AIベンチャー「Ridge-i」に官民ファンドらが7.5億円を出資--“宇宙データ”解析も視野に

 Ridge-iは4月4日、INCJ、荏原製作所、リコーから最大で約7億5000万円の資金を調達したと発表した。調達した資金は(1)事業の強化とソリューション提供の加速化、(2)研究開発対象と環境の拡充、(3)優秀な人材の活用の3領域に投資し、事業規模拡大を図る。

左からINCJ ベンチャー・グロース投資グループ ディレクターの西村竜彦氏、Ridge-i 代表取締役社長の柳原尚史氏、荏原製作所 グループ経営戦略統括部開発推進部 担当部長の杉谷周彦氏
左からINCJ ベンチャー・グロース投資グループ ディレクターの西村竜彦氏、Ridge-i 代表取締役社長の柳原尚史氏、荏原製作所 グループ経営戦略統括部開発推進部 担当部長の杉谷周彦氏

 Ridge-iは、2016年7月創業のAIベンチャー。従業員21名のうち約半数が機械学習や深層学習のエンジニアで、ほかはボストンコンサルティンググループなどのコンサルティングファーム出身のコンサルタントだ。ちなみに、INCJは2018年9月に、産業革新機構から分割の形で発足した官民ファンドだ。

技術とビジネスの最適なバランスを見つけ出す

 今回の第三者割当増資では、INCJが最大で5億5000万円を出資し、荏原製作所とリコーはそれぞれ1億円を出資する。また、荏原製作所とリコーはそれぞれRidge-iと業務提携を始めた。この提携で、荏原製作所はグループ全体でのAI、IoT活用に関する企画と開発にRidge-iと共同で取り組み、(1)製品の外観検査、(2)製造工程の最適化と操業時の安全性向上、(3)機械の運転タイミングの最適化、の3項目の課題に取り組む。

 リコーは、自社の光学技術、画像処理技術、ハードウェア開発製造に関する実績と、Ridge-iのAIによる画像処理技術と課題解決の力を組み合わせて、製品外観検査の省力化や自動化を支援するシステムの開発を目指す。

 INCJ ベンチャー・グロース投資グループ ディレクターの西村竜彦氏は、Ridge-iへの出資に至った要因を3つ挙げた。1つ目は代表取締役社長である柳原尚史氏のリーダーシップと、優秀な人材が揃っていること。2つ目はエンジニアやコンサルタントが学び合う環境があり、それが実績につながっていること。3つ目は学術論文の発表など、最新の技術動向をしっかり捉えながら、一方で顧客に徹底的に向き合っている点だ。

INCJ ベンチャー・グロース投資グループ ディレクターの西村竜彦氏
INCJ ベンチャー・グロース投資グループ ディレクターの西村竜彦氏

 続いて壇上に上がったRidge-iの柳原氏は、同社の特徴として「ビジネスと技術の最適なバランスを見つけ出す」ことを重視している点を挙げた。そして、これまでの経験から「技術者は技術を究めようという思いは強いが、それをビジネスにどのように活用するかを考えることがあまりない。一方でビジネスを担当する側は技術を上手く使いこなしたいと思っているが、技術をきちんと理解することが難しい。そのため、技術をビジネスにおける課題に当てはめることが難しい」という課題があると述べた。

 Ridge-iでは最高の技術を使って、顧客のビジネスを成功に導くことを目指しているという。同社は、画像技術認識コンテストで2位に輝いた人物など、優秀なエンジニアと、ボストンコンサルティンググループなどでビジネス上の難しい課題を解決してきた優秀なコンサルタントを擁しており、「ビジネスと技術の最適なバランスを見つけ出す」態勢が整っていると柳原社長はアピールした。

Ridge-i 代表取締役社長の柳原尚史氏
Ridge-i 代表取締役社長の柳原尚史氏

日本のGDPの大部分を占める業界でAI活用を推進する

 そしてRidge-iでは現在、製造業、サービス業、建設業など、日本のGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)の半分以上を占める業界でAIの活用を進めていくことに注力しているという。

 柳原社長は日本のAI導入率がわずか1.8%にとどまり、米国(13.3%)やドイツ(4.9%)といった先進国と比べてまだまだ低いという点と、日本でAIを導入している企業の大部分が、金融業と情報通信業であることを指摘した。そして、製造業、サービス業、建設業など、日本のGDPの大部分を占めている業界ではほとんどAIの活用が進んでいないという。柳原社長はこの事実を非常にもったいないことと評し、同時に社会的影響が大きい業界がまだまだ未開拓であり、大きな可能性があるということを強調した。

 そして、日本におけるAI活用を妨げる2つの問題を挙げた。1つ目は「AI」という言葉の定義がどんどんあいまいになっていること。AIは統計解析、機械学習、深層学習といった技術の総称だが、AIを構成する要素についての理解が進んでいない。そのため、ビジネスに活用する際にどのような技術を選ぶかという点で混乱してしまうことが多いという。

 もう1つは、AIだけで課題を解決しようと思ってしまう企業が多いこと。柳原社長は「既存のシステムでできることと、AIシステムでしかできないことは異なる。それぞれ長所と短所がある」と指摘し、Ridge-iでは双方を上手く組み合わせることを重視していると語った。

 上記2つの問題を踏まえて、Ridge-iでは開発プロジェクト開始前に意思決定者である経営層に、Ridge-iが提供する技術の内容についてしっかり説明する機会を設けているという。さらに、開発前の「開発アセスメント」の段階で「どういう課題を解決したいのか」を明確にする作業を重視しているという。「AIを導入したい」という単純な考えでは何も上手くいかないということだ。

プロジェクト開始前に、Ridge-iが提供する技術の内容についてしっかり理解してもらい、共通の認識を持ってもらう
プロジェクト開始前に、Ridge-iが提供する技術の内容についてしっかり理解してもらい、共通の認識を持ってもらう

 そして、開発アセスメントの「AIパイロット検証」の段階では、明確になった課題を解決する手段として、AIだけでなく、既存システムなども選択肢に入れて、どのように開発するのかを検証する。この段階ではやってみないと分からないことが多いため、開発と検証をアジャイル開発手法で速く回していくという。最適な方法が見つかり、投資対効果が顧客の期待に添うものならばそれを顧客と確認し合い、本格的なシステム開発に入る。

 このように開発を進めるRidge-iのAIシステムの一例として柳原社長は、NHKの「自動彩色AI」を挙げた。これはモノクロ動画をカラー動画にするものだ。どうがの最初のフレームのみ人手で彩色し、残りのフレームは深層学習を利用して自動的に彩色する。このシステムで彩色した動画はすでに何件かNHKが放映している。

今後は「宇宙データ」の解析も視野に

 柳原社長は今後期待する事業として、宇宙にある人工衛星が送信してくるレーダーや画像、位置情報などのデータ解析を挙げた。人工衛星のデータは「未解析」であり「大量に発生する」という点で、深層学習との相性が非常に良いと柳原社長は語り、未開拓の分野に期待をにじませた。

 そして、今回出資に応じたINCJは4月3日にJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)との連携を発表している。INCJが投資した宇宙関係のベンチャーをJAXAに紹介し、協業に結びつけるのが連携の狙いだ。INCJの西村氏は「JAXAとの連携でも、Ridge-iには期待している」と語った。今後Ridge-iとJAXAが協業することも十分あり得るという。

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