当時は日本の電気メーカーが低調で、それまで開発や生産を受けていた中小企業の仕事が減っていた時期。手があいていることもあり、スタートアップと組んでものづくりをしようという機運が高まっていた」と振り返る。
本拠地を構える鎌倉の「ファブラボ鎌倉」に出入りすることで、エンジニアなどとも知り合い、開発をスタート。ただしVIE SHAIRに関しては「すごく変なヘッドホンだったので、日本では無理と言われ、米国のKickstarterにお願いした」という経緯だ。
「1号機を作ってみて感じたのは、ハードはすごい大変だなぁということ。実際、1号機は出荷予定が遅れて、ようやく出荷にこぎつけたものの最終チェックでノイズが出ていることが判明。年末の夜中というタイミングで、エンジニアを叩き起こして、工場のある大阪に向かった。結局基盤に1つパーツが多いことがわかり、それを1つずつ取って対応した」と開発時の苦労は尽きない。しかしそれ以上に「ハードウェアはモノを出しただけで、その場で評価してもられる。テクノロジーに強い人もそうでない人も、さらには年齢も超えてその場で反応が返ってくるのは、ネットの世界では味わえないこと」と喜びが大きいとImamura氏は話す。
こうした苦労を乗り越えて作った第2弾モデルは、当時話題になり始めた完全ワイヤレスタイプのイヤホンVIE FIT。こだわったのは、装着感だ。完全ワイヤレスに限らずイヤホンの筐体は金属やプラスチック製で硬く、長時間つけていると耳が痛くなってしまうことが一般的だ。VIE FITでは、柔らかいシリコンを使うことでどんな耳にも合う形状を実現。耳の奥まで入れられることで、臨場感ある再生音を体験できる。
柔らかいイヤホンに行き着くまでに、Imamura氏は試行錯誤を繰り返す。「半年近く、ありとあらゆる素材を耳の中に入れてみた。もちろん自分だけではなくて、家族や友人、知人にもとにかくお願いして、耳型を研究していった」と素材を選んでは、耳型に切り抜き、耳の中に入れる作業を積み重ねる。
その時に強い味方になったのが100円ショップ。「100円ショップには、粘土からスポンジ、ウレタン風のものでまでありとあらゆる素材がそろっている。想定している素材や欲しい形状に近いものが必ず見つける。それを手で加工して試作品を作っていた。自分では『100円モックアップ』と呼んでいて(笑)、何よりいいのは低価格に押さえられること」と独自の開発手法を明かす。
3Dプリンターが普及してきた今でも、モックアップを作るには数百万を要することもある。「100円ショップを活用すれば2000円でかなりの種類のモックアップが作れる。そこで感覚を掴んで素材や形状を絞り込む。ハードウェアの開発にはうってつけ」と経験談を交えて話す。
100円モックアップを経て作ったVIE FITは、そのフィット感の良さに加え、スピーカーを鼓膜近くに持ってくることで、音に包まれるような再生音を実現。「柔らかいシリコンで作ったソフトシェルは、各自の耳の角度にそって耳の穴に入れられるため、隙間が開かず音が逃げない。さらに長時間つけていても耳が痛くならない」と特徴を説明する。
しかしVIE FITには、通信性で問題が生じた。初期の完全ワイヤレスBluetooth用チップを採用していたため、左右の接続が安定せず、音が途切れるケースが相次いだ。「本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。とにかく直して対応するほかなく、マイナーアップデート版に無償交換をして対応した。クラウドファンディングは支援金として先にお金をいただく仕組み。期待を下げてしまったことを申し訳なく思っているし、期待に応えたいという気持ちが強い」と話した。
VIE FIT2では、通信部分を大幅に改善。クアルコム製の最新チップを搭載することで途切れにくさを追求した。「VIE FIT2を開発し、それをお客様に届けるところまでがワンロールだと思っていて、ここまでに約2年かかっている。これがご評価いただければやりきったと感じられるかなと思っている」と現状を話す。
新機軸のヘッドホン、イヤホンを生み出すVIE STYLEが次に狙うのは、生体情報を活用したウェアラブル機器としての展開だ。すでに、デジタル・クリエイティブスタジオのSun Asteriskと業務提携を結び、開発を進めている。
「脳波を取るには、頭全体に帽子のように装置をつけなければならないが、それだと頭蓋骨がシールドになって取りにくく、髪の毛が邪魔をして正確な数値をとれないためジェルをつける必要があるなどの問題があった。そこで耳の中を使って脳波を取得する。技術自体は以前からあるものだが、接着性が難しかった。今回VIE FITのように柔らかく耳の中に密着するタイプのため、クリアに脳波が取得できる」と仕組みを説明する。
将来的には、脳波のほか、心拍、呼吸などの生体情報を取得し、ストレスが増えている、リラックスしているといった人間の状態を把握し、それにあわせた音楽を流したり、アドバイスしたりといった使い方を考えているという。
「脳波は小さいため、取得しづらく、開発はイヤホンの10倍難しい。さらに取得したデータをAIで解析して、意味づけするなどハードウェアの上にさらに大きな世界がある」と可能性は広がる。「VIE STYLEの創業時からのコンセプトは『Feel the Life - 味わい深い人生を』。音楽サービスを通して人の暮らしを豊かにしていきたい。イヤホン、ヘッドホンというハードウェア開発を通じて得た知見をもとに、コンテンツ、サービスの世界にも広げていきたい」と今後について話した。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」