ビジネスにこそ「感情」を持ち込むべき--アカツキ塩田CEOの“ハートドリブン”な経営哲学 - (page 2)

 リモートワークが流行った時期がありますが、そのときはバズワード的で嫌だったんです。会社に毎日来る必要はありませんが、リモートワークで雑談が生じることはありません。(会社に)集まることで顔を合わせる安心感や遊びの時間が大事ですね。

 ただ、今までは推奨していませんでしたが、最近は考え方が変わりました。リモートワークのような施策は一律導入する・しないの二元論で語られますが、たとえば営業と開発ではリモートワークの内容も異なるので、僕は各チームで好きなようにしてほしいんです。

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 うちのエンジニアは、「スモールスタートでも市場原理で良いものは広がる」という信念を持っていますが、同じように会社の施策も(別の部門が)勝手にやっていた良いことを吸収するという考え方を好みます。

 アカツキの経営スタイルとして、みんなに「小さな政府を目指しています」と説明してきました。政府がやるべきことは可能な限り減らし、“互いを思いやる”という哲学ではつながっているけれど、事業特性によって自由に選択すればいいと思います。ただ、(アカツキという会社に集まれる)ホームベースのような存在は安心感につながります。

ーーアカツキでは、どのような基準で社員を評価しているのでしょうか。

 給与に連動する評価ですか?うちの場合は少し難しくて、明確にしていません。ただ、評価する際には、自分で課題を解決できるかという自律的要素。自分の特色を出せているか。そして、周りと助け合っているかという3つを見ています。職種に応じて多様な例題があり、最後はそれぞれのリーダーと話しながら決めてきました。

 僕は「人を評価することは非常に難しい」と考えています。ただ、評価軸がないと人事制度は回りません。僕たちは、制度に2つのパターンがあると思っています。1つは誰がやっても評価がブレないように評価基準を決める構造。もう1つは(前述した3要素である)大きい方針に対するプラスアルファの要素を見ながら、各職種のリーダーが考え、ある程度の評価を作る方法です。

 後者は運用側で担保しなければなりません。評価する側と評価される側のすり合わせに時間をかけないとお互いに納得しないでしょう。ただ、多少は(評価が)ズレますよね。人間がやっていることなので正確性を欠くこともあります。

 ですが、僕が見ているポイントは「アカツキの社員として共に働くうえで大事なこと」です。どうすればその人が輝きながら働くことができ、成果につなげられるかを見ています。僕が大事にしていることの1つに「自分の人生は自分でコミットすること」があります。僕が誰かを幸せにするなんておこがましいですし、その人の可能性を信じていないことになります。だからこそ、信じてコミットできる人材しか採用していません。

「見たことがない景色」が見たい

ーー一般的には、感情や文化を大切にする“理想”と、ビジネスという“現実”の間には乖離があると思います。両立はできると思いますか。

 本質的に感情とビジネスはトレードオフになりません。アカツキでは、感情・文化を大事にした方が効率的ですし、成果も出ています。ただ、ビジネスにして成果につなげる能力や考え方は必要です。我々がハートフルな文化だからといって数字を見ないわけではありません。それでも「数字を出せ」という命令が上から降ってくることはなく、現場が自分たちで数字を考えて、ビジネスを回しています。

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 社員はみんな一定以上のビジネスに対する嗅覚を持っており、ハートフルな文化を醸成していくと“勝手に統合されていく”感じがあります。アカツキの強みは、ビジネス側も理解する能力を持った人材がハートフルな動きをしていることですね。

ーー今後のアカツキのビジョンを聞かせてください。

 3年ほど前までは僕がビジョンを示し、僕の中の理想企業を実現するためにみんなが頑張るという形になっていましたが、僕が望んでいるのは「僕が見たことがない景色」です。シナプスのように会社が生態系のようにつながり、ジャズのように予測できない何かが生まれる企業が理想ですが、今まさにそんな進化が始まっている感じがしています。

 スタートアップへの投資も始めましたが、会社の境界線が曖昧だと面白いんですよ。投資先の企業ともコラボレーションしていますが、僕が見たい(会社の)垣根を越えて、社会と会社が「好き」「面白い」で集まり、コラボレーションが生まれていく世界が見たいです。

ーー最後に少し話が変わりますが、塩田さんが尊敬する経営者がいたら教えてください。

 盛田さん(盛田昭夫氏)・井深さん(井深大氏)時代のソニーを尊敬しています。僕は戦後の経営者が好きなんですね。彼らは戦後の価値観が移り変わるフェーズで、ゼロからスタートして何かを生み出すというテーマを実現してきました。

 Amazonのジェフ・ベゾス氏も過去に「ソニーは安かろう悪かろうというブランドイメージを払拭し、素晴らしいプロダクトを提供しながら、人々のライフスタイルを楽しい時間に変えた」と発言していました。

 アカツキも多様な事業を手がけていますが、(同社のプロダクトを通じて)人々が心を動かし、人生で一番大事なことを思い出し、世界の見方が変わり、可能性が開くことを大事にしています。これからの企業は消費者に共感してもらうファンビジネスの時代になると思っていますが、こういった思想を持った企業しか生き残らないと思います。

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