ソフトバンクとグーグル兄弟会社が提携--成層圏の“空飛ぶ基地局“を実用化へ

 ソフトバンクは4月25日、 AeroVironment, Incと設立した合弁会社「HAPSモバイル」を通して、成層圏通信プラットフォーム「HAPS(High Altitude Platform Station)」を活用した事業を展開すると発表した。またHAPSモバイルは、米国でHAPS事業を展開する、グーグルの親会社であるアルファベット傘下のLOONと戦略的関係を構築するとともに、資本提携すると発表した。

 HAPSは、地上約20km以上の成層圏に無人航空機を飛ばし、広域のエリアに通信サービスを提供できるシステム概念。高高度に基地局を配置することで、山間部や離島、発展途上国でも、安定的な通信を提供する。HAPSモバイルは成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「HAWK30」を開発し、HAPS事業に活用する。

成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「HAWK30」
成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「HAWK30」

 HAWK30は、全長約78mの機体。10個のプロペラで高度約20kmを時速約110kmで飛行する。通信サービスを提供できる範囲は、1機で半径約200km。日本全国をカバーするには、約40機を飛行させる必要があるという。太陽光パネルを搭載しているため燃料補給は不要で、6か月間連続してフライトできる。「30」は北緯・南緯30度まで飛行可能なことを示すもの。太陽光パネルの性能により、飛行可能なエリアが限られるという。

1機で半径約200km、約40機で日本全体がカバーできる
1機で半径約200km、約40機で日本全体がカバーできる

世界37億人がインターネットに接続できない

 ソフトバンクの代表取締役 副社長執行役員兼CTOで、HAPSモバイル代表取締役CEOも務める宮川潤一氏によると、世界では人類の半数近く、約37億人がインターネットに接続できない環境にいるという。宮川氏は「生まれる場所が異なっても、平等にインターネットに接続できる環境を作りたい」と語った。

 宮川氏によると、HAPS事業への参入に至ったきっかけは、2011年の東日本大震災だという。ソフトバンクは災害対策として、従前の移動基地局に加え、係留気球型の無線中継システムを2011年に開発した。しかしこのシステムは、台風襲来直後のような強風の環境下では使用できないなどの制約があるという。

ソフトバンクが2011年に開発した、係留気球型の無線中継システム
ソフトバンクが2011年に開発した、係留気球型の無線中継システム

 そこでソフトバンクが注目したのが、成層圏だ。成層圏では気流が穏やかで、安定した飛行ができる。また、地上の状況に左右されないため、災害発生時にも安定した通信サービスの提供が可能となる。従来の衛星通信と異なり、通常の端末でサービスが利用できるため、通信エリアの拡充にも寄与する。これまで通信エリアの拡大に際しては、「ほんの少しのエリアに対して地上局を設置していた」(宮川氏)が、今後5Gを展開するに際しては、過疎地などではHAPSを活用することも考えられるという。

 電波の減衰については、ビルや山地のような障害物が無いため、地上局よりも少ないという。ただ、使用する周波数帯の関係上、悪天候時には減衰が発生する。この点について宮川氏は、人工衛星を活用したサービスで培った知見を生かし、解決するとしている。

 HAWK30の実用化に際しては、型式証明や耐空証明といった、航空法で定められた手続きを踏む必要がある。宮川氏は「実験は可能だが、商用化には時間が必要」だとし、HAWK30を活用したHAPS事業は2023年より開始する見込みだと説明した。さらに宮川氏は、「HAWK30の実用化後には、北緯・南緯50度まで飛行可能な『HAWK50』を導入する」と、次段階のステップについても言及した。

飛行可能エリアを広げた次世代機にも言及
飛行可能エリアを広げた次世代機にも言及

グーグルのグループ会社LOONと提携

 またHAPSモバイルは、グーグルの親会社であるアルファベット傘下のLOONと提携すると発表した。気流予測AIを用いた気球型のHAPSを開発しているLOON。HAPSモバイルはLOONに対し、1億2500万ドルを出資する。またLOON側も、HAPSモバイルに対して同額の投資権利を獲得する。ホールセール事業やペイロードの共同開発、地上ゲートウェイの統合など、両者の事業領域において協業することも目指す。

LOON CEOのアラスタ・ウェストガース氏(左)と、ソフトバンクの代表取締役 副社長執行役員兼CTOで、HAPSモバイル代表取締役CEOも務める宮川潤一氏(右)
LOON CEOのアラスタ・ウェストガース氏(左)と、ソフトバンクの代表取締役 副社長執行役員兼CTOで、HAPSモバイル代表取締役CEOも務める宮川潤一氏(右)

 提携の理由について宮川氏は、「人類にとって大きな挑戦であり、目指す方向性も同じ。そして、成層圏通信をより早く、より広く世界中で実現するため」と説明。「一社だけで独占しようという事業ではない。多くの人々がインターネットに接続でき、われわれ通信事業者にもメリットがある」と、それぞれが手を組む必要性を語った。また、LOONが持つ成層圏でのビッグデータを活用することで、HAPSモバイルの事業展開が有利になるとも述べた。

 HAPSモバイルは、HAWK30の実用化に先立ち、LOONのバルーンを使用することで、2019年内にもHAPS事業に関する事例をいくつか展開できる見込みだという。宮川氏は、HAPS事業に参入することで、「世界のモバイルネットワークに革命を起こす」との意気込みを見せた。

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