オンライン学習サービス「資格スクエア」を運営するサイトビジットは7月29日、ウェブ上で編集から締結までを完結できる定型契約締結サービス「NINJA SIGN(ニンジャサイン)」のベータ版を公開した。2カ月間は無料で提供し、10月から有料化して一般公開する。
従来の契約書締結には、作成から確認、印刷して郵送、先方で捺印して1部返送と、印刷代や郵送代、印紙代が必要なほか、契約書作成から締結までに長い時間がかかっていた。また、電子契約サービスが登場してからは、これらの費用は不要になったものの、契約書送付にはPDF変換が必要で、契約内容に修正が入ると、再度オフラインでWordファイルを修正して変換し直す必要があったと、サイトビジット代表取締役社長の鬼頭政人氏は指摘する。
こうした契約にかかる煩わしさがを解消するために、同社が新たに提供するNINJA SIGNは、すでに自社で使っている定型契約書の編集や新規作成、通知、締結、管理などの工程を全てクラウド上で完結できるサービスだ。既存の自社形式の契約書のWordファイルをアップロードするだけで、Google ドキュメント(ウェブ)上で編集ができ、そのまま契約書を送信できる。また、契約書を受信した相手はサービスに登録・ログインすることなく、ボタンひとつで契約を締結できるという。
8月には、ブロックチェーン技術を活用することで、第三者機関の介入の手間を省きかつ、情報改ざんを防げるようになる機能を実装予定。このほか、誰でも簡単に単純作業を自動化できる「Zapier」や、「IFTTT」のような各種クラウドサービスとの連携も予定しているという。
無料ベータ版の利用には申込みが必要となり、Googleアカウントを保有していればすぐに申し込める。7月29日〜9月末までは完全無料で、10月からは無料プラン(契約書締結を月8通まで、作成を月3通まで利用可能)のほか、アカウントごとの課金方式を採用する有料プラン(1アカウント税別2500円から)を用意する。現在、すでに50数社から事前利用申し込みを受けており、2019年内に数千社の導入を目標に掲げる。
米MarketsandMarketsの調査によると、電子署名の市場規模は2018年の12億ドル(約1300億円)から2023年までに55億ドル(約6000億円)に成長すると言われている。また、米大手の「DocuSign(ドキュサイン)」は世界に2億人以上のユーザーを抱えているが、そのうちの約8割が米国のため、すでに多くの米国企業が電子契約サービスを利用している状況だ。
一方で矢野経済研究所によれば、日本では2016年には19億円だった電子契約市場が2022年には74億円を突破すると予想されている。ただし鬼頭氏は、日本の企業数(約385万社)に対して、国内大手の「クラウドサイン」でも導入社数が5万社(2018年8月時点)と全体の1〜2%ほどであることから、まだまだ導入期であると説明。電子契約市場が拡大する数年後の時点で、高いシェアを獲得できるサービスへとNINJA SIGNを成長させたいと意気込む。
ところで、なぜ鬼頭氏はこのタイミングでリーガルテック(法律×IT)の新事業を始めるのか。同社は2013年に創業し、これまで司法試験をはじめとする各種難関資格試験学習サイトである資格スクエアを運営してきた。事業は順調に成長していたものの、「このまま学習サイトを続けていくだけでいいのか」と、2017年ごろから疑問を感じるようになったと鬼頭氏は明かす。
転機が訪れたのは2018年の夏。「ビジョナリー・カンパニー 2」(ジム・コリンズ著)を久しぶりに手に取ったところ、襲いかかってくるキツネに対してひたすら身を守るだけで毎回勝利するハリネズミの寓話によって、1つの物事を突き詰める大切さを説いた“ハリネズミの概念”と、当時の自身の問題意識が重なった。そこで、自らも弁護士であることから、最も情熱を注ぐことができ、国内ではまだテクノロジーの大手企業が本格参入していないリーガルテック領域で世界一になることを決めたと振り返る。
その後、2019年3月をもって、資格スクエア内の簿記や中小企業診断士といった検定を中心とした講座を終了し、25あったカテゴリを法律中心の9つまで絞った。しかし、売上高は下がるどころか前年と比べて70%増と好調だという。資格スクエアにより収益面は安定している。そこで、より企業として成長できる領域にリソースを投下するために、新事業である契約締結サービスを手がけることにしたと鬼頭氏は話す。今後はNINJA SIGNをハブに、リーガルテック領域において存在感を示していきたい考えだ。
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