レガシーな米国の建築現場にスマートな日本式住宅を--HOMMAが取り組む戸建て改革

 8月28日に開催した朝日インタラクティブ主催の「CNET Japan Conference 不動産テックカンファレンス2019」で、最終のセッションプログラムの1つに登壇したのは、シリコンバレーに拠点を構えるHOMMA。同社の創業者は日本人の本間毅氏で、ソニーの米国駐在員と楽天の執行役員を経験。その後家を購入しようとした際に米国のレガシーな住宅に愕然とし、スマート住宅のプロデュースを手がけるべく起業した。講演では、主に日本国内で資金調達のためのファイナンスを手がけている香田譲二氏が、同社の事業を解説した。

「不動産テックカンファレンス2019」でHOMMAが講演
「不動産テックカンファレンス2019」でHOMMAが講演

イノベーションが生まれにくい米国の住宅事情

HOMMA VP of Finance & Strategic Partnershipの香田譲二氏
HOMMA VP of Finance & Strategic Partnershipの香田譲二氏

 米国の住宅事情は、100年前と比べてさほど変わっていない。他の産業を振り返ると、この100年で大きな固定電話は小さくスタイリッシュなスマートフォンに変わり、自動車は幌付きや人間がむき出しのものからテスラに代表されるような安全で高性能な自動運転車へと進化してきている。しかし米国の住宅は見た目にも変化が少なく、香田氏いわく「基本的にはまったく変わっていなくて、強いて言えばガレージがついているくらい。家はイノベーションが起きていない」と話す。

電話、クルマの100年間の変化と比べると、米国の住宅の変化はきわめて少ない
電話、クルマの100年間の変化と比べると、米国の住宅の変化はきわめて少ない

 建築工法についても特に米国は進化が少ないという。日本では、工場で組み立てたものを現場に運んで設置するモジュール工法のような効率的な仕組みがあるが、米国は現場で1から建築する在来工法が主流。工期も日本の注文住宅がだいたい半年から長くても1年で竣工するのに対し、米国は(住宅の標準的なサイズの違いはあれど)、手続きの手間もあって2~3年以上かかるのが慣例だという。

住宅建築における米国と日本の違い
住宅建築における米国と日本の違い

 これは、米国における戸建て住宅の販売事情も影響していると考えられる。米国で販売される戸建てのおよそ9割が中古住宅で、新築は圧倒的に少ない。「リノベーションしながら住んでいるのは1つの価値としては評価できるが、新陳代謝がなかなか起きづらい」うえに、新築であってもそのほとんどが建売住宅で、注文住宅は2割程度。ホームビルダーとしては「イノベーション満載の新しい概念の家をつくりにくい」環境になっている。

米国の住宅販売は9割が中古。残りの1割の新築のうち8割が建売住宅となっている
米国の住宅販売は9割が中古。残りの1割の新築のうち8割が建売住宅となっている

 さらには、日本と違って米国の人口は長期的には増加していることもあり、需要に対して住宅供給が間に合っていない。そのため、「価格さえ間違っていなければ順調に売れていくので、イノベーションの必要性がない」こともこうした傾向に拍車をかけているのだという。とはいえ人口は伸びていくことから、市場としての可能性は大きい。したがって「どのようにイノベーションをもって(従来の考え方を)ディスラプトしていくのかがわれわれの挑戦でもある」と香田氏。

自ら学んで成長していく家をつくる

 HOMMAが手がけているのは、テクノロジー系スタートアップとして住宅の設計・建築にテクノロジーを反映させつつ、伝統的なホームビルダーと同様に実際に家を建築する事業であり、自社を「テック系ビルダー」と定義付けている。「ITエンジニアを集めながら、土地を買って家を建てている」とのことで、同社ではリノベーションして本社屋として現在使用している「HOMMA ZERO」のほか、現在はプロトタイプとして更地から購入して建築している「HOMMA ONE」を経て、10〜20戸を集積させて小さなコミュニティを形作る「HOMMA X」といったアプローチで事業を成長させている。

コンパクトなスマート住宅「HOMMA ONE」のイメージ図
コンパクトなスマート住宅「HOMMA ONE」のイメージ図

 進出場所として同社が現在最も注目しているのは、オレゴン州のポートランド。というのも、香田氏によると、シリコンバレーやその近郊は物価が高く、「平均的なサイズの家でも簡単に1億円を超える。生活コストが高く、生活していくのが難しい。シリコンバレーで成功する企業が増えるほどそのコストが上がる」状況になっているため。最近ではシリコンバレーを離れ、ポートランドやテキサス州のオースティンなどに人口が分散していっている傾向が見られるという。

 そこでHOMMAでは、ミレニアル世代が多く、成長が期待される都市をターゲットに、「都心に近いところで、プレミアム感のある、なおかつコンパクトな住宅を建てる。ものをあまり持たず、生き方そのものをコンパクトにしていく昨今のトレンドに沿って、小さくても広く感じられる空間デザインを実現する」ことを目指している。日本が得意とする狭小住宅の考え方を取り入れ、「土地をどう生かしていくか、細部にこだわりをもって空間をデザインしていく」ことで、モダンでスタイリッシュな住宅を、というのがHOMMAの考えだ。

HOMMAが注目しているエリアはオレゴン州ポートランド
HOMMAが注目しているエリアはオレゴン州ポートランド
小さいながらもモダンでスマートな都市型プレミアムコンパクト住宅を目指す
小さいながらもモダンでスマートな都市型プレミアムコンパクト住宅を目指す

 日本式の考え方を取り入れた設計・デザインにするだけでなく、建材にも日本製を積極的に採用する。ホーマックやケーヨーデイツーなどのホームセンターチェーンを保有するDCMホールディングスや、建設資材を取り扱う野原ホールディングスと吉銘、多様な住宅建材を展開するサンワカンパニーなどから出資を受け、さまざまな事業シナジーを狙う。特にサンワカンパニーからは、米国にはまだ普及していない日本の住宅で使われている水回り商品などを使用する。そうした資材・建材メーカーにとっては、米国の住宅市場にスムーズに参入でき、米国ユーザーからのフィードバックが得られやすいのもメリットだ。

 スマート住宅という意味では、まずは照明の仕組みにこだわる。スイッチやスマートスピーカー、スマートフォンアプリを介して声や指で操作することも想定せず、センサーやシーンと連動することにより点灯・消灯を意識せずに生活できるようにする。「家自体が、そこで暮らす人の生活スタイルを学んで、それに適した照明の付き方・消え方を実現する照明システム」になるという。これらの仕組みを取り入れたHOMMA ONEは、2019年12月末以降、最初の1戸がカリフォルニア州ベニシアに完成予定となっている。

HOMMAのロードマップ
HOMMAのロードマップ
将来的にはHOMMA Xでインフラを含めたコミュニティを設計する
将来的にはHOMMA Xでインフラを含めたコミュニティを設計する

 その後、「650坪くらいに1軒しか建っていない」ような米国らしい使い方をしている土地に、シングルファミリー向けの住宅を18戸集積した「HOMMA X」をポートランドに建設する予定。人口が急速に増えているポートランドでは、このままいくと人口密度の低い「Low Density」な居住エリアが広がり、シリコンバレーと同じようにリビングコストの高騰を招きかねない。HOMMAとしては、HOMMA Xのようなコンパクトな住宅を集積することで人口密度がより高い「Medium Density」な居住エリアを増やし、住みやすい都市づくりに貢献していく計画だ。

 HOMMAでは新たな発想の住宅の建築を通して、スマート化により「家そのものが成長していく」仕組みを確立させていく。そこで得られたデータを他のビルダーにも提供することや、新築だけでなくリノベーション物件や賃貸物件に手を広げていくことも検討している。自社でスマート住宅を建てるだけでなく、サービスプロバイダーとしての展開も進め、事業の成長を加速させていくとした。

米国での経験が豊富な建築家やITエンジニアらがコアメンバーを形成。米ドラマ「HEROES」に出演し人気を集めたマシ・オカ氏もインベスターとして参画している
米国での経験が豊富な建築家やITエンジニアらがコアメンバーを形成。米ドラマ「HEROES」に出演し人気を集めたマシ・オカ氏もインベスターとして参画している

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