2011年8月、故Steve Jobs氏がAppleの最高経営責任者(CEO)の職を退いたときには、ひとつの時代が終わったと言われた。米国時間6月27日、同社の最高デザイン責任者であるJony Ive氏が退職を表明したのは、最も新しい、「新たなApple」の兆しだ。
この20年間で、Appleは歴史上まれに見る劇的な復活を遂げてきた。共同創業者Jobs氏のもとで華々しく急成長し、やがて凋落、同氏の追放後には破綻寸前にまで至り、そして生まれ変わったその物語は、シリコンバレー伝説のなかでもひときわ輝いている。
その間、同社の成功にとりわけ貢献してきたとされる2人の人物が、1997年に復帰してAppleを指揮したJobs氏と、その右腕となったIve氏だ。Ive氏のデザイン精神は、「iPhone」をはじめとする、洗練されたミニマリスト的な製品群を生み出す原動力になってきた。
Ive氏とJobs氏は近しい友人関係で、ランチをともにすることも多く、何よりデザイン感覚が似ていた。「私たちは初めて会ったときから、驚くほど、ぴったり馬が合った」と、Ive氏は2017年の貴重なインタビューで語っている。そのパートナーシップこそ、Appleを破滅の淵から救い、Jobs氏が死去する2011年以前に、すでに業界の巨人へと変えた力だった。
Ive氏は、イギリス英語の柔らかい声でApple製ハードウェアの魅力を紹介した数々の動画でも知られているが、その同氏が去ることは、社内で起きている大きい変化の最も新しい兆しと言える。Appleは、世界でも指折りの高収益、高評価の企業となり、iPhoneに後押しされてその時価総額は1兆ドルに迫っている。だが、iPhoneの売り上げも下降に転じ、Appleの不振を喜ぶだろう人も多くいるとはいえ(2019年3月末までの四半期決算では売上高580億ドル、純利益115億ドルにとどまっている)、そうしたハードウェアがすべてを支配する時代は終わったと言えそうだ。
Appleは、今後のことをオープンに語り始めている。
変化の最も大きい兆しが現れたのは、2019年3月に開かれたAppleのイベントで、現CEOのTim Cook氏が、2020年にかけて一連のサブスクリプションサービスを開始しようとしている計画を発表したときだった。新聞雑誌の購読サービス「Apple News+」やApple独自のテレビ番組やドキュメンタリー番組などの配信サービス「Apple TV+」、ゲーミングサービス「Apple Arcade」などだ。このうち、既に始まっているのは月額9.99ドルのApple News+だけだが、他のサービスも2019年の秋には開始予定とされている。驚いたことに、ハードウェアの発表はひとつもなかった。
Cook氏が率いる新しいAppleは、いつも好評価を受けてきたわけではない。ファンたちは、Appleが大きく変わってしまったことに何度も気をもんできた。2012年には、Appleの「マップ」アプリを失敗作となじり、2014年には「iPhone 6」が折れ曲がりやすいと非難しているし、ノートブックの何かと問題な新しいキーボードにも不満の声を上げてきた。
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