成績を“2倍”にするAI教材「atama+」はいかにして生まれたか--稲田代表が考える新規事業 - (page 2)

atama plusを創業し、わずか3カ月でサービス開発

 そこからatama plusの創業につながったのだが、起業した理由は、三井物産には新規事業立ち上げに活用できるリソースは多いものの、ゼロから新しい教育を作り、教育を改革するという夢を実現するためには自分で会社を作ったほうが早いとの思いからだった。

 会社は、大学の同級生2人に声をかけて3人で作った。その際あらゆるベンチャー起業専門家に「共同創業は失敗する」と止められたそうだが、「調べてみたら米国では推奨されている。人生の半分以上を共に過ごしてきて信頼できる人との共同創業は、何でも言い合えるので良い」と、稲田氏は気心の知れた人間との共同創業を勧める。現在従業員は約50人で、「2018年から従業員は倍以上に増えていて、毎日面接をしている状態」(稲田氏)と急速に成長している。

 atama+のファーストユーザーはZ会で、まず紙で作って生徒の反応を見ながら開発し、3カ月でローンチした。同社では「アジャイル開発」を採用している。「世界では当り前だが日本ではあまりやっていない。SaaSモデルではこちらが主流」(稲田氏)というサービス開発手法だ。従来型の開発は、例えばサービスを作ろうとしたときにビジネス側の人間が会議室で議論をしながら仕様を考え、SI会社に委託してSEが作る「ウォーターフォール型」というもの。それに対しアジャイル型開発は、不完全でもできるだけ早くローンチしてフィードバックを得ながら改善することを繰り返して開発するという形だ。

キャプション

 「本当のニーズはお客さんが知っているもので、会議室でディスカッションしても見えてこない。仕様書の作りこみに時間をかけずできるだけ小さく作って早くリリースし、フィードバックを得て改善、改善で進めていくのでユーザーニーズに沿える」(稲田氏)。

 このほかに、直接最終ユーザーからのフィードバックを得るために創業して半年間、稲田氏は週1回塾講師バイトをして教えることをしていたという。今でもエンジニアやデザイナーと一緒に塾現場に行ってどう使うのか観察し、サービス開発につなげている。「新規事業は現場から生まれる。自分自身に現場の感覚がなくなったら新規事業を作れなくなる」というのが稲田氏の信念だ。

 その結果、生徒の反応は良いという。AI・タブレットによる学習に、「こういう新しい勉強法がある」と素直に取り組んでくれるそうだが、障害になるのは「勉強は紙と鉛筆でするもの」という固定概念がある親の意識だという。ただ、1度使ってもらうと成績が上がることがわかり満足してもらえるため、今後の普及に向けてそれほどの障壁にはならないとみている。

 「できるだけ良い教育をできるだけ多くの人に提供していきたい。現在は基礎学力習得にかかる時間を短くする教材を中高生向けの塾に提供しているところ。次の一手は、もともとやりたかった社会でいきる力を身に着けるためのサービスを提供していきたい」(稲田氏)。

教育で“お金儲け”をする難しさ

 ここでモデレータの藤井が、EdTech企業を取材している中で、日本は教育で金儲けするのはどうかという風潮があり、EdTechベンチャーがマネタイズで苦戦している現状を指摘。これに対し稲田氏は、「お金儲けというより、世の中の仕組みを変えることをやっていけば受け入れられる。いい世の中を作れば対価はついてくる」との認識を示す。

 「EdTechは儲からないとよく言われるが、教育マーケット自体はグローバルでみれば自動車よりも大きい。日本は米国、中国に続き世界で3位のマーケット。米中ではEdTechという言葉が乱立していて、FinTechよりも先に出てきたほどでプレーヤーも多いが、日本はITインフラがすごく整っているのにプレーヤーが少ない特異なマーケットだと思う」(稲田氏)。

日本とグローバルの教育市場
日本とグローバルの教育市場

 atama plusは、ペインポイントを見て一番効果が大きい学習塾マーケットからビジネスを始めているのだという。塾が一番困っているのは講師が足りないこと。個別指導が主流になっていて大学生講師を獲得しなければならないが、昨今はアルバイトが集まりにくい。そもそも地方は大学生自体があまりいない。大きな問題を抱えている領域なので、ビジネスが順調に推移している。

 その先にはさらに大きな義務教育市場が見えてくるが、稲田氏は「日本の教育モデルはトラディショナルでなかなか変わりづらいと思うが、塾予備校で変わったとなると、意外とその先の教育マーケットも変わっていくのでは」との見方を示す。

社内と起業、それぞれのメリット・デメリット

 最後に稲田氏は、社内での新規事業立ち上げと、起業という両方の経験を踏まえて、「人」「金」「業界知見」という3つの軸でそれぞれのメリットとデメリットについて解説した。

 人の面では、大企業で新規事業を作るには、いいチームを作れるならいいが、人事部からアサインされた人や、やる気のない人とやらなければならないこともある。これに対し起業する場合は、リクルーティングは大変だが同じビジョンに共感した人とできるので、人集めという部分で起業の方が良いと話す。

 お金の面では、大企業は最初から予算はあまりつかず、ウェブのサービスを作る場合などは、起業の方が集まりやすい。現在は様々なベンチャーキャピタルもあるため、しっかりとしたアイデアと人集めができれば資金調達もしやすいという。業界知見については、すでに社内に存在する領域であれば大企業で実施した方が良いとした。

大企業での新規事業と起業の比較
大企業での新規事業と起業の比較

 ただし、「どんなに人・金・業界知見があったところで命かけるぐらいのビジョン、パッションがないとできない」と重要なポイントを指摘する。「新規事業は、いろんな人を巻き込んでいかないとできない。すべての原点はその人のビジョンやパッション」(稲田氏)だとした。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]