関西電力とDeNA、火力発電の燃料運用をAIで最適化--舞鶴発電所を取材

 関西電力とディー・エヌ・エー(DeNA)は2月、石炭火力発電所の燃料運用を最適化するAIソリューションを共同開発し、外販ビジネスに向けた協業に基本合意した。これまでベテランが手掛けてきた燃料運用のスケジュール制作をAIで効率化し、実際に火力発電所で検証したのち、構築された新たなノウハウをその他の火力発電所へ外販するとしている。筆者は実際に、関西電力唯一の石炭火力発電所である舞鶴発電所を取材した。

京都府北部の日本海側にある舞鶴発電所は関西電力唯一の石炭火力発電所でもある
京都府北部の日本海側にある舞鶴発電所は関西電力唯一の石炭火力発電所でもある

 デジタルトランスフォーメーションに力を入れる関西電力では、最新のAIやIoTを取り入れた発電設備の運用ノウハウの開発に取り組み、自社で活用するだけでなく、新たなサービスや製品として販売することを進めている。AIに関しては2年ほど前から社内で人材を教育し、外部の専門家とも連携してそれぞれの得意分野を生かす形での協業を進めている。今回、DeNAと構築したのは、舞鶴発電所で燃料の石炭を運用するスケジュールを設計するシステムだ。

 発電所は安定供給と経済面から様々な方法や燃料で発電をしており、火力発電所だけでも石炭、石油、LNG(液化天然ガス)などがある。舞鶴発電所は1号が2004年、2号が2010年に営業運転がはじまり、自然を生かした省スペースを活用し、バイオマス燃料を混燃することでCO2排出量を抑え、環境に配慮するなど最先端の設備を取り入れている。

 燃料となる石炭は、オーストラリアを始めとする様々な国から調達され、輸送船で発電所に運びこまれ、サイロで一旦貯蔵される。大量の石炭を船からバースと呼ばれる箇所を経由してサイロへ移すだけでも3日ほど必要で、さらにボイラで燃焼するために細かく加工したり、温度にムラができないよう石炭の種類を調整するといった作業も必要になる。舞鶴発電所の目標電力である90万キロワットを発電し続けるには、そうした作業を逆算しつつ安定した運用ができるよう、ベテランの経験やノウハウによる調達スケジュールの作成が不可欠となる。

輸送船で運ばれた石炭はバースからサイロへ運ばれたのち加工されてボイラで燃やされる
輸送船で運ばれた石炭はバースからサイロへ運ばれたのち加工されてボイラで燃やされる

巨大なサイロにどの石炭をどれだけ貯蔵しておくかを計算するには複雑で時間のかかる作業が必要だった
巨大なサイロにどの石炭をどれだけ貯蔵しておくかを計算するには複雑で時間のかかる作業が必要だった

 ベテランの力があればスケジュール作成はできる。だが、石炭の質や価格、運搬時間や気象条件など変動要素があまりにも多く、4カ月先までスケジューリングしなければならないため、作業にはかなり時間がとられていた。そこで考えたのがAIの活用だ。複雑で細かい要素の計算はAI向きで、外部で対応できる依頼先を検討していたところDeNAから具体的な提案があり、プロジェクトが始まったという。舞鶴発電所では発電工程の一部をIT化したことが効果を上げつつあり、AI導入にはそれほど抵抗がなく、具体的な効果が出せるという判断もある程度できていたことから話は順調に進んだという。

 DeNA側もエンターティンメントやヘルスケア分野などを手掛けてきたAI部門で、新規に開拓できる分野を拡げようとしていたタイミングだった。担当したAI戦略推進室シニアマネジャーの永田健太郎氏は、「正直なところ不安はあった。火力発電所の仕組みを一から勉強するところからスタートしたが、話を聞けば聞くほど変動要素が多く、人の手だけで検討するのは難しいことがわかり、だからこそAIで効果が出せると感じた。想定されるパターンの中から目指す目標に向けてより良いスケジュールを組み立てることに、ゲームのアルゴリズムを応用できるのではないかと考えた」と振り返る。

システム図
システム図

 関西電力が設定した課題や運用条件に基づいたアルゴリズムをDeNAが開発することになり、DeNA側ではまず漠然とした状態にある問題に対して解決方法をデータサイエンティストのグループに相談した。それから対応できるスキルを持つスタッフをスケジュールにあわせて3名選び、4名が専任する形で取り組んだ。

 ポイントは全てをAI化するのではなく、面倒な部分だけAIに任せて最終判断はベテランに委ねるという半自動化にすることだった。これまで数日かかっていた作業が数分で終わるだけでなく、AIの提案をベテランが検討してさらに質の高いスケジュールが組める可能性も見えてきた。驚くのは開発スピードで、東京と舞鶴で距離があるため打ち合わせのほとんどをオンライン会議とチャットにしたところ、作業効率があがり、プロジェクト開始から約3カ月という早さでシステムを構築できたという。

 現在システムはアセスメントの段階に入っており、2019年内いっぱいは実用化の検証をする予定だという。構築されたアルゴリズムは、原材料の受入れから製品生産までのプロセスを持つ幅広い分野でのスケジューリング作成に適用が期待できるため、火力発電所の新設プロジェクトの基本計画から運転開始後の設備運用保守システムを提供する関西電力の「K-VaCS(Kansai-Value Creation Service/ケイバックス)」のサービスの1つとして、2020年代前半を目標に両者でビジネス化を進めている。

安定した電力を低価格で供給するため火力発電所のあらゆる部分でデジタル化が進められている
安定した電力を低価格で供給するため火力発電所のあらゆる部分でデジタル化が進められている

 関西電力では他にもIoTやドローンの活用などのデジタル化も進めており、そうしたところでも両者の協業が進むかもしれない。

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