パナソニック アプライアンス社、テレビ事業に大きくメス--売上追わず、利益の質を変える

成長ドライバーは中国、テレビ事業は他社協業を含め構造改革

 パナソニック アプライアンス社は、家電事業の新たな方針を発表。⾧期的に目指す姿を「いつまでも、お客様に『心と体の健やかさ』をお届けし、しあわせを実現する」とし、あわせて新たな戦略事業領域として「くらしインフラ」と「くらしアプライアンス」の2つを定めた。

 「くらしインフラ」領域は、空調冷熱ソリューションズと食品流通で構成。調和された空気による新たな空間価値を提供し、「くらしアプライアンス」領域は、ホームアプライアンスとスマートライフネットワークを含め、家電だけでなく、サービスも含めた、新たなくらし価値を提供することになる。

 また、各事業の状況を捉えて、「投資・強化領域」、「転地領域」、「構造改革領域」、「効率化領域」に分類。テレビについては、「構造改革が必要なフェーズに移行する」(パナソニック アプライアンス社社長の品田正弘氏)とした。

パナソニック アプライアンス社社長の品田正弘氏
パナソニック アプライアンス社社長の品田正弘氏

 パナソニック アプライアンス社では、2016~2018年度までの3カ年の中期経営計画において、「家電総本山化」に取り組み、家電事業に関わる事業部門や販売組織のすべてをアプライアンス社の下に統合。これによって、製品別や地域別の収益性が可視化でき、「将来に向けた事業課題が明確になった」(品田社長)とする。

 ここで明確になった課題としてあげたのが、事業規模は拡大したものの、外部環境や競争環境の変化に対応しききれず、収益性が大幅に悪化したこと。また、エアコンやスモール/ビルトイン領域を高成長事業として投資を加速したものの、ポジションアップに至らなかったという点だ。

 「環境に影響されず、継続的に収益を上げられる体質への変革と、業界平均以上に成⾧を加速する枠組み、リソース集中が課題と認識している」と語る。

 そして、「これらを踏まえ、現在の中期戦略の課題は、重点領域である空調・食品流通と白物家電への集中、不採算事業の方向づけと成⾧領域へのリソースシフトである」とした。

中期3カ年の総括(2016〜2018年度)
中期3カ年の総括(2016〜2018年度)

 アプライアンス社では、収益性を縦軸に、成長性を横軸にとり、収益性も成長性も高い領域を「投資・強化領域」、収益性は高いが成長性が低い領域を「転地領域」、収益性は低いが成長性がある領域を「効率化領域」、収益性も成長性も低い領域を「構造改革領域」の4象限に定義。ホームアプライアンス、空調冷熱ソリューションズ、食品流通は「投資・強化領域」に、テレビ以外のスマートライフネットワークは「転地領域」に、テレビは「構造改革領域」にそれぞれ位置づけた。

事業環境認識
事業環境認識

 品田社長は、くらしインフラ事業を構成する空調冷熱ソリューションズと食品流通を「投資領域」と位置づけ、「積極投資によって事業成⾧を図り、収益の拡大を目指す。そして、この分野ではEBITDA成⾧率を重要指標にする」と述べた。

 また、くらしアプライアンス事業のひとつであるホームアプライアンスは、「強化領域」と位置づけ、 家電商品そのものや、家電の売り方といった、事業構造を変革させることで、利益成⾧を図る一方、もうひとつのスマートライフネットワークは、「転地・構造改革領域」と位置づけ、不採算事業に方向づけを行い、構造的な収益改善を目指すという。

 「ホームアプライアンスとスマートライフネットワークは、収益構造を変えることを主眼としており、ROIC改善ポイントを重要指標とする。転地・構造改革領域で捻出したリソースは、投資領域や強化領域にシフトさせることで、成⾧加速を目指す」とした。

 品田社長は、2021年までの3カ年の中期戦略を「変革の中期」と位置づけ、収益構造の大規模な変革に挑む姿勢を明らかにする。「2021年までは、売上げを追わずに、経営体質強化と不採算事業の構造改革、将来に向けた先行投資を行う。空調冷熱ソリューションは、成⾧投資を加速させ、収益を拡大。一方で、スマートライフネットワークは、不採算事業の構造改革により資産を圧縮し、ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)を改善する。メリハリの効いたポートフォリオ戦略を実行。収益性改善を最優先し、調整後営業利益率4~5%、ROICで10%以上を目指す」とする。

 3年間で200億円を超えるコスト削減効果を想定。収益性改善を優先することで、2018年度実績で2.9%の調整後営業利益率を引き上げる。4~5%とする調整後営業利益率は、パナソニック 代表取締役社長の津賀一宏氏が最低ラインとする5%に対して、ギリギリのラインだ。「足元の収益成⾧は限定的に映るが、将来、アプライアンス社が高収益事業体に変革する上で、必要不可欠なプロセスである」と位置づける。

 そして、「2022年以降は、先行投資や変革効果による利益に加え、非連続戦略なども含めて、早期に調整後営業利益率7.5%、ROICで15%以上の事業体を目指す。しっかり助走することで、大きくジャンプする『RUN to JUMP』のようなイメージを描いている」とする。そして、「グローバルで家電事業を営む会社として生き残るには、最低でも業界標準の営業利益率とROICであることが必要。それが目標数値の意味である。まずは業界標準といえる数字を達成し、できれば、ここに数字を積み上げたい」とした。

 地域ごとでは「中国が成長ドライバーになると判断しており、インドも成長することになる。だが、欧州やアジアは主役製品を入れ替える必要があり、それほど成長はしない。日本は、市場全体はそれほど縮退しないと考えているが、売上げを追求するよりも、利益の質を変えていくことを優先する。日本は成長ドライバーにはしない」などとした。

 不採算事業の構造改革として、大きくメスを入れるのがテレビ事業である。現在、赤字のテレビ事業を、2021年度までに赤字を解消。投下資本を大幅に圧縮することで、ROICを改善する。そのための具体的な施策として「テレビ事業は、自前主義からの転換を図り、他社との協業を含む構造改革を進めることになる」(品田社長)との方針を示した。

 パナソニックでは、テレビを支えるパネル技術が、液晶、プラズマから、マイクロLEDや有機ELへと変化しつつあるものの、次世代技術の候補が乏しいこと、8Kの普及が、フルHDや4Kに比べて限定的であるといったことを捉え、テレビ需要を喚起してきた技術進化が停滞し、市場全体が縮小すると予測している。また、中国メーカーの安値攻勢による価格下落といった急激な環境変化が起こっており、「こうした動きに対応し切れなかった反省がある」(品田社長)とする。

 中期戦略期間中に完遂すると宣言するテレビの構造改革では、上位機種は自社開発、下位機種は他社協業によって製品ラインアップをそろえ、技術開発では、コア開発は自社で行うものの、非コア開発は協業先が担当するという分担体制を敷く。これにより、開発コストを縮小し、成長領域へのシフトを優先的に実施する。また、製造においては、自社生産を上位機種だけに限定し、下位機種は生産委託を行う体制へとシフト。委託生産するテレビについては、協業先で生産する他社向けテレビと同じ部品を使用して生産することになる。また、自社生産を縮小することによって生まれる生産設備は、他の事業の商品生産を優先的に検討するという。

 品田社長は、自社技術による付加価値が提供できる領域を上位機種とし、「テレビ事業の最大の資産はパナソニックブランドである。すでにテレビ事業を撤退している北米でも、パナソニックブランドはテレビ市場において価値を持っている。この価値をどう生かしていくかがテレビ事業においては鍵になる」などとした。

中期で目指す姿
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