スタートアップとの事業化を実現する「FUJITSU ACCELERATOR」

別井貴志 (編集部) 阿久津良和2019年10月16日 12時00分

 富士通は2015年から革新的なスタートアップの技術・製品と同社グループの製品・ソリューション・サービスを組み合わせて、社会へ新たな価値を提供することを目的にしたアクセラレータプログラム「[FUJITSU ACCELERATOR]」を開催してきた。2019年9月に第7期を終え、10月15日に第8期の募集が始まる。今回は同プログラムの概要や方向性を責任者である富士通 グローバルマーケティング本部 エコシステム推進部 シニアマネージャー(FUJITSU ACCELERATOR代表) 浮田博文氏に伺った。

富士通 グローバルマーケティング本部 エコシステム推進部 シニアマネージャー(FUJITSU ACCELERATOR代表) 浮田博文氏
富士通 グローバルマーケティング本部 エコシステム推進部 シニアマネージャー(FUJITSU ACCELERATOR代表) 浮田博文氏

――まずはアクセラレータプログラムの概要からお聞かせください。

 「“次世代の富士通”を築く柱となる新規事業を創出しなければならない」という危機意識を持つ社内のメンバーが集まり、2014年頃に本プログラムの検討ワーキンググループを立ち上げました。スモールグループで各種検討を重ね、社内調査を行ったところ、その時点で100近い新規事業関連部署が存在したことが分かり、各部署のヒアリングに着手します。話を伺ってみると新規事業に対して同じ危機意識を持っている方も少なくありません。その方々の“横のつながり”を築くためのプログラムを立ち上げました。最初はスタートアップ連携と社内で内製する2つのアプローチで取り組みましたが、実績を踏まえた結果、スタートアップ協業に焦点を当てるようになります。その結果が2015年から実施している「[FUJITSU ACCELERATOR]」です。

 そのFUJITSU ACCELERATORは、先日第7期のプログラムを終えたところです。期を重ねるごとに改良を重ねましたが基本的な流れは変わりません。スタートアップの募集から始まり、書類選考、ピッチコンテストを経て採択されたスタートアップと、顧客提案やPoC(概念実証)に取りかかる協業検討を4カ月ほど行って、活動の成果を発表するDemo Dayに至ります。累計で約120社の協業検討を行い、具体的な取り組み過程となる協業実績に至ったケースは約70件でした。製品化など実際のサービスとなったのは約70件中20件程度ですね。ちょうど第1期が始まった2015年ごろ、私はマーケティング部門からクラウド事業部に異動し、海外のクラウドビジネス創出に従事していました。当時は事業部門の立場でFUJITSU ACCELERATORを活用し、数件のスタートアップ協業に参画しましたが、2019年3月に現在の部門に異動し、今年4月から代表という立場で本プログラムを率いています。

――アクセラレータプログラムの特徴を教えてください。

 本プログラムの特徴は2つあります。1つはスタートアップ協業に本気である事業部の参画を基本スタンスとしている点。決裁権を持つ方が定例ミーティングやピッチコンテストに参加することで、その場の意思決定を可能にしてきました。極力"持ち帰り"をなくすことが高打率の要因だと思います。もう1つは協業検討を支援する専任チームを設けること。現在10数名おりますが、大企業とスタートアップでは手法や企業文化も異なるため、間に我々が入ることでギャップを埋めてきました。私も事業部経験があるのでよく分かりますが、新規事業の立ち上げや新たな商品開発は大変な作業です。そこで我々のチームが事業部を支援し、単なるマッチングではなく伴走するように心掛けてきました。

 また、新しいことに取り組む場合、事業部側は予算を組んでいないこともあります。このようなケースでは我々マーケティング部門でPoCや試作品開発を資金面で支援してきました。また、詳細なプロセス設計を我々が肩代わりするケースもあれば、社内外のプロモーション活動を行う場合もあります。

 スタートアップ協業で大事にしているのが、「スタートアップと同じ目線」「事業部に対して真摯に接する」の2つです。事業部で新しい事や変革に取り組むと様々な壁や孤独を感じがちになります。また、スタートアップも事業部も同じ目線に立ち仕事を進めるというのは、ある程度の実経験が必要になってきます。 そこで、事業部の現場で頑張っている方々を集めたコミュニティー作りやノウハウの共有・明文化も目指していきます。

――FUJITSU ACCELERATORが各事業部とスタートアップをつなぎ合わせ、伴走してきたことが分かりました。先ほど決裁権を持つ方の参画が重要だと述べられましたが、社内では「その事業を富士通がやる必要があるのか?」など多くの声があるかと思います。その点はどのようにクリアされましたか。

 そのようなことを言わない人を選んだ、というのが正直なところです。社内には多くの事業部が存在しますが、当初、本プログラムに参画したのは片手で数える程度でした。ただ、実績を積み重ねる中で、プログラムへの参画を是非前向きに進めたいという声も増え、現在は20を超える事業部もしくは富士通グループ企業が参画しています。

 もともと富士通は昔からスタートアップ協業に取り組んでおり、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)も1995年から手掛けてきました。業界では早い方だと思います。その頃スタートアップ協業に取り組んでいた若い世代が現在では社内の中核ポジションを担い、現場に対する造詣の深さや新規事業創出の必要性を感じていたので、スムーズに進んだのではないでしょうか。他方で、前述したように内製だけでは世間にキャッチアップできず、事業部の延長線上に存在しないテクノロジーを取り組む必要があります。ITの進化スピードは速いため、当然「外の力を借りるべきだよね」という意識を持つ方も増えてきました。

――本プログラムに対する周りの評価はいかがでしょうか。経営層と社内の両方をお聞かせください。

 経営層が入れ替わるたびに、その都度説明しています。2019年6月の新体制後も新経営陣には説明して、この活動を理解してもらっています。先日開催した、第7期Demo Dayには100人の定員を超える富士通社員の方々が集まりました。口伝えでもスタートアップ協業に関する相談を受けるようになり、社内認知度は高まっていると認識しています。当然ながら富士通自身も変化の過程にあるからでしょう。スタートアップ協業を富士通自身が成長する糧とし、ビジネスを拡大させようとするマインドに変化しつつありますね。

 本プログラムを実施したことで社内も変わりました。一昔前は「富士通のテクノロジーを使って開発~」が基本スタンスですし、パートナーさんもグローバルベンダーと組むのが当然という姿勢でしたが、現在はスタートアップ協業を前提としたディスカッションも増えており、多様なテクノロジーを持ったスタートアップと協業するスタンスに変化しています。

――イノベーションを起こす人は社内で訝しがられることが少なくありません。だが、新しい取り組みを続けないと企業は死んでしまうと思います。特にイノベーターの評価は難しいと思いますが、どのようにアピールされていますか。

 おっしゃるとおり評価は難しく、一番の悩みどころです。過去には募集テーマや応募してくれたスタートアップ数など、さまざまなKPI(重要業績評価指標)を設定してきました。現在は前述の協業実績を主なKPIとしており、PoCやパイロットプロジェクトの実施、協業契約や顧客紹介などを評価指標としてステージ分類して、「今期はこのステージまで進んだ」と評価しています。当然ながら短期的な売上で評価すると規模は大きくありませんが、“将来の芽”という点で(経営層からは)評価してもらおうと考えています。

――本プログラムは2019年10月から第8期が始まります。どのような取り組みになりますか。

 第8期も事業化がターゲットであることは変わりません。そのため、高打率を求めるために各事業の本部長を含む事業責任者クラスにヒアリングしつつ、次の目標を実現するためのミッシングパーツ(不足部品)を収集し、その結果を区分けして、スタートアップの募集要項を現在作成しています。事業化の精度を高めるには募集カテゴリーを明確にするのが重要だと思っています。本プログラム開始当初と異なり、最近はスタートアップの皆さんも大企業との付き合い方に慣れてきました。ぜひ「富士通を使い倒す」スタートアップの方々に応募してほしいですね。

――事業化という目標を掲げられましたが、その点で課題はありますか。

 どうしてもカニバリ(カニバリゼーション: 共食い)は避けて通れません。弊社グループ内にスタートアップと同様の技術を持っている場合、協業検討活動内で両社の技術検証を行い、スタートアップの方が優れている技術だと判断したら、そちらを採用します。また、「社内プロセスの壁」も大きな要素です。弊社は品質を重視していますので、富士通の品質基準を満たすかを判断する部署を説得するための努力が欠かせません。とあるクラウドセキュリティを手掛ける企業と事業化を進めていたところ、最先端のセキュリティ技術をセキュリティ審査部署に理解してもらう事に苦労しました。カニバリと社内プロセスの壁の2つが苦労するところですね。

――FUJITSU ACCELERATORの活動はマーケティング部門にひも付いています。珍しいように見えますが。

 偶然かもしれませんが、危機意識を持つ担当役員と社員がマーケティング部門に多かったからだと思います。FUJITSU ACCELERATORの活動は、社長直下でもR&D(研究開発)部門でも、どの部門に所属しても構わないと私は考えます。大事なのは能力を発揮できる塊=チームですね。我々は情熱を持ったメンバーが集まっているので、良い流れ(でアクセラレータプログラムを進めて)いきたいと思います。

――最後に今後の展開をお聞かせください。

 これまでの「[FUJITSU ACCELERATOR]」は日本中心の取り組みでしたが、つい先日、Get in the Ringという団体と共に欧州版を立ち上げました。現在は日本と欧州の2つが稼働していることになります。我々は2019年11月にリスボンで開催されるWeb Summitにブース出展し、欧州スタートアップとの関係構築を図ります。日本のプログラムでは、8期からは日本市場だけでなくアジア市場での事業化も行います。自分の思いとしては本プログラムをアジアNo.1のプログラムを目標に掲げており、アジアと欧州で確固たる地位を築きたいと考えています。

「プログラムをアジアNo.1のプログラムを目標に掲げている」と浮田氏
「プログラムをアジアNo.1のプログラムを目標に掲げている」と浮田氏

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