東京都の小池百合子知事は8月29日、次世代通信5Gのインフラ整備を軸とした、東京都のICT戦略「TOKYO Data Highway構想」を発表した。7月から東京都参与に就任した、元ヤフー社長の宮坂学氏も同席し、構想の詳細について説明した。
北京から戻ったばかりという小池氏は、現地で自動運転、顔認証システム、無人コンビニといった先端的のICT事例を視察したことを紹介。「日本でも“Society 5.0”の実現に向けて取り組んでいるが、客観的に見てその歩みは早いとはいえない」と、危機感を示した。
Society 5.0は、IoT、AI、ロボット、自動運転などの技術で社会課題を克服し、イノベーションを通じて一人ひとりが活躍できるスマートな社会のコンセプト。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)を経て、日本が次に目指すべき未来社会として内閣府が提唱している。
一方で「今ならまだ間に合う」とも話し、都としても積極的に取り組まなければならないとの思いからICT戦略策定の特別チームを編成。宮坂氏にも意見を求めながら、インターネットを公共インフラとして捉え、東京に世界最速のモバイルネットワークを作り上げていく「TOKYO Data Highway構想」を取りまとめたという。
TOKYO Data Highway構想では、モバイルネットワークをSociety 5.0実現のための基幹インフラとして位置づけ、その第一歩として5Gネットワークの早期構築に取り組んでいく。「いつの世も優れたインフラは都市の繁栄を支え、都市間競争の決め手となってきた」と小池氏。「1964年の東京大会では首都高や新幹線といったインフラが作られ、これらのレガシーをベースに日本は高度成長への道を歩んできた。2020年の東京大会のレガシーとなるのは目には見えない〝電波の道〟。このレガシーは今後、東京が都市間競争に打ち勝つための礎になる」との思いを語った。
5Gネットワークの早期構築に向けた具体策としてはまず、「モバイル通信キャリアに対する、都が保有するアセットの解放と、利用手続きの簡素化に取り組んでいく」と宮坂氏。アセットには東京都が保有する施設である東京ビックサイトや東京国際フォーラム、都立公園、都道やそこに付随する信号機、バス停、都営地下鉄の駅や地下道などが挙げられる。
これまでも基地局アンテナの設置について、キャリアから相談があった場合は個別に対応してきたが、どこに連絡すればいいかわかりにくかったり、問い合わせ窓口がバラバラだったり、申請手続きが煩雑だったりというような課題があったという。今後は窓口を一本化して申請から承認までをスピードアップするほか、場合によってはキャリア間での基地局アンテナの共有化なども提案していく。そのために近日、キャリア4社と意見交換の場を設け、具体的な要望などを聞く予定だという。
都では5Gのエリアは段階的に拡大していくと考えおり、東京大会の会場とその周辺を最優先エリアと位置付けている。また都庁のお膝元の西新宿地区や都立大学も重点エリアとし、5Gのいち早い整備を目指す予定だ。またアセットの解放でキャリアを後押しするだけでなく、東京都自らもエリア限定で5Gを提供できる「ローカル5G」の免許を申請予定。民間企業やスタートアップとともに、教育、医療、自動運転、防災などの実証実験にも、積極的に取り組んでいく方針を明らかにした。
「〝電波の道〟が道路なら、上を走る車や、道沿いの店にあたるのがサービス。これからいろいろな規制もクリアしていかなければならないが、スタートアップや若い起業家が自由に新しい挑戦ができるような、そんな道路を作っていきたい」と宮坂氏。
さまざまな実証実験を通じて都民の生活をアップデートしていくと同時に、5Gのその先も常に最先端のモバイルネットワーク環境の実現を目指す。「東京を世界中から挑戦者が集まるスマートシティであり、誰もがテクノロジーの恩恵が受けられるダイバーシティであり、また災害などにも強いセーフシティにしていきたい」と意気込みを語った。
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