2010年6月に創業したアカツキは、「八月のシンデレラナイン」など、数多くの人気スマホゲームを手がけるエンタメ企業だ。創業から6年後の2016年3月にマザーズ市場へと上場、2017年9月には東証一部に市場を変えた。
さらに、2018年12月にはサッカークラブの東京ヴェルディとコーポレートパートナー契約を締結したほか、2019年には横浜に複合型体験エンターテインメントビル「アソビル」を開業。現在はスタートアップへの投資も始めるなど、幅広い事業に乗り出している。
企業文化もユニークだ。発言した相手に拍手を送る「拍手文化」や、社員が自然体になれる「社内ではハダシスタイル」など、他社にはない独自ルールを設けている。また、壁一面に異なる絵が描かれた会議室やカラフルなオブジェなど、社内を歩いているといたるところでアートを目にする。とてもオフィスとは思えない空間だ。
しかし、こうした一見、自由すぎる経営スタイルや組織作りをしながらも、同社は2016年の上場以降、増収増益と過去最高の業績を維持し続けている。2018年度の売上高は前年比28.3%増の281億円、営業利益は同29.4%増の136億円を達成した。
「ビジネスに感情を持ち込むことが大事。感情を表現してもいい場や空気感が必要だ」ーー。そう語る、アカツキ 共同創業者 代表取締役 CEOの塩田元規氏に、同社がビジョンとして掲げる「ハートドリブンな世界へ」という言葉に込めた思いや、自身の考える理想の会社、働き方について聞いた。
ーーアカツキでは、「ハートドリブンな世界へ」というミッションと、「世界をカラフルに輝かせよう」というビジョンを掲げています。この2つの言葉に込めた思いを聞かせてください。
(これらの言葉は)世界一のエンターテインメント企業になるということよりも、世界がどうあってほしいかという私たちの願いから生まれました。「ゲームは感情を扱う」ものです。人は心の内側からワクワクするようなことをやっている時点で幸せを感じますが、その世界観が巡っていくような世界を目指したいという意味を込めています。
創業2年目からこのような思いを持って「感情を報酬に発展する社会」というビジョンを掲げてきましたが、ゲーム以外の事業も増え、グローバル展開を踏まえて2018年に現在の形に変更しました。
その際に気を付けたのが「説明的にしない」ことです。歌詞は聞き手の心情によって色合いが変わりますが、自分としては歌詞を書くつもりでビジョンの説明を書きました。「ハートドリブンな世界へ」は先ほど述べたように、1人1人の心の内側にある、自分の表現したいことを世の中に発信することで、世界をカラフルに変えていこうというメッセージです。
(ミッションである)「世界をカラフルに輝かせよう」で伝えたいメッセージは、僕たちの仕事は何かということ。エンターテインメント企業と名乗ると「娯楽を作っているんですね」と言われますが、エンターテインメントの定義は人それぞれで異なります。
あまり自分たちの活動をリファイン(洗練)したくありませんが、僕らのエンターテインメントに対する定義は「人の心を動かす体験」。その体験をハートドリブンな世界へつなげるために、人の可能性を広げることで(ユーザーの)人生の見方を変えていこうとしています。
ーーそのような考えに行き着いた原体験はありますか。
大学生時代に企業経営者に「幸せと経営」というテーマでインタビューを重ねたことが大きいですね。世の中には、ワクワクする経営者がいる一方で、マジョリティのステージにいる社会人は仕事が辛そうな人が多かった。僕は両者は「何が違うんだろう」と考えたんです。そこで各企業のビジョンやミッションを調べて、幸せそうな企業の経営者にインタビューしたいと直接連絡してアポイントメントを取りました。
その結果、十数社の経営者が会ってくれましたが、ある社長さんから「塩田君、会社とは何か知っているか」と聞かれたので、「会社は利益を追求する社会集団でしょうか」と答えると、「利益とは?」と問われました。その社長さんは続けて、「お客さんが喜び、幸せ、笑顔になる対価としてお金を払ってくださるのだから、サービスの価値の総量が利益になる」と言いました。
その社長さんは「良い会社の定義」として、「雰囲気が良いこと」を挙げられました。ビジネスモデルは変化するし、我々の事業基盤であるモバイルも何にとって変わられるか分かりませんが、働いている人々は変わりません。「働く人々が会社の資産だから、その人たちが生み出す雰囲気、活力が会社のコアだ。それを大事にしろ」と言われ、強く感動したことを今でも覚えています。その方は「人生は何かを成し遂げるのではなく、延々と旅を続けて自分の器を広げていくこと」ともおっしゃいました。これが僕の起業人生が始まるきっかけでした。
ただ、起業当初から好調だったわけではありません。もともとハッピーカンパニーを作りたくて(アカツキを)起業しましたが、当時は予算も多くないので、いつの間にか数字を追いかけ、追いかけられるストレスに晒される状態に陥っていました。経営者にありがちですが「一番不幸せになる構造」です。
そんなときに、うちのメンバーや応援団長の勝屋さん(アカツキ応援団長 アドバイザーの勝屋久氏)から「元ちゃんも幸せになって良いんだよ」と言ってもらえたことで、「大事にしたいものを忘れちゃダメだな」と気づき、自分の中の経営哲学が深まりました。
ーー多くの企業が、“雰囲気の良い会社”を目指していると思いますが、なかなか実現するのは簡単ではありません。アカツキではどのようにして、ビジョンやミッションを組織に反映させていますか。
大事にしているのは「ビジネスに感情を持ち込むこと」。一般的にビジネスは感情を切り捨て、合理的なKPIを求める資本主義の奴隷です。数字を追いかけるためみんな頑張っていますが、その人の幸せとイコールではありません。そのため、会社へ行くときは仮面をかぶり、感情を抑えるスイッチを入れますが、それでは長く続きません。アカツキでは「どのように感情を表現するか」を大事にしています。
そのためには「感情を表現してもいいよ」という場と空気感、安心・安全が必要です。我々は“分かち合い”という表現を用いていますが、たとえば全社集会で僕が語った後は、数人ずつの社員で輪を作り、その場で感じたことを話してもらっています。「つまんなかった」「元ちゃんの話が分からなくて不安」でも構いません。思っていることをすべて出して、(それに対して)拍手して承認するんです。
これが浸透することで、たとえば会議前に今の自分の感情を分かち合う「チェックイン」という文化が広がりました。最初の1分間で「この会議に出たくない」といった感情を吐露することで、それぞれの状態を把握すると、会議中の忖度がなくなります。相手の感情に同意する必要はありません。「会議に出たくない・やりたくない」のであれば、「やりたくないんだね。でもやって。その方法は2人で考えよう」と言えるようになります。
ほかにも、「ふらり横町(月1開催の社内居酒屋)」や、自主的にアイデアを出し合って活動する委員会制度も有効でした。表現を受け止められる場を用意することで、安心・安全な空間を皆で作り出すことが大切です。
ーー「社内ではハダシスタイル」もその一環ですか。皆さん本当に裸足で歩いていますね。
そうです。「自然体で良い」という意味を持たせてます。もちろんビジネスはキチンとした場面もありますが、普段着で裸足の人がガミガミ怒っていてもおかしいですよね(笑)。
ーーこうしたユニークな社内制度のアイデアはどのように生まれているのでしょうか。
昔は僕と哲朗(アカツキ 共同創業者 取締役 COOの香田哲朗氏)が一緒に考えていましたが、今は現場から「やりたい」という声が挙がってきて任せているので、ここ数年は僕がアイデアを出すことはないですね。現場がやりたければやればいい、ダメならやめればいいんです。
多くの企業において、(様々なアイデアが生まれることを)難しくしているのは、スタートした取り組みをやめられないことですよね。たとえば、人材採用時は(雇用者が)辞めることを想定しないので、雇用フィルターが強まりますが、辞めることが容易であれば採用しやすくなります。サービスや事業、社内制度で重要なのは「簡単にやめられること」。これが分かっていれば、始めるのも簡単です。
ーーリモートワークを推奨していないそうですが、なぜでしょうか。むしろ働き方を変えるために推奨している企業も増えていますが。
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