だが、Ive氏の退職は、それとは別の話になる。同氏は、これからもAppleと一緒に仕事をする意向を示しているからだ。Ive氏の新しいデザイン会社では、Appleが最初の主要なクライアントの1社になる。しかも、Appleはデバイス群をリリースの1年以上前から計画しているので、店頭に並ぶ次期iPhoneや「iPad」、ヘッドセットには、Apple社員ではなくなるIve氏の影響がまだ残っていることだろう。
「今回の展開は否定的に受け取られているだろうが、Ive氏の退職によるマイナスの影響は、対処可能な範囲に収まるだろうと考えている」と、投資銀行EvercoreのアナリストAmit Daryanani氏は、投資家宛ての覚え書きで書いている。
何より、これほど大騒ぎしたところで、iPhoneが終わるわけでも、Ive氏の伝説が封印されるわけでもない。結局のところ、どのサービスもデバイスと固く結び付いているからだ。人気司会者のOprah Winfreyさんが、自身の番組をApple TV+で提供すると発表したステージで、iPhoneは「十億人のポケットに入っている」と聴衆に向かって語ったほどである。とはいえ、Appleが変わりつつあることは間違いない。
サービスに軸足を移すというのは、これから何年間かのAppleにとって大きな賭けになるが、もちろん同社の動きはそれだけではない。Ive氏が既に手がけていた可能性が高い、ほかのプロジェクトもある。新たに3つ目の背面カメラが付いて2019年後半にリリースされると見込まれる新しいiPhoneや、新型「Apple Watch」などだ。
分野に詳しい筋が2018年に米CNETに語ったところによると、Appleは高性能の無線ヘッドセットも開発中であるという。拡張現実(AR)と仮想現実(VR)の両方に対応する設計で、Apple独自のチップを搭載するデバイスであり、2020年には登場する予定だとされている。
Appleは、ちょうどDrive.aiを買収したばかりでもある。いっときは時価総額2億ドルに達したこともある、自動運転車技術のスタートアップ企業だ。Appleが自動運転車に取り組んでいるといううわさは以前から流れているが、一方では、そのプロジェクトのチームが2019年に入って縮小されたという話も出ている。
そうした状況で、Appleと、新会社でもまだ関係が続くことになっているIve氏とがどこに向かうのかは、はっきりしない。ひとつだけ確実に言えるのは、アナリストもAppleウォッチャーも、Ive氏が確実にAppleを去るものと見なしていることだ。
「Ive氏が、独立したデザイン会社としてAppleの仕事を今後も続けていくという見方は、純粋に都合の良い解釈のように思える。結局は、Appleにとどまるか、とどまらないかであり、Ive氏は去るのだ」、とApple評論家としての経験が長いJohn Gruber氏は、そう指摘している。
金融サービス企業WedbushのアナリストDaniel Ives氏もこの点は同じ意見で、投資家への手紙でこう書いている。「Ive氏の退職でAppleに空く穴は、埋めようがない。同氏は過去数十年のAppleで最も重要な人物の1人だったからだ。Ive氏の影響は、Appleの中核的なDNAに深く刻み込まれている。これからの最大の問題は、Appleブランドの重要なビジョナリーが去った後で、製品のイノベーションがどうなっていくかだろう」
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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