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「ブラジル人起業家」の実像--政府主導で急成長したベンチャー市場が与えた影響

中山充(ブラジルベンチャーキャピタル代表)2019年10月21日 07時00分
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 前回は、ブラジルでヒットするサービスがあっという間に大きくなる市場の素地があることをお話しました。ただし、この同じ環境をもってしても誰でも巨大なスタートアップを作れるわけではありません。優れた起業家こそが大きな事業を作っているのです。

 そこで第2回は、ブラジル人起業家について注目したいと思います。どのような人がスタートアップシーンにいるのか、特に近年強化されてきたベンチャー市場への投資資金の流入がどのような影響を与えているのかにも注目して解説します。

ブラジル人起業家・投資家たち(昨年のブラジル・ジャパン・スタートアップ・フォーラム登壇者)
ブラジル人起業家・投資家たち(昨年のブラジル・ジャパン・スタートアップ・フォーラム登壇者)

ブラジル人エリートのマインドセット

 私がブラジルで仕事を始めたのは2012年の1月でした。経営コンサルティング会社であるベイン・アンド・カンパニーのサンパウロ支社に採用されたのです。私は大学卒業後の1998年に、新卒でベインの東京オフィスで働いたこともあったので、14年後に再度ベインで働くことになったのです。

 2012年に同僚たちと話して一番驚いたのが、キャリアに対する考え方が、1998年に日本の同期が話していたことと全く異なったことです。当時の日本はインターネットバブルと呼ばれた時代だったことも背景にはあったのでしょう。誰が最初に辞めるのかニアリーイコール起業するのか、といった感じでした。

 ところが14年経って、2012年に米国も含めて多くのスタートアップの成功事例がある時代に、ブラジル人のベインの同僚が話していたのは「どうやったらベインのパートナーになれるか。そのためにはどの上司とどういうプロジェクトで仕事をすると昇進しやすいか」という、いかにもサラリーマン的なものでした。

 前回も少し触れましたが、ブラジルはお金持ちになればその地位を維持できる税制や金融市場の構造があります。大きな格差社会であるブラジルでは、開放的なラテンのイメージとは違って、富裕層は富裕層の中で結婚する保守的な傾向があり、学生時代からの恋人と結婚することも珍しくありません。 

黎明期のブラジル人起業家たち

 2010年以前はスタートアップに投資される資金も限定され、大きなEXIT事例もなく、大きなリスクを取らずにそれなりの高給を取り続ける方が合理的な判断でした。

 ただ、1990年代や2000年代に起業して成功したブラジル人はいます。突出した例は米国での起業です。ブラジル人のトップクラスは世界で通用する人も多く、Instagramの創業者の1人であるマイク・クリーガー氏はブラジル出身です。Facebookの共同創業者の1人であるエドゥアルド・サべリン氏もブラジル生まれで、ハーバード大学でマーク・ザッカーバーグ氏と知り合い、CFOとしての役割を果たします。

 最近では、シリコンバレーでスタートアップ向けのクレジットカードを提供するBrexを創業したエンリケ・ダグラス氏とペドロ・フランセシ氏が、21・22歳という若さで、2019年6月に26億ドルの企業価値で1億ドルを調達しています。

 ブラジル国内でもゼロではないですが、スタートアップの起業家は稀有な存在でした。私はブラジル人起業家にインタビューしてまわりましたが、共通しているのは学生時代のリスクフリーな状態で起業していたり、家族に起業家がいることでした。(詳細は書籍「未来をつくる起業家--ブラジル編」にて紹介)。

ブラジル人起業家の給与事情

 KPMGの資料によると、2010年のベンチャーキャピタルの投資額は約3500万レアル、当時のレートで約18億円にすぎません。IPOできるマーケットもなく、100億円を超えるEXITもほとんどありませんでした。こうした中で起業するということは、給与が低い状態が長く続く可能性を意味します。

 現在でもスタートアップ創業チームの給与水準は月給で10〜20万円程度です。ただ、このクラスの人材は大企業に勤めれば月給50〜100万円を得ることは十分可能です。優秀なエンジニアもGoogleやFacebookなどのブラジルオフィスで働けば、ベンチャー企業の5〜10倍の給料がもらえます。

 もし、起業が成功して、仮に数十億円で売却しても自分の取り分は数千万円から数億円です。しかも、成功する確率が非常に低いわけですから、大企業で着実に20年働く生涯賃金を安全に取りに行くのは自然な判断です。

政府主導の「Startup Brasil」とベンチャー投資額の急拡大

 このような状況が変わったのは2012年。「Startup Brasil」というブラジル政府主導のプログラムによって、アクセラレーターが多くの現地スタートアップに投資し始めます。いくつかのベンチャーキャピタルがファンド組成に成功したこともあり、2014年以降はベンチャー投資額が大きく伸びました。年初に私が推計した2019年の投資額は約40億レアル(約1300億円)でしたが、10月時点ですでにこの額を超えていると思われます。

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ベンチャー市場のさらなるヒートアップと起業家の質の変換

 2017年後半以降、大型EXITが続いたことで、ベンチャー資金の流入はますます強化されます。PagseguroやStone PagamentosなどのFinTech企業は米国でIPOしました。さらに、500億円を超えるベンチャーキャピタルファンドが2019年になって組成されており、ベンチャーキャピタルに投資する数百億円規模の投資信託を複数の銀行が企画しています。

 こうした環境の変化により、起業家のリターンのポテンシャルが格段にあがったことで、大企業を辞めて起業する人が増え始めているのが近年の印象です。また、大型EXITを果たしたスタートアップで働いた社員が、次は自らが成功すべく創業するケースもこの数カ月で増えてきました。

 この市場の活性化に、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが果たしている役割も大きく、ブラジルの業界内で話題に出ない日はありません。特にこの半年で現地への投資が非常に活発になってきているので、次回はブラジルでのソフトバンク・ビジョン・ファンドの動きについてまとめたいと思います。

 また、こうした急成長を遂げるブラジルのスタートアップシーンと日本のスタートアップ、投資家をつなぐべく「ブラジル・ジャパン・スタートアップ・フォーラム」を2018年からはじめました。2019年は11月22日にサンパウロで開催する予定です。

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