今から30年前、Tim Berners-Leeという名前の若きコンピュータサイエンティストが、異なるコンピュータ間での情報共有を可能にするインターネットベースのハイパーリンクシステムを提案し、人々のコミュニケーションのとり方やネットの使い方を永遠に変えた。
後にワールドワイドウェブ(WWW)として知られるようになるこの技術を支える理念は、当初はシンプルで高尚なものだったと、Berners-Lee氏は米国時間3月5日、WWWの誕生30周年を記念するイベントで観衆に語った。ウェブの狙いは、世界中の人々が協力して、世界の諸問題を解決できるようにすることにあった。
The Washington PostがワシントンDCにある本社で開催した同イベントで、Berners-Lee氏は、次のように語った。「気候変動やがんの治癒といった大きな問題が存在するにもかかわらず、それを解決するために必要な情報がいろいろな人の脳内に散らばっている、という状況を想像してみてほしい。それらすべての人々をつなぐことがウェブの目標だった」
しかし、それから30年を経た今、Berners-Lee氏によると、ウェブは「悪用者たちに乗っ取られて」おり、彼らに破壊される可能性もあるという。ウェブは、偽情報が伝染病のように蔓延し、憎しみが助長され、そして個人情報が、手っ取り早く金儲けをしようと、その情報に大金を支払う人々に渡されてしまうプラットフォームへと変貌してしまった。
63歳になった同氏は、自分が発明に携わったオンラインの世界を修復しようと取り組んでいるという。
1989年3月12日、スイスにある物理学研究所の欧州原子核研究機構(CERN)で働いていたBerners-Lee氏は、研究者たちが複雑な粒子加速器の研究を世界中からできるようにしようと、「すべてがリンクされた情報システム」を発表した。
ウェブは当初、ユーザーとして学者や科学者を想定していたが、数年以内にその範囲をはるかに超えて広まった。当時は斬新だったハイパーリンクという概念の登場と、ネットワークの基盤となるプロトコルをオープンで無料のままにしておくという約束のおかげで、人々はリンクをクリックするだけで、情報をインターネット上で共有することができた。
分散型で、許可を必要とすることなく情報を共有できるというこのアイデアは革命的だった。当時、テクノロジストたちはまだ、データを保存するためのメインフレームを構築していた。
「すべてのものを自分のマシンに移すべきだと考える人たちがいた。彼らは、皆が自分たちのやり方でやらなければならないと考えることに、多くの時間を費やしていた。人々がこれらのシステムを歓迎しなかったのは、こうした人たちが自分たち独自の構造で人々を管理したいと考えたからだ」(Berners-Lee氏)
ハイパーリンクによって、自分の情報を好きなように分類して整理し、簡単に共有することも可能になった。ウェブの誕生は世界的な技術革命を引き起こし、今日では無数の企業が依存する経済そのものを生み出した。このシステムが提案されてから30年が経過した現在では、世界人口の半分がオンラインに接続しており、20億近くのウェブサイトが存在している。
しかし、ウェブが繁栄できたのは、CERNが1993年に、ハイパーテキスト転送プロトコル(HTTP)を無料でオープンなままにしておくことを決定したからだ。Berners-Lee氏は、HTTPのライバルだった「Gopher」プロトコルについて、ミネソタ大学がライセンス料を請求すると発表した後、いかに衰退していったかを説明してくれた。
「私はいまだに大富豪ではないが、それで問題ない。そうでなければ、ウェブは存在しなかっただろう」(同氏)
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