日立グローバルライフソリューションズは、茨城県日立市の多賀事業所で生産しているクリーナー(掃除機)の生産ラインの様子を公開した。同事業所は、1939年(昭和14年)に日立初の電気製品の量産工場として操業。2019年で80年目の節目を迎える。1954年には、第1号掃除機を生産。この分野でも65年の歴史を持つ。同事業所を訪れ、最新の生産現場を見た。
日立グローバルライフソリューションズ多賀事業所は、東京からJR常磐線特急「ひたち」で約1時間30分。常陸多賀駅から、車で約5分の位置にある。
東京ドーム約7.5個分の広さとなる47万802平方メートル(約14万3000坪)を誇る多賀事業所は、1939年に日立初の電気製品の量産工場としてスタート。扇風機などの電気製品の生産を開始。現在でも、洗濯乾燥機やクリーナー、電子レンジ、IHクッキングヒーター、炊飯器、空気清浄機、LED照明器具、ポンプといった製品群の生産を行っている。構内には、戦前からの建物も含めて、現在でも50以上の建屋がある。一時期は、計測器や自動車部品、産業用インクジェットプリンター、ワープロ、レーザービームプリンターなども製品していた。
日立は、1950年に新たな電気製品として、掃除機の開発を開始。1954年に量産第1号機「T-H」を完成させ、1956年には月産3000台という当時としては圧倒的人気を誇る大ヒット製品「ヒッターパック H-H2」の生産を開始した。当時の価格は1万7200円。今の価格で約50万円だったというから驚きだ。
今回公開したのは、ロボット掃除機、スティック掃除機、キャニスター掃除機の生産ラインだ。いずれも「スマートセル」と位置づける生産ラインで、「高い効率性や生産性の達成を目標に取り組んだ生産ラインを、スマートセルと呼んでいる」という。しかも、それぞれのスマートセルは、それぞれの製品に最適化した「スマート化」が進められている。
たとえば、ロボット掃除機のスマートセルでは、「見える化」、「つながる化」、「脱属人化」という3つの観点から進化を遂げている。
見える化では、管理者のPCにライン別の生産進捗状況をリアルタイムで表示。さらに、組立作業の整合性を見える化するためにモニタリングシステムの導入を図った。モニタリングシステムでは、作業者の上部にカメラを設置。作業者が正しい作業をしていることを画像で確認し、その作業が完了すると、次の作業内容が画面に表示され、必要となるドライバーやネジ箱などを作業がしやすい場所に自動的に移動したり、個別の作業に最適な高さに作業台がせり上がったりして、効率的に作業が行えるようにしている。
「ロボット掃除機は組み込む部品や接続作業が多いため、作業ミスが起こりやすい。モニタリニングシステムを利用することで、作業ミスが起こらない環境を作った」(日立グローバルライフソリューションズプロダクト統括本部生活家電本部製造部第二製作課課長の阿南太治氏)という。
つながる化では、ロボット掃除機「ミニマル」の発売にあわせて、ロボット掃除機ラインを2017年6月から稼働する際に、建屋レイアウトを大幅に変更し、工程を集約。セルラインへの部品の自動供給と完成品の自動搬送を行い、モノと工程が自動でつながる仕組みを採用した。
ここでは、ほかの生産ラインに隣接する形で設置していた品質保証部門を移動させ、ロボット掃除機の組み立て工程を新設。離れた場所に生産ラインを新設するのでなはなく、ほかの工程の近くに置くことで部品供給などの効率性を実現する一方、「部品を一カ所に収めたキット箱を、組立作業を行うセルに自動供給。さらに完成品は、コンベアで自動搬送し、製品検査ラインにつなげるようにした」(阿南氏)という。
また、脱属人化では、特定の人に頼った作業の見直しと業務の自動化を推進。従来は2人で1台を組み立てていたが、これを1人で組み立てることでセル生産による作業を集約。これによって、セル生産を拡大するとともに、教育方法の改善と、属人的作業を解消。誰もがすべての組み立て作業を行えるようにした。さらに、ここでは本体や充電台の検査工程を自動化。商用検査装置によって自動合否判定を行えるようにしている。
スティック掃除機のスマートセルラインは、本来、部品を供給するだけの役割であるトレイの活用が特徴的だ。
部品供給用のトレイは、それぞれの部品の形にくり抜かれており、そこに部品が収められる形で、セルラインに供給される。それだけでもユニークだが、しかも、そのトレイが作業台としても利用される。部品の形に開けられた形状は、部品供給のためというよりも、作業台としての利用を想定するためのものだといっていい。くり抜かれた「くぼみ」をうまく利用することで、そこに部品を固定したまま、別の部品の取り付けやネジ締めが可能になることから、両手が自由に使えるといったメリットが生まれ、効率的な部品の組み付けや作業の時間短縮などにつなげることができるのだ。これまで数多くの生産ラインを取材してきたが、部品トレイをそのまま作業台として利用する例は初めてみた。
一方、キャニスター掃除機のスマートセルラインでは、部品供給の自動化が進められている。
もともとキャニスター掃除機の生産ラインは、2003年までは、すべての生産ラインがコンベアで流れる生産方式で、多くの組み立て作業者がコンベアの前に並び、それぞれの作業者が異なる作業を行う体制だったが、2003年以降は、一人セル生産方式を採用。一人の作業者が、1台を組み立てる方式とした。しかし、部品は作業者が自ら補充するというもので、箱に詰められるだけ部品を詰めて、ラインに持ち込むという形だった。
2007年以降に採用したのが、「カラクリセル生産方式」というものだ。部品を「キットチャージ」によって自動的に排出し、補充するという仕組みを採用するとともに、作業台が移動したり、作業に必要な工具が移動して、作業者をアシスト。かしめなどの作業では規定の回数の作業を行わないと次の作業に移れないようにした。これは、作業時間の短縮化やポカよけなどにつながったが、自動的に供給できる部品の種類に限界があり、その結果、部品を供給するための専門人員を配置。供給作業を行う人員を増加しなくてはならないという課題が生まれた。増産体制を敷く際にもこれは壁のひとつとなった。
そこで2011年以降は、一人完結セル生産とし、コンベアの増設により、組立ラインに供給できる部品の数を増やしたものの、やはりすべての部品が供給できないため、供給するための人員を用意。一人の供給者が3つのセルを見ていたことから、それぞれのセルの作業の進捗具合を考慮しながら部品を供給しなくてはならず、かえって作業の繁雑化を招いていた。また、供給者ごとに部品をストックするエリアを設けていたことから、部品在庫も増加するという結果も招いていた。
そこで新たな仕組みとして、2015年から導入したのが、部品の自動供給システムである。
部品の供給場所を一カ所に限定。組み立てを行う15台のセルで、それぞれに部品が無くなると、センサーで監視し、部品エリアの供給者に通知。それにあわせて、部品をセットして、供給する。セルラインの前方側を、部品を乗せた搬送台車が移動。そこからベルトコンベアを使って、前方向から作業者のもとに部品が自動供給される。15台のセルに対して、最大2人の供給者で対応することができ、多くの供給者が移動していたエリアが無くなり、部品在庫の効率化とタイムリーな部品供給が実現できるようになったという。
ちなみに、これらは掃除機の生産を担当する現場が主導で開発。約1年をかけて、キャニスター掃除機の生産ラインに導入した。
さらに、キャニスター掃除機の検査工程では、組立が完了した製品の全量に対して、消費電力や吸込仕事率などの計測や外観検査を実施。ここでは、温度によって吸込仕事率の計測値が異なっていたが、空調を管理し、年間を通じて一定の温度環境で検査を行っている。
組み立てが終わり、検査が完了したすべての掃除機は、2階の梱包ラインに送られ、そこで梱包作業が行われる。梱包が完了すると、倉庫となっている別の棟に、棟同士をつないでいる階上のラインを通じて送られて、出荷されることになる。
ちなみに、多賀事業所では、内製化を進める動きが加速しており、基幹部品となるモーターの組み立てや、モールド成形、コードリールの組み立て、筐体の塗装の作業などを、掃除機を組み立てている棟と隣接する棟で行っているほか、昨今では、付属品などを内製化する取り組みも進められている。
現在、スティック掃除機は約3分、キャニスター掃除機は4~5分、ロボット掃除機は約7分で、それぞれ組み立てが完了する。
年間100万台の生産体制を持つが、需要増にあわせて柔軟に増産できる体制が強みだ。ここ数年でスティック掃除機は1.5倍に生産量が増加しているが、それにあわせて生産ラインを増強。2階フロアの一部にもラインを増設している。さらに、10月1日からの消費増税にあわせた駆け込み需要に対応するために、9月中旬以降には大幅な増産体制を敷いたという。
今後は、モーターの組み立てなどで実現している自動化を、掃除機の組み立てにも展開することが課題となりそうだ。これも生産効率の向上とともに、生産量変動にも対応しやすい柔軟な生産ラインの構築につながることになる。
同社では一週間に一度ミーティングを行い、改善活動に向けた情報を共有。さらに、毎月、部門を超えた情報交換を行い、それぞれの生産ラインの取り組みに関する情報を共有して、生産ラインの改善に生かすといったことが行われている。さらに、設計部門が多賀事業所内にあることから、より効率的な生産の実現や、自動化に向けて、設計部門と生産部門が連携しやすい体制にあることも強みだ。
今後も、多賀事業所の掃除機の生産工程は進化を続けることになるのは間違いない。
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