顧客の「すぐほしい」を満たさない業界はなくなる--「OYO LIFE」 CEOが語る不動産テックの未来

 朝日インタラクティブは8月28日、都内で「CNET Japan Conference 不動産テックカンファレンス2019」を開催した。サブタイトルは「不動産業界の未来を輝かせる『テクノロジー・ビジネス・人材』の活かし方」と題し、不動産に焦点を当てた変革を浮き彫りにしている。本稿では、「『OYO LIFE』が提唱する旅するように暮らす新しいライフスタイルとは?」と題した、OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN(OYO T&H)の基調講演の概要を紹介する。

OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN CEOの勝瀬博則氏
OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN CEOの勝瀬博則氏

「ホテルと賃貸不動産、顧客ニーズを満たすという意味で本質的な差はない」

 スマートフォン1つで物件探しから契約、支払いのインフラ整備、退去まで一気通貫でできるサービス「OYO LIFE」を提供するOYO T&H CEOの勝瀬博則氏は、Amazon CEO and President, Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏の発言を引用しつつ、不動産テック企業の経営層が念頭に置くべきテクノロジーの進化を次のように説明した。

 「ベゾス氏は『今後10年間に何が変わると思うか、頻繁に尋ねられる。しかし、今後10年間に何が変わらないかを問う方が、より重要な知見を得られる可能性が高い』と述べた。また、『多くの調査をする必要はない。通常それは非常にビッグで根本的なもの。自ずと分かるはずだ』とも語った。つまり、テクノロジーに惑わされず物事の本質となる『変わらないもの』に目を向けよう」。

 OYO LIFEは「Quality Living Spaceを提供する」を企業ビジョンに掲げているが「Amazonに近いビジネスモデル」と勝瀬氏は語る。Amazon.comは低価格、迅速な配送、幅広い品揃えを求める顧客需要の具現化に注力しているが、OYO LIFEは「良い場所に快適な住空間を手頃な価格で提供する」ことを実現するため、OYO Hotels and Homesとして各国では主にホテル事業を展開しているにもかかわらず、日本では賃貸ビジネスに着手した。

 その理由について勝瀬氏は「ホテルと賃貸不動産、顧客ニーズを満たすという意味で本質的な差はない」と述べながら、同社設立までの経緯を振り返った。前職でソフトバンクグループ取締役会長の孫正義氏と付き合いのあった勝瀬氏はある日、孫氏から不動産テックに関する質問をされ、説明したところ、2週間後に再び招請を受けたという。

 訪れてみると、そこには孫氏のほかにOYO Hotels&Homes CEOのRitesh Agarwal(リテッシュ・アグルワル)氏も同席。自身のアイデアを話したところ、「素晴らしいアイデアだ。ヒロさん、どうやって始めようか」とAgarwal氏からと言われたという。勝瀬氏は、2018年10月中旬には前職を退職し、12月上旬にはOYO LIFEに参画。「良いものを見つけたらアクセルを踏む」スピード感が重要だと語った。

OYO Hotels&Homes CEOのRitesh Agarwal(リテッシュ・アグルワル)氏についても紹介した
OYO Hotels&Homes CEOのRitesh Agarwal(リテッシュ・アグルワル)氏についても紹介した

ここで「OYO LIFE」のサービス概要を述べておこう。首都圏150以上の駅周辺に多数の賃貸物件を初期費用なしで、家具家電、水道・電気・ガス・インターネットといったインフラと共に提供する。さらに入居者向けに家事代行サービスやカーシェアリング、収納サービスや洋服レンタルなどのサブスクリプションサービスを提供する、「OYO PASSPORT」は現在14カテゴリー、57パートナーまで拡大した。

「OYO LIFE」のビジネスモデル
「OYO LIFE」のビジネスモデル

 このほかにも最短翌日入居や電子契約といった付加価値を持った賃貸物件を1カ月以上~14カ月未満で契約できる利点を持つ。「初期費用や面倒な入退去など、ユーザー負担が大きい賃貸市場を鑑みた」(勝瀬氏)結果をOYO LIFEに持ち寄ったという。

 他方で現在の賃貸不動産業についても、「物件を求めてお店を訪ねても、(不動産物件を直接扱う)元付けに問い合わせが発生する。この時点で在庫管理がなされておらず、顧客の『すぐほしい』を満たしていない。不動産業界はいずれ、なくなることが目に見えている」(勝瀬氏)と苦言を呈した。

 旧来型の物件とマンスリーマンション、OYO LIFEによる1カ月間の費用を比較すると、賃貸物件は61万200円、マンスリーマンションは20万1320円、OYO LIFEは13万4700円だと同社の調査結果を披露。「不動産業は(敷金・礼金や仲介手数料を隠して)賃料だけを提示している」(勝瀬氏)と指摘し、多くの初期費用と賃料、光熱費を定額にすることで、「利用者は限りなくゼロに近い限界費用で、好きな場所に好きなときに移住できる価値を享受できる」(勝瀬氏)と自社サービスをアピールした。

100年後も変わらない顧客の「でかいニーズ」を捕まえる

 周りから「儲かるのか」と尋ねられることが多い勝瀬氏は、賃貸不動産業は借地借家法の関係で賃料未払いでも賃借人を追い出すことはできないものの、厳格な事前審査を行うことでリスクを軽減していると、手法を明かした。

 労働人口減少に伴う空き家問題に対しても、「賃料を貸し付けるサービスが将来的に登場するだろう。翌月や翌々月に支払える目処があれば、消費者金融(年利14.6%の制限が設けられている)というリスク軽減方法もある」(勝瀬氏)と「賃貸不動産と金融の融合」というアイデアを提示した。

 このほかにも定額制の動画配信サービスと安価に契約して「OYOLIFEなら動画配信サービスが見放題」といったビジネスアイデアや、ホテルのように各種サービス料金をチェックアウト時に精算するペイメントゲートウェイに着目し、「不動産事業がトントンでも本ビジネスは大きな利益を得る可能性を持つ」(勝瀬氏)と聴講者に含まれるであろう経営者にビジネスチャンスを提示した。

 最後もベゾス氏の発言「失敗が10億ドル規模でなければ、バットをフルスイングしていないことになる。ビジネスで新しいことを生み出すには、フルスイングしなければならない」「ビジネスを思いついたものの、リスクがなければ、すでに成し遂げられているはずだ。Amazonは今も常にリスクを冒している」を引用しながら、「業界における部分的不便さを解消する不動産テックは、大きな不動産テックに上書きされてしまう。小手先の課題解決ではなく、100年後も変わらない顧客の『でかいニーズ』を捕まえよう。これから不動産テックに関わる経営者は『何のためのテクノロジーなのか』を念頭に、バットをフルスイングしてほしい」(勝瀬氏)と聴講者を鼓舞した。

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